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林間学校準備

「いよいよだね、シュン君」


 夏の陽射しになりつつある暖かい太陽の光を大きなパラソルで隠し、清潔感を覚える白いベンチに腰掛けた隣でフィノがそういう。

 手に持っているのは試験が終わった後食の都リーヨンへ転移して、そこで見つけたカカオを火魔法と水魔法で乾燥させ、加熱した物を粉砕した粉砂糖とミルクを混ぜた飲み物だ。


「うん、いよいよだね」


 甘くておいしい。

 喉越しもスッとしてる。

 甘味は控えてミルクを多めにしているからそこもまたいい。


 やっとチョコレートの原材料を見つけたんだ。

 来年にはフィノからチョコレートが貰えるはずだ!

 二月が楽しみだね。

 学園のイベントといえるんだから。


 試験ってのは五月の試験のこと。

 前の授業で行った壊す試験は毎年初授業で行うことになった。

 また違った訓練になるから意外に好評でもある。

 僕に魔道具の製作依頼が来たほどだ。


 何でもコストが高く、魔石もかなり使うらしいからね。

 魔道具の基礎を作る部活みたいなのを作ってもらい、そこで修理とかできるよう簡単な資料と魔道具の仕組みを書いた本を研究所から取り寄せた。

 僕としては魔法大国に研究員を送れるからお互いに利があったんだ。


「一応何もないか次の休みの日に王国に戻りたいんだけど……良いよね?」


 去年のことがトラウマになってるのか。

 まあ、僕も気になってたから問題はない。

 あっては困るけどね。


「問題ないよ。僕も気になってたから丁度良い」

「ありがと」


 もうお分かりだろう。

 僕達が楽しみにしているのは去年行き損ねた林間学校。

 危惧しているのは義父さんと義母さんが倒れたことだ。

 原因は排除したから大丈夫だろうけど、世の中似たようなことは何度も起きるからね。

 しかもここ最近きな臭いことが良く起きるらしいし。


 特に問題はないんだけどね。

 研究所の侵入者や料理のレシピを盗む人とかってな感じ。

 偶に他国との関係や他種族に恨みがある人が騒ぎを起こすとかが大きいぐらいだ。


「今年は絶対行きたいからね。林間学校ならではの料理もあるし、やっぱり外で食べるってのはまた違うんだよ」


 やっぱりカレーだろう。

 あれしかないと言える。

 バーベキューとかも捨てがたいけど、カレーが良いと僕は思う。


「シュン君は料理ばっかり。私もそうだから文句はないけどね」

「でしょ? あるとすれば森の探検や遊ぶことかなぁ」

「授業なんだけどね。シュン君の授業は何時も遊びみたいなものだけど」

「そりゃあ、僕は楽しく訓練するってのを信条にやってるから」


 楽しいことは覚えやすいからね。

 だからあの新しい試験も受け入れられたんだと思う。

 今までの試験といったら戦うとか、的に撃つとか、測るとかだもん。

 ゲーム感覚でやれるってのは良い事なんだ。

 それで魔法のコントロールとかが良くなれば一石何鳥もある。


「今回は収納袋は使わないでおくかなぁ。勿論緊急時には使うし、禁止されてないから調味料はそっちに入れるけどさ」

「その方がいいかもね。だからといって空間から取り出しちゃメッだよ」

「ははは、流石にしないって」


 メッて気に入ったのかな?

 可愛くてとても良い!


「じゃあ、持って行く物は限られてるね。今回はまたルールが少し変更したみたいだけど、大丈夫かな?」


 ルールっていうより規則が増えたって感じかな?


 去年は毒草とかを持ってくる生徒が多かったらしく、料理も出来なくて大変だったそうだ。

 そこで学園側が専門書と地図を配ることにした。

 ただし、それを使うと減点となり、持ち点が引かれる。


 その点数というのは林間学校に行っている間パーティに課せられたもので、百点満点からの減点方式だ。

 だから、僕やフィノでもトップになれない可能性がある。

 毒草とかを取るというのはないと思うけど、林間学校の主旨は強くなる・交友する・学ぶとかからきているからだ。

 強ければ点数が高いってもんじゃない。


「準備は統一するために銀貨一枚まで。日程は三泊四日で、食材と器具とかだけだよね」

「泊まるところはあるし、イベントも学園側でするからね。もしもの時は魔法でも作り出せるし、森の中は豊富だって聞く。いるとしたら虫よけスプレーとか薬類だね」

「森は虫が多いもんね」

「作ろうと思えば多分作れるけどね。回復魔法や結界魔法もあるわけだし」


 これをチートといわず何と言うのだろうか。

 まあ、努力で得たのだからチートとは言えないんじゃないかな。


 細かい調理器具なら魔法で作ればいいし、持っていくのは食材ぐらいなものだよね。


「ああ、あと動きやすい服とか手袋とか持っていくのもいいかもね」

「制服だと動き難いかもしれないもんね。一応戦闘服ではあるんだけど」

「去年は既に暑くもあったし、夜は寝苦しいかもしれないから半袖が良いだろうね」


 そのぐらいなら収納袋を使うべきかなぁ。

 最近は魔法大国でもやっと洗浄魔法が流行り始めたからね。

 あの濃い試験からずっと会ってないけどサイネリアの皆やダンさんやロイさんは無事だろうか。

 まあ、無事だから広まっているのだとは思えるけどね。

 冒険者には喉から手が出るほど欲しい魔法だから、それを広めた彼らはギルドで訊ねればわかるかも。


 でも、僕じゃなくてシロが教えたんだっけ。

 もしかしたら僕の功績になってるかも……実際そうなんだけどね。




 それから数日が経ち、去年と同じく林間学校の準備期間となった。

 一年生は去年の話を教師や上級生から聞き、どれだけ杜撰だったのか、どれだけひもじい思いをしたのか、その結果何がいるのか真剣に取り組んでいる。

 反対が出ないのはそういう風潮になってきたからだろう。上が変われば下もすぐに変わるってところだ。


「僕達は去年調べたのがあるからいいでしょ」

「なにか足りない物でもあった?」


 フィノの言う通りそこは気を付けた方がいいか。

 僕達は辛かったという話しかほとんど聞いてないわけだし。


「足りない物かぁ……大概二人がいたら大丈夫そうな気もするが」

「ああ、今回はあまり収納袋を使わないことにしたんだ。点数に響くと思ったからね」

「なるほどです。能力は自分の力ですから仕方ないですもんね。道具は使わなければいいだけです」


 褒めてくれるのは大変嬉しいけど、異空間に収納するって手があるんだよ。

 時空魔法は貰い物だとしても僕の力だってのは変わらないからね。

 ここまで高めたのは僕だし。


「いるとすれば最近流行の洗浄魔法と寝床だわ」

「え? 寝るとこはあるんじゃないの?」


 うん、それだけは聞いてたんだけど。


「寝るところはあるんだよ。寝るところはな」


 ああ、なんとなくわかった。


「ですけど、ベッドとかランプとかはないんです」

「一日中森の中で食べ物を探していた所もありまして、次の日も疲れ果てたままなんです」

「まあ、掛け布団や魔法でどうにかなるんだがな」

「でも、さすがに夜はねぇ……」

『ああ(はい)』


 ベッドはさすがにないでしょ。

 三日は戦うと考えると魔力、どちらかというと体力を温存したいだろう。

 食材探しで森の中を駆けまわるわけじゃないし、レクリエーションとかあるんだろうしね。


 建てられた施設も管理されているだろうから、夜中寒いということはないはずだ。

 まあ、庶民の生活をしたことがあるのならいいかもしれないけど、ベッドで寝ないというのは貴族はしたことないかもね。

 それと個室で寝ないっていうのも。


「遊ぶ道具ならあるよ。ね、シュン君」

「うん、いろいろと作ったから遊べると思うよ」


 ただ夜がどうなっているのか知らないから何とも言えないけど。

 前世だったらお風呂に入った後は自由行動とかだったけど、ここではわからないからね。

 一応聞いてみた方がいいかな。


「どんなのだ? 疲れるのだけは簡便な」

「流石に魔法とか動く遊びじゃないよ。そうだねぇ……トランプ、リバーシ、すごろく、人生ゲーム、ジェンガとか」

「私は人生ゲームが好きかな。あ、ドミノを倒すのも好き」


 そう言えばそうだったね。

 特に人が仕掛けも含めて作ったのを倒すのは快感だと思う。

 フィノは不器用じゃないけど、不用意に倒して一向に進まなかったりするからね。

 ストッパーを作ってないからだけど。


「そんなゲームがあったんですか」

「作ったってことはそう言うことよね」

「作ったんだと思うぜ。何せシュンだし」


 だからそれ止めてよ……。


「そのゲームはどのような物なのですか? 魔道具……ではなさそうですね」

「うん、魔法は使わないもん。人生ゲームは名前の通り人生の道筋を進めるゲームで、数字の書かれたルーレットを回して自分の駒をゴールまで進めるの。ドミノは薄い板を並べて倒す遊びなんだけど、これはやってみた方が分かるかも」


 人生ゲーム好きな理由は結婚があるからだ。

 まあ、プレイヤー同士でっていうのは無理だけど、いろいろともうそ、もとい想像しているみたい。

 一緒にやっている義父さん達は毎回苦笑している。

 止まったマスの指示によって何を想像しているのかまるわかりだ。


 でも、トランプとかではポーカーフェイス出来るからそれなりに強いんだ。

 逆に僕はトランプの顔色を窺う奴が弱い。

 なぜかババ抜きで最後までババ持ってたりすることがある。


「他のゲームもそれなりに楽しいから、それらに関しては許可を得られたら収納袋に入れてこようか。流石に良いと思うしね」


 夜中に暇っていうのもあれだし、教師達も友好を深める場にしていると思うんだ。

 だから、昼間の探索や料理や行動を共にする。

 夜中も遊んでていいと思うんだよ。


「流石シュンだな。面白かったら買わせてもらうぜ」

「私も買うわ。どこで売っているのかしら?」

「これは全部王国でしか販売されてないの。生産も追いついてないって聞くから、少し時間がかかるかな」


 現在一か月待ちだって聞く。

 まあ、作り方とかは簡単だから誰かが真似していくと思う。

 僕達が作ったのを手に入れようと思ったら難しいけどね。

 リバーシの色違いは結構面白かったかも。


「そんなに待たされるんですか?」

「いや、買おうと思ったら、の話であって、作り方を覚えるなりして作ればすぐに手に入るよ」


 別に禁止しているわけじゃないしね。

 ただ、魔法が使えてもパッと作れる物じゃないし、やっぱりお店できちんとしたのを買うからいいってのもある。


「僕、というか国が作ってるのには城の絵柄が描かれてるんだ。正面・上空・王都の三つでね。それが無ければ僕が作ってもいいよ」


 魔道具なら問題があるけど、魔石も金属も使わないのなら構わないでしょ。

 一応開発者としての権利は僕にあるんだし、全員分作ったとしても大金貨までいかないだろうしね。

 どちらかというと今は広めることに意味がある。


「全員分作るとかは止めてよ」

「え?」

「え? じゃないよ。利益は……良くないこともないけど、宣伝するのに配ってどうするの?」


 た、確かに。

 数人に遊ぶ分として作って、後は買ってもらえばいいのか。

 何も配ることだけが宣伝じゃないもんね。

 というより、宣伝って配らないか、普通。


「食べ物はそれなりにあったし、毒も腹を壊す程度だったはずだ」

「回復魔法の練習とかでいい経験にもなりました」

「あるとすれば武器が壊れた生徒がいたことね。魔法や格闘とかの練習ができるけど、武器の手入れも出来ないといけないかも」

「役割分担は去年と一緒で良いと思います」

『シュンの料理が食べられる(ですね)』


 うん、皆の様子からそうだと思ってた。

 最近料理を聞いて来る女子が増えて来てたもん。

 文化祭とは違うけど、これも手料理を食べさせられる絶好のチャンスだからね。

 それを言ったら顔を赤くした人いた。


「ま、楽しみにしててよ。不味い物だけは作らないからさ」

「ふふふ、シュン君が不味い物を作るだなんて考えられないよ。不味いと感じるのは嫌いなものがある時だけだけど、それでも十分美味しいよ」


 ありがとうフィノ!

 なんだかんだで料理作っている側は結構心配なんだよね。

 道具ならまだいいけど、食べるってのは人それぞれだからね。

 世の中には偏食の人もいるし、アレルギーの人だっている。

 流石の僕も好き嫌いがわかる訳じゃないからね。


『また、ピンク色だ(です)……』


 べ、別に良いじゃないか。

 それを言うなら二年になってからずっとピンク色のウォーレン先生とシュレリー先生に言うべきだ。

 まあ、僕は気にしないけど、独り身は辛いと思う。

 なら、やめろと思うだろうけどやめられないとまらないなんだ。


「あ、そうそう」

「どうしたの?」

「これをシリウリード君に届けておいてくれる? ついでに伝言も」

「まあ、なんとなくわかるからいいよ。中身は……食材ね」

「うん、頼んだよ」






 一週間後辺りに林間学校という行事があるそうです。

 三泊四日の日程で、一日は学園が用意したイベントがあり、もう一日は上級生達と何かするそうです。

 残りは自主訓練や戦闘訓練があり、一般授業はないみたいです。


 僕はフィノ姉様に教えてもらいたいですが、流石に無理は言いません。

 シュン兄様が羨ましいと思いますが、僕だって我慢できる男なんです!

 これをしっかり乗り切ってフィノ姉様に褒めてもらう予定なんですから!

 ファイトー、ですよ!


「上級生から聞いたんだけど、結構辛かったみたいだね」


 僕の班は友達のアルタがいます。

 誘われたので、特に断る理由もありませんし、目を離す……とは違いますけど近くにいた方が良い気がします。

 勿論怪しいから見張るという意味であって、僕は男が好きなわけではありません!


「シル様?」

「え? いえ、何でもありませんよ?」

「そうですか? もう一度お聞きしますが、フィノリア様から何か聞かれていないのでしょうか?」


 この女子生徒はクラスの纏め役? シュン兄様は委員長だね、といってました。

 委員長とか、よく分からないことを言う人です。

 名前はリリという世話好きの水色の髪の女の子ですね。

 レイピアという武器を使い、水魔法を使う万能タイプです。


 僕は水と風を使う防御タイプで、アルタは土魔法が得意な剣で攻撃するタイプです。


「去年はフィノ姉様達は参加していないのです。丁度城の方で騒ぎが起き、シュン兄様が戻ったのでフィノ姉様も戻ることになったのです」

「シュン様は護衛でしたもんね。なら、シル様達も初体験ということになるのですか」

「はつ・たい・けん! 女が言うと何と甘美な言葉だぶべっ!」

「うっさわよ!」


 この殴られたちょっと欲望に忠実な金髪の男子生徒は、僕の数少ない知り合いのレックスです。

 殴った赤髪の女子生徒はレックスの許嫁で、僕とも何度か会ったことのある公国出身のレイアです。


 レックスは魔法が得意ではないですけど、手先が器用で二刀流の剣士です。

 レイアは逆に魔法が得意で攻撃特化の火魔法使いです。


 この五人が僕の班となります。

 リーダーはこういう時は確実に地位が上の僕になります。

 権力は関係ないといってもこの辺りは仕方ないです。

 フィノ姉様達はシュン兄様がリーダーだと思いますけど。


「必要な物は知識と食料ですね。食料はまだ取れるからいいのでしょうが、知識が無ければ苦労します」

「それで去年は餓死しそうになった班があるみたいだ。まあ、教師達が多めに料理を作っているみたいだけど」

「ですが、それを貰うということは点数が下がるということです。僕としては避けたいことです」


 点数は特に気にしませんが、フィノ姉様から褒めてもらうためにはそうするしかありません。

 それにこれは自分で調べる力が求められ、貴族だからといって物を知らないと領地を治めることになった場合困ります。

 何が領地にあるか知ることが出来れば安心ですもん。

 ならなくても知識は無駄になりませんし、冒険者になるのなら尚更必要です。


 まあ、愚痴を言った時にシュン兄様が言っていた受け入れですけど……。

 ぼ、僕だって何となく感じてはいましたけどね!


「それと料理もだな。はっきり言うと俺はしたことが無い」

「わ、私は……焼いたことはあるわね」

「黒焦げったけどな……ボソッ」

「あん?」

「ひっ!」


 仲が良い事で何よりです。


「私は少しだけしたことがあります」

「僕はしたことないけど、狩りとか手伝いなら出来ると思うよ。野菜を洗うとか、包丁で切るぐらいならね」


 普通はそこを勘違いする人が多くいるのです。

 勘違いというより、何でそんなことするの? と言いたいようなことです。

 例えば……


「野菜は洗剤で洗う……わけないわね」


 ですね。


「バッカだなぁ。そんなことしたら食えないだろうが」

「わ、分かってるわよ! ちょ、ちょっと間違えただけじゃない……」


 フィノ姉様も言っていました。

 米という料理を特に洗剤で洗いたくなるとか何とかですね。


「僕は料理をしたことありますよ」

『え?』

「何ですか? シュン兄様は料理が趣味ですから、フィノ姉様も必然的に作るようになったんです。認めたくはありませんが、フィノ姉様は大好きなんですよ。なら、僕も習うしかないじゃないですか」


 まあ、フィノ姉様が教えてくれるので文句はありません。

 料理が作れて悪いことはありませんしね。

 フィノ姉様が褒めてくれるので逆に大満足ですよ!

 ……シュン兄様は料理だけは妥協しないので厳しいですが。


 僕としては魔法の方を厳しくしてほしい気もします。


「お兄さんは料理方面でも有名だったね。去年の文化祭では全校生徒が押し寄せてきたとか」

「オムライスにピザ、グラタンとか見たことも聞いたこともない料理だったとか。おかげで文化祭は大成功だったようですね」

「文化祭といえば白雪姫だったか? 見たかったなぁ……キスシーン」


 むかっ、思い出させないでくださいよ!

 ぐぬぬぅ~、お似合いだと思った僕が余計に憎いです!


「何言ってんのよ! 実際はしてないんでしょ?」

「でも、有名な二人がそんなところを演技とは言えしてくれるのならなぁ。魔法も凄かったみたいだし。キス見たかったし」

「キスキスうっさいわよ! そ、そんなにしたかったら……ゴニョゴニョ」


 レイアは素直じゃありません。

 そして、レックスは女癖は悪くないですけど、結構鈍感です。


「そんな話よりも、料理は任せてください。一応フィノ姉様に良いものが無いか聞いておきます」

「そうだね。それに合わせて食料を持ち込んだり、探せばいいからね」

「図書室に専用の冊子もあるみたいだし、それを書き写してくるか」

「なら、そっちは役に立たない私達でするわ」

「役に立たないって……ぷっ」

「あんたもでしょうが!」

「ひでばっ!」


 懲りない人ですね。

 まあ、楽しいので構いませんけど。


「後は薬や着替えなんかも欲しいです」

「でも、銀貨一枚が範囲なんでしょう?」

「そうですけど、この期間中は購買部で安く買えるそうです」

「そうなんですか?」


 そんな話初めて聞きました。

 そもそも銀貨一枚をどうやって調べるのかも知りません。

 シュン兄様なんていつも収納袋に何か入れてますし、あの扱いはどうなるんでしょうか?


「銀貨一枚っていうのは守れるかっていうのもあるけど、どれだけ視野を広く出来るかっていうのがあるんだよ」

「この情報は先生から得ました。普通銀貨一枚で揃えるなんて無理ですし、聞くことが大切みたいで聞けば教えてくれますよ」


 聞くことが大切、ですか。

 時と場合によるのはいつものことですけど、学園にいる間は知らないことをそのままにしてはいけないってことですね。

 フィノ姉様の時の特訓でもそうですし。


「ってことは……今の段階で点数が付き始めてるってことだな」

「そういうことだったのね。どうして調べた物とかチェックするのかよく分かってなかったし納得だわ」


 この普通は考えない細かいところまで考えられているのはシュン兄様の様な気がします。

 いえ、関わってはいないのでしょうけど。

 人の隙を縫うような嫌らしいところがあります。


「あ、あれってフィノリア様じゃない?」

「え、あ、本当だ! いつ見てもお綺麗! 特にあの艶やかな黒髪は羨ましい!」

「なんでもシュン様が手入れをなさっているそうよ。実力があって料理も出来る優しい婚約者、悪魔だと聞くけどそこがまたいいのではない?」

「でも、シュン様は見えないわね」


 フィノ姉様が一人で来たんですか!?


「ど、どうしたんだシル?」

「ああ、これは放っておいて大丈夫だね。シルはお姉さんが大好きだから」

「は? ……あー、そう言うことな」


 何かニヤニヤされていますが、何と思われようとも気にしません。

 僕がフィノ姉様を大好きなことに違いはないのです。


「あ、シル。ちょっと時間貰える?」


 この笑みに癒されます。

 シュン兄様だけの極上スマイルとは比べ物になりませんが。

 羨ましくなんてありません!

 ぼ、ぼぼ僕だってその笑みを手に入れてやるんですから!


「良いですけど、何かあったんですか?」

「ちょっと様子見に来ただけだよ。シルはあまり外で泊まったりしたことないでしょ?」


 そう言えばそうでした。

 此処にはシュン兄様の転移でしたし、魔物もそこまで倒したわけじゃありません。

 少しお出かけで宿屋に泊まったことがあるくらいです。


「私は馬車で移動したり、野宿したことがあるからまだいいけどね」


 こう見えてフィノ姉様はいろいろな体験をしていました。

 それもシュン兄様が傍にいたから出来たことでしたけど。


「そこでこれを渡そうかと思って」

「何ですか? ただの指輪じゃないですよね?」


 以前までならわからなかったですけど、今なら魔力を帯びているので魔道具だとわかります。

 いえ、正確には魔法がかかっているのが分かります。


「ふふふ、それはただの指輪じゃなくて収納と結界、それと通信が出来る機能が付いた特注品なの」

「むぅ、シュン兄様が作ったのですね」

「え、ええ、私は魔道具作りをほとんどしたことないからごめんね」

「い、いえ、性能を考えればうれしいですし、ありがとうございます」


 シュン兄様だというのが納得できませんが、フィノ姉様が僕のためにだと思えばうれしいです!


「でも、こんなの使っていいのですか?」

「規則には反してないけど、シルは王族なんだよ? 変な物を食べるくらいならこの中にある食材を使って、もし魔物に襲われて危険になれば結界、それでも対処できないことが起きたら通信を使ってね」

「備え、ということですね」

「収納は思うだけで、結界は『バリア』、通信は魔力を籠めて私かシュン君の名前を言ってね」


 念には念を入れるということですね。

 アルタを信じていないわけではありませんが、どこか怪しいんです。

 不快感はないんですけど、こっちを探ってくるようなあの問いかけが何とも……言えないんです。

 悪い人ではない気はするんですけどね。


「あと、この前貰ったブローチは身に着けておいてね。あれがあれば多少の毒でも回復してくれるから」

「父様達も貰った奴ですね」

「うん。私も付けてるからお揃いだよ」


 お、お揃い……!


「絶対に離しません!」

「う、うん。じゃ、皆にもよろしく言っておいてね」

「フィノ姉様も気を付けてください」


 おっそろい!

 おっそろい!

 フィノ姉様とお揃いのブローチ……!


「シル君……その笑みは止めた方がいいと思う」


 はっ!

 これはいけませんでした。


「それよりも何を貰ったんだい?」

「指輪?」

「これはもしものための道具とかが入った魔道具です。といってももしもの時以外は使う気ありません」

「そうですね。まずは自分達の力で切り抜けないと」


 リリの言う通りです。

 そうでないとフィノ姉様に褒められないんですもん!


「……シル君は違うこと考えてない?」

「え? そ、そんなことないですよ?」

「本当? ……確認するけど、お姉さんは関係ないよ?」

「わ、分かってますよ!」


 ま、まさか心が読めるんじゃ……!


「シルの顔で大概判断できるのはいつものことだろ」

「いつもはニコニコしているけど、フィノリア様のことになると分かりやすいわ」

「そう言えばシュン様は顔に出やすいと聞いたことがあります」


 まさかのシュン兄様と同類扱い!

 フィノ姉様と同じ扱いが良いです!


「違ったね。お兄さんでもわかりやすいよ」

『間違いない(ですね)』


 むきゃああああ!


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