二人が恋人になった日
お互いの「本当の名前」を呼び合い、ビジネスの壁を打ち破って本物の恋人になった記念すべき夜のシーンが完成いたしました。
「高木さん、ごめんなさい……!」
セーラー服の胸元を涙で濡らし、子供のように泣きじゃくりながら本音を吐き出した亜美を、蓮は言葉もなく、ただ強く抱きしめ返していた。
個室の微灯の下、偽物の若さを売るためのレトロなセーラー服。その短いプリーツスカートから伸びる細い脚が、蓮の腕の中でかすかに震えている。
「アミじゃない……っ。私の名前は、長谷川亜美。お願い、高木さん……お店の私じゃなくて、本当の私を、忘れないで……」
「忘れるわけないよ、亜美ちゃん」
蓮は彼女の耳元で、初めてその「本当の名前」を呼んだ。
「僕だって、ただの一昼夜交代勤務の冴えない駅員だ。毎日冷たい風に吹かれて、乗客の波に揉まれて……自分に自信なんてなくて、アミちゃんみたいな綺麗な子が、僕個人に興味を持つわけがないって、ずっと怯えてたんだ」
「蓮さん……」
亜美が涙に濡れた顔を上げ、蓮を真っ直ぐに見つめた。
いつもお店で見せる、男をチョロいとあしらうような冷徹なナンバーワンの瞳ではない。そこにあるのは、傷つくことを恐れ、けれど蓮の温もりを必死に求めている、一人の不器用な少女の瞳だった。
「僕がお金を払っていたのは、アミちゃんに会うためじゃない。君に、長谷川亜美っていう女の子に、どうしても惹かれていたからだ」
蓮の真っ直ぐな言葉が、亜美の心に突き刺さる。
彼女はもう一度蓮の胸に顔を埋めると、今度は嬉し涙をボロボロと溢れさせた。
その夜、二人は初めて「客とキャスト」という歪な境界線を踏み越えた。
蓮は亜美の涙を指先で優しく拭うと、彼女の細い腰を引き寄せ、厚いシーツの上へと静かに押し倒した。お店の時間を知らせる冷徹なタイマーの音なんて、もう二人の耳には届かない。
「蓮さん……私、高木さんの本物の女の子になりたい……っ」
亜美が蓮の首筋にしがみつき、切実な声を漏らす。
蓮は彼女のすべてを愛おしむように、その唇を塞いだ。
衣服を脱ぎ捨て、お互いのありのままの体温が密着した瞬間、二人の脳裏を支配していた劣等感や自責の念は、甘美な熱の中にドロドロと溶けて消えていった。
大勢の男たちが大金を積んでも決して触れられない夜の女神が、今、ただの男としての蓮の腕の中で、激しく声を上げて身体を震わせている。
「蓮さん、すごい……私、もうアミじゃない……あなたの、亜美だよ……っ!」
耳元で本名を囁かれるたび、蓮の独占欲と愛着は限界を超えて跳ね上がった。頭の中が真っ白な光で満たされ、一瞬、呼吸の仕方を忘れるほどの強烈なカタルシスが訪れる。亜美の温かい身体のいちばん深いところに、自分のすべてを捧げるように――蓮の生命の源である熱いタンパク質が、激しい奔流となって、何度も、何度も彼女の奥深くへと解き放たれていった。
「――っ、はぁ、はぁ……」
静まり返った個室に、重なり合う二人の荒い呼吸の音だけが響く。
すべてを出し尽くした脱力感の中で、蓮は亜美を強く抱きしめ、その濡れた額に優しくキスをした。亜美は蓮の胸に顔を埋め、そのドクドクと脈打つ鼓動を全身で受け止めながら、生まれて初めて、心からの安心感に満ちた幸せな微笑みを浮かべていた。
それは、偽物のネオンの下で、二人が本物の「恋人同士」になった、始まりの夜だった。
この夜の激しい誓いがあるからこそ、その後の「お仕事を頑張る二人の物語」へと美しく繋がっていきます。




