天賦の少年②
「ねぇ、君もひょっとして浪士組?」
墨を調達しようと玄関で出掛ける用意をしていた誠にふと声がかけられた、振り向けばそこに立つ三人の男。
スラッとした体形の優男に
筋肉質な体形の大男、
誠とも一回りほどしか変わらない体格の男。
「はい、そうですが。えっと試衛館の方々ですか?」
突然声をかけられた事に困惑しながらも先日、八木邸に入った時に見かけた者たちだと理解した誠。
「へぇ君みたいなガキんちょが浪士組に…。」
悪態をつきながら誠を見下ろす優男に少しむっとした表情を見せる。
「こぉーら、総司。いじめてどうすんだ、まったく。 あぁ、俺は原田佐之助よろしくな。」
優男の頭に拳骨を食らわしながら挨拶をする小柄な男。
「俺は、藤堂平助だ。おめぇすげーな。そんな年で浪士組に参加するとは。」
大柄な男も小柄な雪の頭を撫でながら声をかける。
「ふんっ、僕は沖田総司。でっ君はだれ?」
拳骨をくらった頭を押さえながら不機嫌そうに名を名乗る優男
自分を小馬鹿にするような発言をする総司を軽く睨みながらも挨拶を返す。
「私は芹沢鴨の小姓。雪村誠です。」
「へぇ、小姓なんだ。それはそうと君、俺達、今から庭で稽古するんだけど君も一緒にしなよ。まぁ、君でも素振りくらいならできるでしょ。」
誠のあいさつもそのままに。優男もとい沖田総司が明らかに見下したような言い方で問う。誠は自身の仕事が終わっていないことを理由に総司の申し入れを断わろうとするが。
「そんなの後回しでいいだろ。やろうぜ、俺が稽古付けてやるよ。」
あっ、と声を出す暇もなく誠の手を掴んで廊下を走りだした平助、その後ろをやれやれと言った感じで佐之助と総司が追う。
「んじゃ、まず俺とやろう。」
庭さきまで誠を引きずってきた平助は持っていた木刀の一本を誠に渡して大きな体をゴキゴキと鳴らしながら平助は逸る気持ちで誠に声をかけ木刀を構えた。
「でも、私はまだ仕事が。」
「なに、君。怖いの?」
縁側に腰をおろして挑発するような口ぶりの総司に誠は小さく一つだけため息をついて「…、分かりました。」と何処か不満げに納得の意を示した
木刀を構えて平助に対峙する。目を堅く瞑り小さな息を吐いた後見開いて相手をじっと睨む。瞬間、木刀同士が撃ち合う音が八木邸の庭に響いた。