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彼方への手荷物  作者: 涼詩悠生
第一章 めんどくさい
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第六話

魔法を発動させる際に使用する媒介は人によって様々。

シャルの媒介は二つの指輪だ。

右手の人差指に螺旋状の第二関節あたりまであるもの、左手の小指には水色の石をひとつついた小ぶりのもの。

エドガーの媒介はナックルで右手に着ける。

形状が違えば、能力も魔力の容量も処理能力も違う。



「えー……今回も怪我の無いよう、心がけて防御するように」


城内にある広い庭の一部をつぶして作られたグラウンドで

教師はウオッホンと咳払いしてシャルとエドガーを見る。


「特にそこのふたり。毎度毎度、壁やら備品やら壊しよって。片づける方の身になれ!」

「はーい、きをつけまーす」


はーい、とエドガーは元気に手を挙げた。


「では、それぞれ二人で組んで始めるように」



本来『攻撃と防御』の授業は二人一組となり攻撃と防御について相談したのち、実際にやってみる、という実技である。

勿論、教師はアドバイスを入れたり指導したりもする。

が、エドガーとシャルの『攻撃と防御』の実技はそれとは少し違った。

そしてそれを知る生徒は二人からかなり距離をとって実技を行う。

知らない生徒は比較的近い場所でやろうとしたが、教師がそれを止める。


「あの二人とはかなり距離をあけてなさい。あぶないから」


そう言ってできる限り離れた場所を指示し移動した。

その直後、


「「起動」」


10メートルほど間をあけた二人の声が重なり、それぞれの媒介が光る。

シャルは淡い水色に、エドガーは血のような赤に。


「あいつらの媒介は少々特殊でな」

「……と言いますと?」

「媒介に刻印がしてあるのだよ。通常であれば呪文を詠唱し発現させるが、アレは呪文を短縮して唱えて発現させるのだ。それをこなすには媒介の能力も使用者の能力も問われるが」

「何故一般に浸透しないのでしょうか?呪文を短縮して発現させるなんてとても便利ですが」


教師は首を二度ほどふる。


「どのような呪文を刻印するのかね?頻繁に使うような魔法はすでに魔法具として製造、販売されているだろう。それに刻印も限度がある。限度をこえて呪文を刻むには新しく媒介を用意せねばならない。そんな金も手間もかかる事やるやつなんて限られている」


仕掛けたのはエドガーだった。

エドガーはナックルを握りしめ、瞬く間に間を詰める。


「『炎と耐性を拳に』」


ナックルを持つ拳に炎が宿り、そのままシャルにぶつける。

けれどそれは当たることはなく、シャルの顔の前で静止している

そこには見えない風の壁があり、シャルの口は音のない声で呪文を唱え続けていた。

エドガーが仕掛けるよりもずっと早く詠唱は始まっていた。


「ずっこいぞー」


動かない拳を押し付けながら、エドガーはにやにやと笑う。


「『倍割増』」


炎が大きくなり、火の粉がシャルをかすめる。

シャルは右手を横に振り風の壁を薙ぎ払う。

風の壁は塊となりエドガーにぶつかり吹き飛ばす。

同時に左手で身体の左側に円を描き、トンとノックする。


「『設置』『水』『刃』」


魔法陣から水でできたナイフが出る。

パチン、と指をはじくとそれらはエドガーに向けて飛んでいく。

エドガーは着地し地面に右手を自分の前で振り、地面に線を引く。


「『炎壁』」


引いた線から炎の壁が立ち、水のナイフは一瞬にして蒸発した。

地面に右の拳を叩き付けながら詠唱する。


「『大地の槍は彼の者に』」


叩き付けた場所からシャルに向かって地面が次々と鋭い円錐形に盛り上がる。

シャルは両手を突き出し前面に大きな円を描く。


「『設置』『防御』」


円が魔法陣になり盾になる。

いくつかの攻撃は防げたが、防げなかったものはシャルの服や皮膚を破っていく。

痛みで一瞬眉根を寄せる。


「女の子と遊んでてなまっちゃったかなぁ?」


美少女モードのエドガーは笑いながら第二波を撃つ。

先ほどと同じようにいくつかは防ぎ、いくつかは傷に。

シャルはため息をついて、ズボンのポケットから赤黒い石のついた指輪を取り出し左手の人差指にはめた。

エドガーを思いっきり睨んで。

そして、口は笑っていた。


「え、うそ、ちょ、マジで」


エドガーは焦り後ろに下がる。

ヤバい、これはヤバい。

本気で怒らせたーーーーー!

エドガーは冷や汗が出るのを感じながらかなり焦っていた。


「シャ……シャルくん?ここは穏便に話し合おう。ね?お、俺が悪かったから」


シャルは聞こえないふりをして両手で自分を囲むように円を描く。

その円は光となって地面に降り、青く輝く。


「『セット』」


赤黒い石と水色の石が光りだす。

エドガーは完成させまいと炎の纏う拳をぶつけたり、氷の針を飛ばしたり爆発を起こしてみたりしたがほとんどが魔法陣の盾に防がれ、攻撃はかすめる程度でたいした効果はない。

当たらなかった攻撃はグラウンドや壁に穴をあけたり他の生徒に向かったりした。

ほかの生徒はそれを防いだり逃げたりしてエドガーに「へたくそー!」と文句を言う。

その間にも詠唱は進み、円にはさまざまな紋様や文字、線が加わり魔法陣が完成していく。

完成した魔法陣はシャルの身体を抜け、頭上に輝いた。


「『星』『落下』『的』」


左の手のひらは魔法陣に、右手はエドガーを指す。


「いやマジでそれ洒落なんないからぁ!」


エドガーは頭上に防御の魔法陣を張ろうとする。


「……セフィ姉に言いつけてやる」


ボソっといったシャルの言葉に、エドガーの詠唱が一瞬止まる。

その直後、エドガーを直径1メートルほどの焼けた岩が襲った。


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