壬生浪の人斬り狼
☆
幕末、雪降りしく京の都、闇夜に響く複数の足音。息を荒げ走る男たち、その瞳は一様に恐怖に染まっていた。やっとの思いで逃げ込んだ路地裏で男たちの恐怖はさらに深まる事になる。男たちの目線の先から現れた影、男たちは息をのんだ。自分たちが恐れている恐怖の塊が目の前に居る。
浅葱色の羽織を纏い月明りに黒く光る刀を腰に下げ、深紅に染まるその瞳。近頃、京の街を騒がせている噂の人斬り集団。その中でも、狼と恐れられている男。たった一人で幾人もの志士を斬る。
暗い路地に響く刀同士がぶつかり合う高い音と男のうめき声。その声に、浅葱色の集団が駆け付ける。地べたに倒れる複数の躯とそれを背に佇む浅葱色の影。集団の一人が刀を鞘に収めながら口を開いた。
「隊長、ご無事ですか。」
隊長と呼ばれた影、月の光に影の姿が鮮明になる。志士達の恐怖の塊とも呼べる影、しかし、月によって鮮明に照らされた影は、まだ幼さの残る少年、それも身体つきもとても華奢で、その姿からは恐怖と呼ぶものは感じ取れない。さりとて、浅葱色の人斬り集団の中でも最も恐れられているその少年。
人はその者を『壬生浪の人斬り狼』と呼んだ。