乗っ取ってしまった女の子の職場がブラック屋敷の使用人だと思っていたらドアマット枠だったので家出します
ふと目を開けると私は屋根裏部屋の中にいた。
藁のベッドと、それにかかっている布以外存在しない。眠るためだけの部屋だ。
「うぅ……頭が痛い……」
『昔』の私はラノベとゲームが好きだった高校生のオタクだった。
周りを見渡す。部屋の中はだいぶボロい。ラノベの使用人にしてもなかなか酷い雇い主に雇われたことが分かる。
そういえば、転生ものにはよくあるそれまであったはずの記憶が無い。
全部私で構成されている。
……ああ、私はどうすればいいのだろう。転生ものはまだ魂のない存在に入って、赤ちゃんからスタートするか、肉体にカバーストーリーのつけられた神様転生があるけれど、これ、完全乗っ取りじゃん。
なっちまったもんはもうどうしようもない。いつか、返すときのために野垂れ死なないようにせねば。
1時間ぐらい悶々と考えていた。
もう一度部屋を見渡す。
部屋の入り口に掃除道具が見えたから、恐らく元の持ち主は掃除婦だったのだろう。
それも扱いの悪い。
服装が、あまりにもボロいのだ。昔話に出てくるつぎはぎのある服を着た老人の身分は豊かな方だったと思うぐらい。
使用人の労働環境って、ブラックでも、ガワだけはもっとキラキラしているものだと思っていた。
体の年齢は見た感じ9歳ぐらいだ。
でも働いているから下手すると栄養状態の問題の問題で13歳よりは上なのかもしれない。
恐る恐る出て、誰にも会わないように掃除を始めた。
記憶の中に、使用人という存在は主人と会ってはいけないものだと言う記憶があるから。
使用人をやめてしまいたいが、紹介状の文化とかがあったらあれなので黙々と掃除をする。
結構汚れているなぁ。
掃除してから気づいたけれどどうやら料理担当もいなかった。料理を保温する魔道具あるので17時ぐらいには作り終えて、テーブルに置いておこう。
メニューは調理場の卵と白パンでブレッドオムレットを作った。
調味料は塩とハーブが主なようだ。パンは固い、昔ながらのパン。
魔道具があるし内装が私でも気づくぐらい時代がごちゃまぜだから、ナーロッパだろう。
自分用のサラミソーセージとライ麦っぽい黒パンを量を多くして拝借。
屋根裏で食べる。黒パンはチーズで食べたことがあるけれど、サラミも美味しいな。
午後も頑張ろう。
窓を拭くワイパーが欲しいと思いながら午後の掃除をした。
夜、終えても良さそうなぐらい綺麗になったため主人に会わぬようトイレに行ってから屋根裏部屋に戻った。
それにしても、すごく広い屋敷だった。
私はどうやら魔法が使えるらしい。イメージしたらできてしまった。水もないのに綺麗さっぱりになっていて面白かった。間違いない。ここはファンタジーだ。
そんなこんなで、私の、主人の顔を知らぬ不思議な使用人生活が始まった。
何回か街に買い出しに行ったけれど、何回かおまけを貰った。他にも買い出しをしている子供がいたけれど、私よりも大きかったので、私ぐらいの年齢はあんまりいなさそうだ。
言葉と文字がわかるので、安堵した。
この世界の貨幣は大小で、10枚が〜のやつだ。
二週間後のある日、昼の休憩の姿勢のせいでベッドが歪んだのでベッドの形を直していたら指輪を見つけた。
模様が入っている小洒落た金色の金具に、1cmぐらいの薔薇っぽい花の形に整形されたガラスが嵌め込まれている。
安物というカテゴリの中の高い商品というのがすごく分かる。
もしかしたら体の持ち主が買ったものなのかもしれない。
なんか、これをつけて掃除をするととても綺麗にできる気がする。ごめん、借りさせてください。
ボロいとはいえ使用人用の手袋があるからその指輪が取られることもない。怒られるかもだけれど。
少なくとも没収されることはないだろう。
ファンタジーだからこういうのにも魔力増幅とかの効果があるのかと思ったけれど特になかった。
つけながら掃除をしていたら、手袋がポヤポヤ光っていたので中を見ると指輪が桃色に光っていて、その光はよく見ると一つの線になってどこかへつながっていた。
……斜め下に向かって光っている。地下室っぽい。
少しぐらいいいよね?
そう思いながら階段を降りようとしたら、近くから話が聞こえる。主人だ。離れなければ。
手袋を急いでつけて振り返ると主人らしき婦人とその息女っぽい人が廊下を曲がって来た。
慌てて離れて掃除をし始める。
何回移動しても二人が近づいてくる。そして。
「ねぇ、ちょっと」
恐る恐る顔を上げる。初めて見た主人の姿は貴族の婦人だった。その顔は美人なのに、滲み出る顔の種類が意地悪そうだという感想を抱くものだった。
息女は8歳ぐらいで可愛らしい顔をしていた。でも顔に意地悪そうな部分がもう滲み出ていて救えなさそうだと少し思ってしまう。
服装は二人ともパステルカラーのドレスを着ていた。似合う服のジャンルが違いすぎてファッションセンスのフの時もない自分でもおかしいと分かる。
婦人はとても意地悪な笑みを浮かべて、いきなり私の頬をぶってきた。
私は呆然としていると、婦人はフンと言いたげな顔をして去っていく。
息女は主人の後ろであっかんべをしていた。
妾の子……だったのろうか?私は。
もしそうだとすれば辞めるとき、死ぬことになるのかな?
婦人が自室に入った音を聞いてから、地下に向かう。それにしてもめっちゃ直線だな。
地下を移動する時も、掃除用具はまた婦人と鉢合わせた時のために持っていた。
言い訳が効くように。
地下を5分後ぐらい歩きまわってとうとう、光が壁の中につながっているのを突き止めた。
「あれ……?行き止まり……?」
でも、直感と、私の知識が行けると告げている。
後ろとかを振り返り、誰もいないことを確認してから、意を決して壁に踏み出すと、壁の中に入った。
入ってから振り返ると廊下の景色が見えた。不思議なことになっている。
壁の中は3畳ぐらいの部屋で、テーブルとその隣に大小のRPGに出てくるような宝箱が置かれていた。大小と言っても、両方とも太ももぐらいまである大きさだ。
大きい方は腰まであった。
テーブルの上には一つの本とメモ帳と鍵。
どうやら、指輪から伸びる光はメモ帳に続いていたらしい。
メモ帳は最初は魔法陣になっており読めない状態になっていたけれど、文字が動き始めて読める文章になっていった。
……文字が日本語になっている。どうやって翻訳したんだろうか。
『レティシアへ。母です。多分、このメモ帳を読んでいると言うことは私は生きていないでしょう。私の死後、この家は後妻に乗っ取られるかもしれません。その前にすこしでもあなたに財産が残るように、小さい方の箱にはできる限りの私個人の財産と装飾品たちを入れました。失われていない形見はここにあります。この鍵は二つの宝箱を開ける鍵です。この手紙を読んだ後、できる限り早く中の財産を持って逃げてください。箱も魔道具です。限界まで宝石と金貨をつめました。本は魔術書ですが、特殊な魔道具になっており、数百冊分の魔法が読めます。魔導書は最初に箱の中の財産を移動させるためのアイテムボックスのスキルを覚えてください。そして箱ごとアイテムボックスの中に入れてください』
……君は、レティシアと言うんだね。
他にも色々書いている。読んでいくと、どうやらこの手紙を書いた人はこの体の持ち主の母親で、この子はどうやら妾の子ではなく令嬢だったらしい。
そんで父親、入婿と。なにやっとんじゃ父親。
じゃあなんなんだあの二人は。……やばいやつか。シンデレラの母や姉ももう少しちゃんとしていた記憶があるのだが。
鍵を小さな方の宝箱にさしこむと、宝箱に幾何学模様の光が走り、開いた。
中に小指の爪ほどやビー玉ぐらいの大きさの様々な大きさのルースやブローチなどの装飾品がみちみちと詰まっていた。金色のコインもたくさん。一番上に袋があり、その中には大小様々な銀貨や銅貨が入っていた。
ルースはあまりにも雑に入っているせいで一瞬イミテーションかと思ったが、真珠のネックレスがよく見ると真円では無いのでもしかしたら本物なのだろう。
何かの魔法をかけてあるのだろうか。
少し不安になりふと後ろを振り返る。
来た時に見た地下の廊下ではなく、なぜか私の屋根裏部屋の光景が続いていた。
ちょっとだけ宝石の入った方の箱の中身を見せてもらう。
どれもこれも装飾品のデザインがいいのがわかる。どうやって作っているんだろう。
その中でも、金色の台座にガーネットらしき石を何十個も使い薔薇を描いた模様のブローチには心惹かれた。何か少し懐かしい気持ちがするのだ。
もしかしたらこの体、レティシアちゃんの形見なのかもしれない。
大きな方の箱の中にはザ町娘といった感じの服が5着と、リネンのような布地が入っていた。
布地の方は、逃げる時、小さかったらこれで服を作れと言いたいのだろう。しかし、町娘の服は大きいとは言え、1から服を作るのはなかなか骨が折れる。頑張れば江戸時代の着物の身長が合うようにするやつみたいにできるだろうか。
恐る恐る本と薔薇のブローチとアクアマリンのようなルースを持ちながら部屋に戻る。
メモ帳は念のため残しておいた。
装飾品、よくよく考えると下手したら足がつきそうだなと思ったけれど、メモ帳に逃げなさいと書かれているから、案外大丈夫なのかもしれない。
指輪の光は屋根裏部屋に戻ると、横の方向に向かっていた。
一刻も早くアイテムボックスを覚えて、あの箱を入れなければ。
一週間後、また主人改めてやばい奴:マザーとまた会った。相変わらず似合わない服着やがって。
どうやら、やばい奴:娘曰く、この服はレティシアちゃんのと母親のやつらしい。
なるほど。それで似合わない服を着ていたのか。 何考えているんだこいつ以外の感想がない。
親父はどうしているんだ。
二週間後、なんとか服を私サイズにできた。糸は市場に売っていたものを使った。
ついでにボロの服もしたいけれど……。
その三週間後にアイテムボックスのスキルを覚えることができた。
なんかゲームのUIみたいなことを考えるとできたのだ。
万が一が怖いのでまずルースで実験し、成功したのを見てから、早速宝石の入った箱を中に入れる。箱は何事もなくアイテムボックスの中に入っていく。よし。
容量とかも見れないかなとイメージすると、ちゃんと残り容量がわかるUIのようなのが出てきた。これで大丈夫。家を出よう。
荷物はその日のうちにまとめておいた。言っても箱達だけだけれど。
最後にもう一度あの部屋の中に行き、隠し扉とかが無いか確認すると、指輪を介さない、私の魔力で開く空間があり、そこにはさっきと同じようなメッセージのメモ帳と金貨の入った巾着があった。奪われた時のためだろう。
……本当に指輪、奪われなくてよかった。
その明後日。逃亡決行の日。
予定だと、私は町娘の服装で夜こっそり市場に出て、いつもと違う数箇所の店で食糧と糸を買い、路地裏でアイテムボックスにしまってから街の外に出る。
怪しまれないかについてはあの魔法の本の目次に変装魔法のやり方があり、それの初心者向けの変装魔法を覚えたのだ。程度は大丈夫だ。目も変えられる。
ちょっと服装が綺麗だけれど、大丈夫だろうかと思いながら顔とかを拭ったらいい感じに汚くなったので多分大丈夫だろう。
いざ、夜の街に出る。
いつもと違う風景だ。街灯があるせいなのか、治安が体感想像していたよりも良い。
夜市でおばさんたちの会話を盗み聞きしたのだけれど、夜に街から出る人と言えばやっぱり夜逃げになるらしい。
それとその人がターゲットになっている、かなり割高だけれど、それ用の引越し業者が存在すると言う情報を聞いたのでそれを使うことにした。
路地裏に行くとやっぱり裏の部分があり、どうしようと感じる。
ちゃんとそれっぽい業者のところへ辿り着いた。
中にいる人はお兄さんでとても厳つい。
「すいません、お引越しって私でもできますか?」
そう言いながらおずおずと大銀貨を渡す。
「なんだ嬢ちゃん、ご主人様の壺でも割ったのか?後、まずは名を名乗れ」
どうしよう。
「割っていません!私、私は……レティと言います……あの、これ……足りなかったら……これが私の全財産です……お母さんの形見なんです……新しいお母さんに会いたく無いのです……」
そう言いながらスクエアカットにされた親指の爪ぐらいのエメラルドのルースを出すと、厳ついお兄さんの目が見開かれた。
「……わかった、これが契約書だ」
行き先を聞かれたので隣国だと答える。
……身分とかそう言うのを管理する魔道具があったらどうしよう。
その夜は馬車に揺られていた。思っていたよりも揺れは少ない馬車だった。
そして。
「着いたぞ。ここはフロンテ自由都市だ」
フロンテ?
「少し治安は悪いが、身分のあれこれは冒険者としての実力者でやっているらしい。10歳より下なら、生まれもここだとしてくれるはずだ。昨日あんだけの胆力を発揮したのだ。お前なら生きていける」
お兄さんは背中を押して、私がいた街に戻っていった。
私はいつまでもお辞儀をしていた。
そして。
5年後、私は冒険者ランクDになっていた。
冒険者ランクはGからAもSSランクと言うものになっていて、私はこの街でぼちぼち暮らしている。
レティシアちゃんの母の財産にはまだ手を付けていない。
先払い型のカフェで安い飴菓子の付いた、紅茶を飲みながら、聞き耳を立てていると女性冒険者たちの会話が聞こえてきた。
よく見ると新聞を読んでいる。ファジーなファンタジーだなぁ。
内容は隣国の騒動らしい。
とある貴族の婚約破棄騒動。
とある国の子爵令嬢が伯爵子息に婚約破棄されたらしい。
ん?婚約破棄?と思ったら想像していたのとは別の話だった。
理由はどうやらこの体の持ち主、レティシア・ハルモニア子爵令嬢にあのやばいやつ:娘がなりすましていたのがバレたかららしい。
どうしてわかったのかと言うと、王太子が指導して研究していた、魔力版DNAの研究に協力したからだと言う。思わず背景を宇宙にした。
そして、本家である公爵と遺伝子が一致しなかったからのようだ。
なぜわかったかと言うと、その一致する確率の多さ。
まだその方面のけんきゅうは発展途上で捜査の現場には持ち込めない程一致する確率が高い精度なのに、王太子が調べたら一致しなかったらしい。
あんなに一致することが多い発展途上のやつですらこうと言うことは……と言う感じらしい。
王太子自身もサンプルの損傷を疑っていたため、潔白のために衆人環視の元で検査をしたが、それも一致しなかった故、婚約破棄に突入、現在、家宅捜索のようだ。
「今後はこう言う話も増えるのかしらねぇ」
「なんて言うか、こう言う魔伝子の話題って夫人の浮気が発覚するとかそう言う方向性だと思うのに、まさかなりすましとかの話になるなんてねぇ」
そう言う系の話題は日本だとよく聞いたなぁ。
このニュース、長年保存しておいたらプレミアがつきそうなので後で新聞を買おう。
「親父さん、紅茶おいしかったよ」
「あいよー」
紅茶をぐいっと飲んで、マスターにお礼を言って、店を後にした。




