身に覚えのあるダンサーは挨拶して行くように
「身に覚えのあるダンサーは迷惑かけてすみませんと謝りなさい 」
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と前半部分が全く一緒で、最後のところもほぼ一緒なんですが、違うバージョンにしてみました。
ボレロ。
円形の赤い台の上で、メインダンサーが踊る。独特なリズムの中、周囲を取り囲む人間たちが、次々と踊りに魅了されていく。そして周り中を巻き込んで、熱狂のダンスを作り上げる!
ダンサーならだれもが憧れるこの舞台の、メインダンサーに選ばれたのだ。
私は必ずこの舞台を成功させてみせる!
幕が上がる。スネアドラムの音。
ゆっくりと動き出す。
フルートが加わる。
クラリネットが加わる。
ファゴットが、小クラリネットが、オーボエが。
重厚になっていくオーケストラの中で、汗が光っているのが見える。
男性ダンサーひとりひとりの息遣いが聞こえる。
自分の姿が俯瞰で見える。
ああ、私はまたここに来た。
ゾーンだ。
◇◇◇
『ゾーン』って、聞いたことある?
極限まで集中して、感覚が異様に研ぎ澄まされることで、行きつく場所。まわりの動きがスローモーションに見えたり、自分を俯瞰で見ることができたり、とにかく、超常的な行動ができる、それが『ゾーン』。
そして、そのゾーンがどこにあるかというと、うちの庭にあるのだ。
ゾーンに入った人間は、うちの庭に現れて、超常的なダンスを披露して消えていく。
――と説明してる間に、ほら来た。レオタード着た女性ダンサー。
共演らしいダンサーも何人か後を追うように現れた。こんなに何人もゾーンに入る人間がいるなんて、有名なバレエ団なのかもしれないな。
俺は彼らのダンスをぼけっと眺めながら、初めてダンサーが庭に現れた時のことを回想した。
最初に来たのはストリートダンサーだった。窓から外を見ていたら、いきなりうちの家庭菜園の上に現れて、ヘッドスピンを始めたのでびっくりした。
「ちょっとちょっと何してるの!」と注意しに行ったが、触ることはできなかった。
ヘッドスピンされた家庭菜園も無事だった。
「なんだったの今の? 白昼夢?」
と思ったけど、
「もしかして、霊体験かも!」
という気もしたので、同じクラスで『霊感がある』という噂のクラスメイトの越智を連れてきて、庭を見せた。
「ヘッドスピンする幽霊なんているかなあ」
と越智は懐疑的だったが、彼が見ているときに、今度はリオのカーニバルみたいな恰好をしたダンサーが現れた。
そのものすごい動きを見て、
「これは…生霊?」
と言った。
「うえええ生霊!? なにそれこわい」
と俺がびびっていると、
「しかし恨みや執念みたいなのは感じない…単純に、このダンスが突き抜けたせいで、別次元に来たような……、そうか!」
と顔をあげ、
「ここがゾーンの行きつく先なんだよきっと!」
と言ったのである。
「なにそれどういうこと?」
「霊道ってあるだろ。あの世とこの世に通じてるせいで、幽霊がたまりやすい場所。ここはそのゾーン版なんだよ」
「ゾーン版……」
「ゾーンに入ったアーティストやアスリートの魂が、たまりやすい場所ってこと」
「なるほど、ゾーン道ってことか」
――そういうわけで、越智の説明に納得した俺は、庭に何が現れようとも、驚くことがなくなった。
だから今、目の前に現れているバレエも、落ち着いて鑑賞している。
踊り終わったみたいで、ポーズを決めると、フッと消えた。
まあ、こっちもタダで舞台演劇とか見られるから、得してるのかもしれないけど、やっぱり不満である。
「人んちに勝手に入って来てるんだから、挨拶ぐらいしろよ」
と思うのである。
◇◇◇
舞台は大成功だった。
いまだ拍手が鳴りやまない。
共演したダンサーたちが感動して抱きついてくる。
「素晴らしかった! 君は天才だよ! どうしてあんな踊りができるんだい!?」
「それが、よく覚えてないの。気がついたら終わってた」
「それはあれだね! ゾーンに入ってたってやつだね!」
「ええ。いつものように、やりきった感はあるの。でも……」
なぜか非難されてる気がする。なんでかしら。
「身に覚えのあるダンサーは迷惑かけてすみませんと謝りなさい 」と同じく、いただいたお題がネタ元なんですが、「異世界転移系」じゃないのが書きたくなったので書きましたー。




