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林間学校一日目

 いよいよ林間学校の日となった。


 あの破壊する試験はどこまで伸びたか調べることになった。

 その結果で授業が身になっているのか確かめられるということだ。

 僕の、とは言いたくないけど、確実に影響を受けて授業内容が変わってるからね。


 特に魔法の実技や知識に関しては威力や使うこと重視から、初歩の魔法と魔力操作を入念に行うようになった。

 瞑想については教えてないけど、一学期の間は魔法を使うことよりも魔力操作をするようになっている。


 遊びながらがモットーだからそれ用の魔道具を作った。

 魔石が無くて自分が魔石代わりになるんだ。

 上手く魔力を流せば効果が高くなるって感じ。

 点数が出たり、照明が点いたり、二人組で行うのもある。

 結構楽しんでやっているみたいだ。



 試験のことは置いておき、今は林間学校の方だ。


「今年は大丈夫だったね。無いとは思ってたけどドキドキしてたんだ」

「一応見に帰ったからね。呆れてたけど、嬉しそうだったね」


 少しトラウマになりかけていた。


「今年はなんかワクワクするな!」

「そうね! 私はドキドキかもしれないけど」

「僕もドキドキですね」

「私はシュン様が何をするのか少し興味がありつつも怖いです」


 怖いって何?


「まあ、シュンだからな。安全・安定・安心はあるかもしれないが」

「同時に何をするのか分からない未知が怖いわ」


 それかい!

 僕だって常識の範囲で動くよ!

 だから収納袋だって使わないし、使いたい調理器具だって持ってきてないんじゃないか。


「シュン君、私が駄目っていたことはやっちゃ駄目だよ?」

「フィノ!?」

「だって、周りの人が出来ないことを平然とやるんだもん。快適なのは良いけど、皆で苦労するのも良いと思うの」


 た、確かに。

 僕一人でしなかったらいいってことね。

 皆で乗り切るのも大切なんだ。


「そういうことだよ」


 相変わらず心が読まれている。

 もう慣れたからね。

 断じて諦めたわけじゃない。




 林間学校で訪れる場所は何度も言うけど自然豊かで、低ランクの魔物や動物が住む山というより森が近い。

 管理されているから僕達が取り過ぎても大丈夫だし、雇われた人が監視もしているからそれほど危険性はない。


 移動はそれなりに距離があるから馬車移動で、途中から訓練として身体強化を施した徒歩、若しくは走って向かう。

 空を飛んでいく生徒もいるみたいだけど、この時点でパーティー行動が出来ないと減点だね。


「聞いていた通り豊富な山だね。いたる所に薬草や食材があるよ」

「どうしてこんなに豊富なのかな? 旬があるんだよね?」

「シュン?」


 いや、僕のことじゃないから。


「そうじゃなくて、旬ってのは食材が一番新鮮で美味しく食べられる時期のことだよ」

「そういえば時期によって安くなる奴とか、逆に高くなる奴もあるもんな」

「じゃあ、どうして豊富にあるっていうの?」


 それはよく分からないんだけどね……。

 多分、その土地柄だったり、魔力が関係したりしてるんじゃないかな。

 迷宮はいろんなものが関係なくあるし、薬草とかは魔力が関係しているはずだ。

 そうじゃないと地球にも同じようなのが無いとおかしいもん。

 同じ野菜や魚とかあるんだから、それ以外はそうとしか思えないでしょ。


 独自の進化ってのもあるけどね。


「この辺りは四季があるからね。その影響も受けて豊富なんだと思う」


 まあ、その辺りは定かじゃないから何とも言えない。

 僕は製作者であって、研究者じゃないからね。

 こういうことはアルカナさんに任せた方が有意義な研究をしてくれると思う。




 お尻が痛いから風魔法のエアクッションで守り、乗っている皆にその魔法を教えながら進むこと二時間。


 魔物の襲撃はほとんどなく、道すがら発見した物を皆に説明しながら向かった。

 薬草一つでも作り方が変われば引き出せる効果が変わり、採取一つでも土ごと取った方が良いものだってあるからだ。

 魔力を籠める製法は教えないけどね。


 さらに徒歩一時間の距離を三十分ほどで向かうと、学園の本校舎程ではないが大きな二階建ての建物とグラウンドが見えてきた。


「やっと着いたぜ!」

「へばったんじゃないでしょうね?」

「馬鹿言うな! でも、腹は減ったな」


 そう言えば、そろそろお昼か。

 スケジュールでは着いたパーティーから荷物を置き、自分達のスペースを確保するんだったと思う。

 自主性に任せ過ぎと思うかもしれないけど、文化祭でもこんな感じだった。

 前世と同じと思ったらだめだってことだね。


「僕達はよく分からないから案内を頼むよ」

「そうですね。では、いったん男女に別れ、必要な道具を持って去年と同じ場所に集合しましょう」


 分かってたけど男女別のようだ。

 女子は二階、男子は一階ね。

 別に覗きたかったとかはないよ?

 フィノとは一緒の部屋で寝泊まりしたこととかあるし……だからといってまだ『あーん』以上のことはしたことないから!

 人工呼吸はノーカンだ!




 食事は基本的に外で行うようだ。

 雨が降ればその限りじゃないみたいなんだけど、ノール学園長がどうにかするらしい。

 去年は僕が懸念のありそうな雨雲を散らしたからね。

 今回はなかったから何もしていない。


「ここが集合場所? 結構良い所に構えたんだね」


 川辺や山奥でのキャンプってわけじゃないから場所は良いんだけど、夏前だから暑くなるんだ。

 特に昼頃は汗も掻くほどで、僕達は半袖だけどフィノ達は長袖だからね。

 木陰で、地面は程よく、風通りの良い場所ってのはね。


「去年は競争して向かいましたからね」

「レンは遅かったが、もう誰が勝ってもおかしくないな」

「シュン様は別ですけど」


 そりゃそうだろうね。


「ま、そんなことよりもさっさと準備しようぜ。一時くらいから何か始まるはずだからよ」

「ノール学園長が考えたレクリエーションだよね。去年は何したの?」

「去年はクジで決めたパーティー同士での探索です。学年もバラバラで今の二年生のパーティーと組みました」

「で、学園が隠した宝箱を見つけてそのお題の品を持ってくるんだ。俺達は回復効果のある薬草だった」


 それならいたる所にあったから大丈夫だったんだろう。

 一年の時は薬草を知らなかったかもしれないけど、レンやクラーラは知っていたと思う。

 二年と組んだのなら薬草学で学んでもいただろうしね。

 問題は相性とかだ。


「先輩達は良い人だったぜ。フィノがいないことに残念がってたような、少し安堵したような感じだったけどな」

「皆僕と同じで平民だったみたいですし」


 それは良かった。

 意外にこの学園は平民での生徒が多くいるからね。

 平民は固まったパーティーになるだろうし、貴族と一緒になったパーティーは貴族が気にしないタイプだと思う。

 まあ、絶対じゃないけどね。


「遅れてごめんね。待たせちゃった?」

「いや、待ってないよ。早速準備しようと思ってたところ」

「そっか、じゃ直ぐに準備しよ」


 まるでデートの待ち合わせの様なやり取りだった。

 何か、こう、くるものがあるね。


「あれが出来る男のセリフか」

「アルなら遅いって言ってるわね」

「実際待ってないですけどね」

「それでも言われたいものですよ」


 ……。

 ま、まあ、準備しよう。


「準備するのはまず竈。これが無いと始まらないね」


 竈作りは久々だけど、土魔法でちょちょいのちょいだ。

 火魔法を付与することで耐火性を上げて、土も少し圧縮して作る。

 外見も少し凝ってみたりしてっと。


「私はテーブルと椅子を作るね」

「それなら練習として木魔法を使いなよ。時間もあるし細かいところまでこだわってね」

「分かった。可愛いデザインにするね」


 その間に鞄から食材を取り出す。

 秘密だけど見た目より少しだけ多くの物が入るようになってる。

 もう一度言うけど秘密だよ。


「カレーは夕飯として、昼は軽い物でいいかな」


 このあと動くことになりそうだし、パスタにしよう。

 魔力さえあれば薪なんていらないし、大きめの鍋なんて土魔法で作ればいい。

 まあ、汚いかもしれないから、土は魔力で無理やる作り出して内側に金属を張り付けたけど。

 魔力を一万近く使うとんでも魔法だ。


 あと、来る時に見つけた果物も使って、フルーツジュールも作ろう。

 水魔法で水分だけを取り出して、味を調整する。

 今思えば牛乳とか水分を蒸発させて粉として持ってくればよかった。

 それなら嵩張らなかったしね。


「……止める暇もないとはこのことだわ」

「……有難いですけど、フィノリア様も大概です」

「……シュン様が一番あれですから、フィノリア様は普通だとか思っているのではないでしょうか」

「……あり得る。最近は特にあり得る」

『身に染みているものね(ますからね)』


 あそこは何を黄昏ているんだろう?


 っと、パスタが茹で上がる頃だ。

 その間に風魔法でトマトや玉葱を切って、手に入れたオリーブオイルで和える。

 調味料で酸味の利いた炎天下でも食べやすいようにする。


 もう完璧だね!






 お昼は持ってきたサンドイッチを食べました。

 少し嵩張ってしまいますが、僕達は時間短縮して拠点づくりをすることにしたのです。

 僕はしたことないですし、パーティー内ではリリが数度したことがあるくらいなんですから。

 一応道すがら果物を手に入れておいたのでそれなりの食事にありつけました。


 拠点に必要なのは調理する場所、休憩する場所、素材置き場の三つです。

 最後のは別になくても良いですが、どれだけいい拠点が作れているかも点数になるそうです。


 フィノ姉様センサー(魔力感知)で場所を見つけたんですが、あれは拠点じゃありません。

 屋根の無いテラスと一緒です。

 頑丈で火が伝わりそうな竈は二つあって、何か神秘的な山をモチーフにしたデザインです。

 隣には水を貯める台があったり、清潔そうな白塗りの台や野菜が置かれた調理場。

 フィノ姉様は木魔法でテーブルやイスを作っています。


 何なんですか何なんですか何なんですかぁぁぁぁぁっ!


 何早々にやらかしちゃってるんですか!

 周りの人は何見てんです!

 しっかり注意して、じゃなく、手綱を握っていてください!

 手遅れとか思ってんじゃねえです!

 っと、汚い言葉が出てしまいました。


 フィノ姉様は……あれですけど、シュン兄様のせいでフィノ姉様がどんどん常人離れしていきます。

 教える人が非常識だと教わる側もこうなるんですね。

 フィノ姉様には後で伝えておきましょう。

 周りの人は目を剥いていますし、これが王国だと思われるのは……いいのでしょうか?


 僕?

 僕は大丈夫ですよ。


 そもそも地魔法は得意ではないですし、出来ても水玉を出して野菜を洗ったり、といったところです。

 包丁は重いので新品の短剣を使います。

 火魔法は得意じゃないので、空中に浮かした水玉をレックスに温めてもらいます。


 食材よりも調理器具の方が嵩張るんですもん。

 まあ、最低限包丁と鍋、食器が人数分あれば大丈夫です。


『ということで、君達にはお題の物を採取、又は討伐してきてもらいます』

『薬草、食材、魔物、動物、料理や調合など多岐に分かれ、一年は下級、二年は中級、三年は上級のお題にしてあります』

『それと暗くなる前に帰ってきてください。一応定時になったら音で知らせてくれる魔道具をパーティーごとに渡します。それがなったら速やかにここまで還ってきてください』

『もし帰って来なかったら減点対象です。二日連続でそうなれば一か月間の奉仕活動をしてもらいます。それと、もしトラブルが起きた場合は空に二度魔法を放ってください』


 っと、拠点とかのことを考えるのは後回しです。

 今はこれから始まるレクリエーションのことに専念しないとです。


「宝探しみたいなものかな?」

「そうみたいですね。まあ、そこまで難しいお題ではないでしょう」

「安全な場所といっても結構広いから迷子になるかもしれないものね」

「迷子になっても大丈夫! そん時は俺も迷子だと思うし!」

「どこが大丈夫なのよ!」


 一人じゃないからとかレックスは考えているんでしょう。

 結構単純でもありますし。


 そう言えばレックスが二階へ来ないよう目を光らせておいてとレイアに頼まれていました。

 それは良いんですけど、シュン兄様がそうしないよう目を光らせないといけません!

 しないと思っていますけど、出かけた時は一緒の部屋で寝ているんですよぉぉぉ!

 僕がどれだけ涙を流したことか……!


 迷宮都市バラクを通って学園に行く時も、城に帰ってきた時も、帝国に行った時も、魔大陸へ行った時も、ぜーんぶ!

 しかも魔闘技大会前は隣で寝合ったとか!

 許すまじ!

 僕は五歳頃からずっと寝てないんですよ!

 お風呂にも入ってないんですよ!

 ま、まあ、恥ずかしいので構いませんけど……。


「シル君、お姉さん……いや、お兄さんのことを考えていないで、俺達もお題を貰いに行くよ」

「か、考えてません!」


 それに人の心を読まないでください!




 僕達の探し物は食用の魔物の肉となりました。

 他にも食べられる野菜や植物や果物、薬草や水の採取、木の器を作ったり、同じく動物や魔物の討伐等がありました。


「きっと何も得られなかったパーティーの為だね」

「そうですね。シル様のお兄さん達は何故か直接シュン様の料理とお題が出ていましたし」

「いや、あれは絶対自分で食べる為だな。俺は良く知らないが、周りで聞いていた先輩達が眼の色変えていたしな」


 まあ、そうなんでしょうけど。

 フィノ姉様の手料理じゃないだけいいです。

 シュン兄様の料理を他の人が食べてはいけないとか言うわけじゃないですから!

 僕も食べたいとか……ないですし!


「僕達にはその弟子がいるからいいんじゃないかな」

「そう言えばそうだった! 王子に頼むのはおかしい気がするが、頼んだぞ!」

「ぼ、く……弟子?」

「そうでしょう? シュン様はフィノリア様に教えた。で、フィノリア様から教わったシルは間接的とはいえシュン様の弟子となるわけよ」

「大師匠とか、孫弟子とかになるのではないでしょうか?」


 …………なんですってーっ!


「なんだい? その顔は……。まさか、今まで気付かなかったとか言うんじゃないだろうね」


 ま、まさか、そうなるんですか……!

 フィノ姉様の上にシュン兄様がいる。

 ということは僕はシュン兄様の弟子……。

 あああああ……なんていうことですか……。


「ありゃ? これは真実に気付いちゃったのかな?」

「ちょっと使い物にならねえな」

「レックス、言い方に気を付けなさい!」

「あだっ!」


 僕が弟子というのも何かムズムズしますが、フィノ姉様の上にシュン兄様がいるというのが納得いきません!

 た、確かにフィノ姉様と比べても段違いですが……。

 でも認めたくないですよ!

 フィノ姉様は一番なんです!


「グルォォ……」

「何か来ます!」

「この鳴き声は……ウルフか!」

「シル! 早く戻って来なさい!」


 そう、フィノ姉様は一番なんです!

 綺麗ですし、可愛いですし、優しいですし、最高の姉様なんです!

 シュン兄様が最強の兄様だとは思いますが、認めたくないですけど……最高のフィノ姉様の上だとは思いません!


「グルァッ!」

「シル君!」

「シル!」

「シル様!」


 皆してなんですか?

 今良い所なんですから――


「邪魔しないでください!」

「キャウン!」

『……はぁ~』


 やっぱりフィノ姉様が一番です。

 誰が何と言おうと永遠に変わらない不変なんです。


「心配して損したのかな?」

「ま、これでこそあの人の弟子なんだろう」

「誰がシュン兄様の弟子ですか! ぶち殺しますよレックス? 僕はフィノ姉様だけの弟子なんです」

「す、すまん」


 わかればいいんです、わかればですね。


 僕だってシュン兄様のことがき、きき、嫌い、なわけじゃありんせん。

 ただ、納得……いえいえ、それだと僕が物わかりの悪い子供みたいじゃないですか。

 そろそろ大人になるのですから嫉妬は良くありません。

 いえ、嫉妬、いえ、嫉妬です。


「シルが怖えよ……」

「どんまい。後で私が慰めてあげるわ」

「わ~い……でも、ちっぱぐはっ!」

「おかげでお題の肉が手に入ったからいいんじゃないかな?」

「そうですね。解体をしましょう」


 一体僕は何を考えているんでしょう。

 いったん冷静に、冷静になります。

 弟子云々はこの際を置きます。

 結局のところ、シュン兄様よりフィノ姉様の方が僕の中では偉大なんです。


「そう、フィノ姉様がいてくれればそれでいいのです!」

「あー、うん、そうだね。それよりも、じゃなくて、シルも手伝ってくれるかい? お姉さんに解体も教わってるんだよね?」

「そうですよ。一応この辺りにいる魔物の解体だけ教わってきました」


 気持ちの良い物じゃなかったですけど、フィノ姉様がこれぐらいできた方がいいというので覚えました。

 フィノ姉様の手前怖がれませんし、シュン兄様に負けるわけにはいきませんからね!


 まあ、フィノ姉様もまだ魔物以外が殺していないと言っていますし、シュン兄様も無理にしなくていいといいます。

 覚悟は必要だと言っていましたから、父様達と相談中です。

 今考えることではないですけど、この先どうなるか分からないですからね。


 等と考えていると、誰かがこっちに近づいてくる反応がありました。


「誰か来ます。一応警戒を」

「あ、戻ってきた。重度のシスコンだからなぁ。よく考えればブラコ――」

「黙って解体してなさい! で、どんな感じなの?」


 ブラコの次は何を言おうとしたのですかね?

 ン、だったらぶち殺してますよ。

 誰が好き好んでシュン兄様のことなんか……。

 ま、まあ、嫌いではないですけどね。

 一緒にいれば落ち着きますし、心強い……ですけど、フィノ姉様がついてくるからですよ!


「スティル様、先に誰かいます」

「もしかすると倒されているかも……」

「う~む、兎に角行ってみるとする」


 生徒みたいですね。

 スティルというのは貴族でしょうか?

 僕のクラスに同じ名前の人が気もしますが、あまりクラスの人と話してないので覚えていません。

 名前は覚えていますよ?

 顔はですね。


「スティルっていうのは逆隣の席の子だよ。しかも帝国の侯爵貴族の三男だよ」

「あ、そうだったんです……心を読まないでください!」

「いや、読む以前に言葉に出してたからね」


 え? そうだったんですか?

 それはすみません。

 きっとスティル? とでも呟いていたんでしょう。

 まあ、話したことないので覚えていないのは確かですけど。


「っと、来るみたいだぜ。ま、獲物はこっちのものだし、王族のシルがいるから大丈夫だろ」


 そう言いますけど、その通りなのでレックスの言う通りです。

 僕が王族じゃなくともですね。




「――ということだから、ウルフは僕達が貰ってもいいかな?」

「う~む、そう言うことならば仕方あるまい。襲われて倒すなとは言えぬし、人の物を横取りするのは減点されそうだ」

「お題が重なっていなければ交換という手段が取れてましたけど。重なっていては無理です」


 分量も書かれていませんけど、多分一頭分だと思います。

 解体技術を見たり、食べられる部位を確かめたりですね。

 少し前までは肉と言われればどれも同じだと思っていましたが、フィノ姉様と料理をすることになって部位があることを知りました。


 シュン兄様?

 はて? 知りません。

 僕はフィノ姉様から教わったんですもん。


「ですがスティル様、なかなか捕えるのは難しいですよ?」

「私達は狩りはしたことがあっても、手ずから魔物を仕留めたことはありません」

「スティル様ほど強くありませんし……」


 あ、思い出しました。

 スティルは隣の席でしたが、入学試験で上位に名前がありました。

 それに試験ではアルタより順位が上だったような覚えもあります。


「馬鹿者! 貴族たるもの弱音を吐いてどうする!」

『で、ですが……』

「そもそもだなぁ、シリウリード様は王族だぞ? 学園だからといって物乞いのような真似は止めよ」


 意外に貴族らしい良い人です。

 言葉遣いは上からという印象ですが、彼自身のルールのような物があるみたいです。


 しかし、帝国ですか……。

 何か負い目に似たようなものを感じます。

 まだアルタについても調べが付きませんし。

 いえ、ついてはいるんですけど、どこも怪しそうなところはないんです。

 疑心暗鬼はいけませんね。


「だが、お前達が言うことも確かだ」


 そう言うんですか?


「シル様」

「ん? なんですか、リリ」

「獲物を取ったわけではありませんが、私達が似たようなことをしたのは間違いありません。ですから、協力するのが良いのではないでしょうか?」

「俺もそれに賛成するよ。ウルフだけだと肉も足りないだろうしね」


 それもそうでした。

 明日も明後日もあるのですから肉の確保入りますね。

 多すぎれば誰かに上げればいいですし。


「協力もまたいいと思うわ」

「したらダメとは言われてないしな」


 レックスとレイアが良いのなら僕は特にありません。

 時間もまだたくさんありますしね。


「ということですけど、協力してみますか? ついでに探索もして、果物とか採取しておくのが良いと思いますし」

「それは有難い! このスティル、恩を忘れません!」

『忘れません!』


 いや、そこまでしなくても。


「と、とりあえず、もう少し行動範囲を増やして魔物を探します」

『了解!』

「シリウリード様、頼みます!」

『頼みます!』




 それから二時間ぐらいが経ったと思います。

 魔物を無事数体分倒し、野菜や果物も手に入れました。

 一応調べましたが食べても大丈夫なのか先生達に審査してもらいます。


「はぁ、はぁ」

「後少しです。この先が校舎のある場所です」


 森は広く整備されていませんから体力がなくなります。

 僕は魔力が多くあるので身体強化で行けますが、スティル達は運動不足もあるのだと思います。

 汗で拭くがびっしょりです。


「シリ……リード、様……ご迷惑、おかけします」

「これも協力です。この先王国と帝国も変わるんですから」

「そ、そうでした……」

『う、ううぅ……シルリード様』


 な、何かとんでもないことになっていく気がします。


「アルタ様は力持ちですね。ふぅ……」

「そうかい? 一応僕は剣士だし、伯爵の息子でも跡取りではないからね。様付けでなくても構わないよ」

「そ、そうですか? ではお言葉に甘えます」

「レイア~、疲れた~」

「ちょっ、抱き着かないでよ! ……やだ、汗の臭いが」

「ああ~、このにおぶしっ!」

「ふ、ふふ、ふざけんじゃないわよ!」


 アルタは平然と肉を抱え、リリは一息つき、レックスとレイアはいちゃついてます。

 僕もそろそろ婚約者を選ばないといけません。

 フィノ姉様が良いですけど、無理。

 なら、まだ婚約者いりません!


 絶対フィノ姉様とシュン兄様は喜ぶんですもん!

 フィノ姉様にお似合いと言われたらどうしたらいいんですか!

 シュン兄様におめでとうと言われたら切れてしまいます!


「見えてきたよ。まだ時間もあるし、少し休憩していくかい?」


 どうするべきですか……。

 狩りを見た限りでは解体こそできても料理は出来そうにありません。


 貴族ですから料理出来ないくても良いですけど、生徒にさせるということは肉を焼くなどという基本的なことを覚えさせるつもりなんでしょう。

 人生何があるか分かりませんしね。


「で、できれば、料理を教えて、いただきたい……はぁ、はぁ。見ての通り、料理などしたことないのです。加えて、体力もなく、はぁ、出来ることはします」

『お願いします』


 やっぱりですか。

 まあ、人は悪くないみたいですし、明日からは戦ったりするみたいですから十分な休息がいります。

 此処で拒否して怪我でもされては後味も悪いですし。


「分かりました。食べ物はたくさん取れましたから一緒に食べましょう。アルタ達も良いですよね?」

「俺は構わないよ」

「では少し休んでから行きましょう」

「その間に準備の続きもしないとな」

「そうね。スティル達にはこっちを手伝ってもらうわ」

「感謝する。分からないから指示を出してくれ」

『感謝します』


 なんだかんだで仲良くなりました。


 魔物の肉はそれなりに高評価で、協力したことを褒められましたね。

 その協力の仕方も良かったみたいですが、どうやって見ていたのでしょうか?

 僕の魔力感知で見つけられない人がフィノ姉様達以外にいるんですね・

 いえ、世界にはたくさんいると思いますけど。


 学園に来てやっと自分の実力が分かってきたのもありますからね。

 少し前まではフィノ姉様と比べてましたし、シュン兄様は例外です。

 史上最強の魔王と比べられる実力って何ですか? って感じです。


 それでも勝てない相手と戦うんですから、何がどうなっているのかよく分かりません。

 嘘じゃないのかっていう思いもあります。

 でも、過去のことを考えれば正しいのでしょうし、ぼ、僕だってシュン兄様のことを信じています。


 も、勿論、嘘つきじゃないってことをですね!

 そもそもシュン兄様は嘘が下手ですし!


 それは置いておき、スティル達は肉を焼くぐらいは出来るようになりました。


 ちょっと帝国の話等を聞き、シュン兄様が帝国でしたことも聞きました。

 二つの場所から聞くと少し違うんですね。

 まあ、見る立場が違えば仕方ない事です。


 アルタの視線が鋭くなってましたが、ニコニコしていて見間違いだったかもです。


 まだ、フィノ姉様達に相談する段階ではありません。

 相談したら厄介なことになりそうでもありますし……。


 とりあえず夏休みまでは調査を続けて気を付けます!

 今は林間学校を楽しむべきですね。


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