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彼方への手荷物  作者: 涼詩悠生
第一章 めんどくさい
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第4話

ホーリーガーデンフェスまであと3か月。


ホーリーガーデンフェスとはフィード国で一番大きな祭りだ。

国中から集まった職人や料理人が店を開き、色んな人が特技やらなんやらを披露したりパレードしたり歌ったり踊ったり、なんだかんだと一週間続く。

キュレスティアの城下町で開催され、それはもう賑やかで華やかな一週間となる。

祭りの歴史は古く、フィード国が建国される前からこの地で開催されていたと言われている。

どうして始まったのかは定かではないが、大地の恵みに感謝して行われている、ということになっている。





ルイはここ二週間ほど忙しく、そして楽しく美味しく過ごした。

図書塔で魔法陣に関する書籍を片っ端から借りて目当ての公式を探すという簡単な作業。

……のはずだが、思うようには進まない。

同時進行で魔法陣のことについて教えてもらってはいるが、説明を聞くたびにわかるようなわからないようなふわふわした感じになる。

そういった時に出されるシャルお手製のおやつは本当においしく、食べながら聞く食べ物を例に出した説明は少しわかるし楽しかった。

ルイがするフェスでの出し物は一つではない。

友人たちとダンスを披露する計画もあり、その練習にも出なければならずどうしても調べられないという日もあった。

図書塔は開いている時間が決まっているが、その他の施設は申請さえして許可があればいつでもできる。

たいていの許可はいつの間にかシャルがとっていてくれていて、今日は行けそうにないと伝えると何も聞かずに「わかった」と去っていく。

行けそうにないと伝えたものの気になって友人たちとの練習後に言われていた施設へ行けば、シャルがひとり本の山に紛れて調べものをしているのを見た時は驚いてうれしくなって、ちょっとだけ「真面目にやろう」、と思った。



「ルイはビン底白髪と付き合ってるの?」


食堂での昼食を食べていると、出し物仲間であり友人の一人アンは言った。


「やっだ、アン。そんなわかりきったこと聞いちゃだめよっ!」

「そうよ、毎日のように放課後に会ってるんだもの。付き合ってないわけがないじゃない」


同じく出し物仲間のリリイとナナが、うんうん言いながらサンドイッチを頬張る。

……どうしてそうなった。


「いやいやいやいやいやいやいやいや。前も言ったじゃん!この間の図書塔の時に助けてもらって、学園長先生が手伝ってあげなさいって言ってくれたから手伝ってくれてるだけなんだって。付き合ってるとかそんなの全然ないし!」

「またまたぁ。毎回楽しそうに実習棟に行くじゃない」

「ビン底白髪も毎日誘いに来るし」


ねぇ、と三人が声をそろえて言う。


「ちがうんだってばぁ……」


ルイはハンバーグをフォークで一口サイズに切り分ける。


「確かにさー毎回楽しみですよ。でもそれはアイツが毎回おやつ作ってきてくれるからであって他意はないんだって」

「まぁ!お手製おやつですって?」

「聞いた?リリイ、アン」

「聞いた聞いた。毎回会うたびに手作りおやつ作ってくれる男子はいないよねー」


もしかして墓穴掘った……?


「だからそんなんじゃないんだってばああああああああああああああ!!」


ムキになるところがあやしいよねー、とまた三人が盛り上がる。


うう……今まで他の人をネタにしてきたけど、間違いでも自分の事になるとなんかかなり恥ずかしい……

これは毎回おいしいおやつを作るあいつが悪いんだ!


「……あ、ルイがいた」


盛り上がられてるところに噂をすればなんとやらで本人登場である。

友人たちは余計に盛り上がる。

噂されてる本人は空気も読まず話も聞かず、用件を伝えようとした。


「今日なんだけど」

「あんたが全部悪いんだーーーー!」

「……は?」


見事なまでの八つ当たりだ。

シャルは訳が分からないといった感じでルイを見た。


「シャルがおいしいおやつ作ってくるから悪いんだ!」

「いや、意味が分からないし」


シャルはいつも通りに話を待つ。

そのときその場の空気がどよめいた。


「泥棒猫はあなただったのね!!!」


そんな怒鳴り声と共に現れたのは、制服をかわいらしく着こなす美少女だった。






シャルはこの二週間、できるだけ積極的に動いた。

ルイが作ったかのようにシャルが魔法陣を完成させるという事もできるが、後で嫌味を言われても、うっかり発動呪文とか間違えられても困るので、出来るだけルイができることをさせながらフォローしつつ魔法陣について教えるという選択をすることにした。

実習棟の使用許可は纏めてとれるのでフェスまでの3か月分、同じ部屋をとった。

前回のピザの件で「食べ物で教えるのはルイに合っているのかもしれない」と考え、毎回ルイが来る前に簡単なおやつを作っていく。

自分が作ったものを誰かに食べてもらうのは好きな方なので苦にはならなかった。

正直ルイのテンションのほうがしんどいし、めんどくさいからさっさと終わらせたい。

そんな思いで毎日図書塔と実習棟に通い、調べ物にせいを出した。

ルイがなにやら忙しくしているが、居ないほうが作業ははかどるので一切気にならなかった。


「シャルはルイと付き合ってるのか?」


ある講義で一緒になった男子生徒が教室を出る際に聞いてきたので


「ありえない」


と答えた。

あまりにはっきりと迷いなく嫌そうに言ったので、男子生徒は


「そうだよな、変なこと聞いて悪かったな」


と去って行った。

去り際に「シャルにはそういう事無縁だよな」とか聞こえた気がするが聞かなかったことにしておく。


軽く昼食をとろうと食堂に来た時、入口付近の席に座って食事しているうるさい四人組に気が付いた。

横を通り過ぎようとした時に


「……あ、ルイがいた」


と、ほぼ無意識に出した言葉にその四人が一斉にシャルに視線を向けた。

……ついでだし今日のおやつの事もあるし来るかだけでも聞こう。

ルイ以外の三人がなにやら話しているが聞こえないことにして口を開いた。


「今日なんだけど」

「あんたが全部悪いんだーーーー!」

「……は?」


よくわからないが、いきなり怒鳴られた。

ルイの顔を見れば真っ赤になってるし、何かあったことくらいはわかるが何故それで怒鳴られるのかがわからない。


「シャルがおいしいおやつ作ってくるから悪いんだ!」

「いや、意味が分からないし」


いつもの通りなら何か言ってくるだろうとシャルはルイの言葉をまった。

そのときその場の空気がどよめいた。


「泥棒猫はあなただったのね!!!」


そんな怒鳴り声と共に現れたのは、女装をした幼馴染だった。


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