第一話
初作品になります。よろしくお願いします。
まるで牢獄だ、と言った。
寂しそうに、悲しそうに。
気が付けば目の前で誰かが何かを言っていた。
表情を見るに怒っているらしい。
何語を話しているのか理解するのはその話がようやく終わりかけていたところだ。
「……めんどくさい……」
小さくつぶやいたその言葉でシャルはもう一度同じ話をされる事になる。
……まぁ内容は『授業中に熟睡していた』件についての説教なのであるが。
キュレスティアと呼ばれるその城は主に魔法を学び研究ができるところである。
魔法の研究をするならココ!と言われるところであり、世界に数ある学校の中でもトップ5に入る名門だ。
入学にはかなりの実力が必要とされているが、本当に必要なのは「コネ」と「運」だったりするとかしないとか。
そんな噂が出るほど「落ちこぼれ」扱いされているのがシャルだったりする。
ビンの底のような分厚いレンズのめがねをかけ、可愛らしい黒と白の小さな花をあしらった髪留めで長い白髪を束ねた彼は、毎日毎日寝ているか眠そうにフラフラしているかが多い。
そんなものだから試験だったり成績表だったりの内容は本当に酷いもので、毎度追試やら補習やら課題やらを組まれて「めんどくさい」毎日を過ごしている。
今日もその「めんどくさい」毎日の一日で、授業が終われば説教ついでに出された課題を図書塔でしようと向かった。
図書塔の蔵書数は世界有数といわれている。
専門書や資料などはもちろんであるが、絵本や雑誌、あかずの本や国宝級の品物まである。
……管理している者の趣味とも言えなくもないが……
シャルは受付カウンターに突っ伏した。
「めんどくさい……」
「そんなコト言わないの。ほら、今日はなに?」
正面に座っていた司書クレアは優しく微笑んで手を出した。
シャルはその手にメモを乗せる。
「媒介について?……その場で答えなかったの?」
メモを読み、怪訝そうにシャルを見て言った。
「めんどくさい」
「いや、それ以外も話そうよ」
「……めんどくさい」
クレアは大きくため息をついた。
そして横にある石碑に手を乗せる。
すると石碑にびっしり書かれてある文字がところどころ朱色に光り、消えていった。
「一応貸出記録は残しておいたけれど、そろそろちゃんとしないと学園長も庇いきれないわよ?」
「……めんどくさい」
誰もそんなコト頼んでいない。
誰もコンナトコ入れてくれなんて頼んでいない。
「前から言おうと思ってたんだけど」
クレアは明るい栗色の肩まである髪を耳にかけて言った。
「めんどくさいって言いながらめんどくさいようにしてるのってシャル本人だよね」
言っている意味が分からなくてシャルは首を傾げた。
「本来なら追試も補習も課題も受けなくていい頭してるのに、めんどくさいって逃げたりするから説教食らったり余計にしなきゃいけなかったりするんだよ?めんどくさがらずにやってたら、場合によっては授業一部免除とかも適用されたりするのに」
シャルの目が見開かれていく。
「え、うそ。本当に気が付かなかったの?」
そのあとクレアが制度について何か説明していたようであるが、もちろんシャルの頭に入ってきているわけがない。
シャルは本当に魔法をかけられたと噂されるほど対応を変えた。
ぼそぼそと「めんどくさい」しか言わなかった口は歌うかのように呪文を紡ぎ、いつも寝ているか眠気でフラフラしていたとは思えないほどしっかりとした足取りと姿勢。
そして知識は入学して一年とは思えないほどであった。
特に魔法陣に関する知識はずば抜けてあり、教師ですらたまについていけないほど。
好感度は一気に高まり、嫉妬と妬みも一気に増えた。
シャル本人はそんなこと気にもしていない。
そんなことより気にしていることは、免除になる講義の数だけだ。
実際、魔法陣に関する必修科目はすべて免除になった。
うまくいけば呪文構築に関する科目も一部であるが免除になるかもしれない。
何故今までしなかった!と声を荒げる教師がいたが、
「免除あるのしらなかったんで」
と言われて何も言えなくなったらしい。
今までの彼を見ていれば「めんどくさい」以外に思いつかないからだろう。
免除の科目が増えた一方、補習が必要だった科目もある。
「カドリアの歴史…?普通科目の本だけど…どうするの?」
クレアは渡されたメモに書いてある本を石碑で探す。
ところどころの文字が青く輝き、石碑の上にメモにある本が現れる。
「カドリア」とはキュレスティアがある「フィード」国の隣国で現状は兵器などの開発と共に科学と魔法の研究が盛んな国だ。
「……普通科目補習増えた……」
シャルの知識は魔法に特化したもので、普通科目…とくに歴史はかなりのボロボロ。
教師も匙を投げそうになるほどのものだ。
とりあえず読んで感想をレポートにしてこい、とメモを渡され図書塔に来た…という次第である。
「……席。貸して……」
「はいはい。はい、これと……ここ使ってー」
渡されたのは「カドリアの歴史」と自習スペースの席番号68番の札。
受け取ってがっくりした様子でシャルはふらふらと自習スペースへと向かった。
カドリアの歴史は結構長い。
建国千何百年とかの式典を近々するとかしないとかの噂が流れている。
初級編であるこの本でさえなんだかごちゃごちゃと書いていてどこから手を付けていいものかと目次を見て悩む。
正直とってもめんどくさい。
……どうしたものか……
ドォォンッ!!
……補習やめようかな……
「おい!危ないってお前!」
いきなり肩を掴まれシャルは振り返る。
そこで初めて図書塔の異常に気付く。
爆発が起きている。
一番の爆発は終わったようだが、あちらこちらでまだパチパチドンドンいっている。
それも5mほど後ろという近さ。
「早くお前も避難しとけ。司書さんが先生呼び出してるから!」
見知らぬ生徒はそういってそこから離れていく。
シャルはまだ現状がよく呑み込めていないらしく、爆発現場をみる。
粉々になっている机といす、避難していく人。
ほとんどの利用者は塔から出ようとして入口に群がり、クレアが誘導している。
そして、現場の中心。
「『風壁』」
シャルは一つ唱えると同時に現場の中心に向って歩き始める。
髪留めが白く光り、シャルの周りに風の壁ができる。
すぐ近くでドン!と鳴り、足元でパン!と何かが爆ぜる。
そして目の前にあるのは青と朱に光るヘンテコな魔法陣と、気絶している女子生徒。
「『制止』」
髪留めが黒く光り、魔法陣の光が黒に変わる。
爆発が弱まり、おさまっていく。
それを確認し、自分の使っていた机からレポート用紙とペンを持ち魔法陣を写す。
様々な丸と三角と交差する線と魔法文字。
瓦礫と埃が舞い散る中、ただ写した。
机に戻って座り、白紙のレポート用紙にペンを走らせる。
「基礎は……ジクハイムの発芽法則。発動しやすく御し難い……。……フレッグの公式……連鎖反応を促す。……カームのA式、元素を取り込むのに使う……」
ブツブツブツブツ言いながらカリカリカリカリ書いていく。
「うわっ!なんじゃこりゃ!」
後ろで到着した教師たちが驚き、事態を把握しようと魔法陣の把握を試みる。
「ジクハイムの法則とフレッグの公式、カームの式が使われているのはわかりますが……ほかにもいろいろ混ぜているようですね。分解して逆法を使うしかないですね」
「カームの式を使いながらこっちで火の属性を付与したら火が大きくなるってもんだが……そこまででかくなっているわけではないな。こっちで制御か何かしているんだろうか」
「こちらはティーズの涙から……ですかね。原型をとどめていませんが……」
教師たちもあれやこれやと相談しあっているなか、シャルは書くのをピタっと止め立ち上がり気絶している女子生徒へ歩み寄り胸ぐらをつかんで上半身を起こす。
「君、ここは私たちが」
バシーーーーーーーーーーーン
彼女の反応は未だ無い。
シャルは容赦なくもう一度頬を打った。
思いっきり、力の加減もなしで。
バシーーーーーーーーーーーン
いきなりの行動で呆け、我に返った教師はシャルを止めにかかろうとした時、女子生徒が目を覚ました。
目をパチパチし、周りを確認しようとした時、シャルが手を離したので床で頭をかなり打った。
「いったぁ……」
「解除式組み込んであるんだったら早く停止させろ」
言われた女子生徒は一瞬ポカーンとして、自分の真下で発動している(が少し様子が変わった)魔法陣を見て
「あ。ごっめーん。今すぐ止めるねぇー」
とか言ってキャハっと笑った。