表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/90

集会

 “自由商業同盟”結成以降、橋前市場の空気はさらに熱を帯びていた。


「規制緩和しろ!」

「いや最近の橋前、治安良くなっただろ!」


 市場区画では、連日のように議論が起きている。


 皆、“橋前をどういう街にするべきか”を語り始めている。


 玲司は第二橋の欄干へ寄りかかりながら、その空気を静かに見下ろしていた。


(……完全に公共空間化したな)


 都市が成熟すると、“市民討論”が生まれる。


 広場。

 新聞。

 議会。


 人々が、共通の未来について争い始める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司」


 ボルドが難しい顔で橋へ上がってくる。


「今夜、“公開討論集会”やるらしい」


「自由商業同盟ですか?」


「市場派と宿区画側、両方出る」


 玲司は少しだけ目を閉じた。


(……早いな)


 政治化は加速し始めると止まらない。


 理念対立は、必ず“公開論争”へ進む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……止めないの?」


 エルザが静かに聞く。


「止めたら逆効果です」


 玲司は静かに答えた。


 討論禁止は不信へ変わる。


 言論を抑えるほど、地下化する。


「むしろ表でやってもらった方が安全なので」


 エルザが少し呆れた顔をした。


「最近、本当に統治者みたいなことしか言わないわね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の夜。


 橋前広場には大量の人が集まっていた。


「始まるぞ」

「市場派の代表来た!」


 中央には即席の演台まで置かれている。


 以前のハルグ村では考えられない光景だった。


 最初に前へ出たのは、“自由商業同盟”側代表の商人だった。


「最近の橋前は管理が増えすぎている!」


 歓声が上がる。


「許可!」

「規制!」

「監査!」


「昔の橋前はもっと自由だった!」


 市場区画側から拍手が起きる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……結構支持あるわね」


 エルザが小さく言う。


「ありますね」


 玲司も否定しなかった。


 都市では必ず“自由重視派”が現れる。


 規制は、生活を守る。


 だが同時に、人を窮屈にする。


「都市って、“自由”と“秩序”の綱引きなので」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次に演台へ上がったのは、宿区画代表だった。


「自由だけで回るなら、最近の宿不足も起きてない!」


 今度は宿区画側から歓声が上がる。


「夜間騒音!」

「水不足!」

「土地投機!」


「最近の橋前が崩れかけたの忘れたのか!」


 広場がざわつく。


 完全に割れている。


 玲司は少し離れた位置から、その光景を静かに見ていた。


(……前世と同じだな)


 都市政治は常に対立していた。


 自由か。

 規制か。

 成長か。

 安定か。


 どちらも間違いではない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……お前、出なくていいのか?」


 ボルドが低く聞く。


 玲司は少しだけ黙った。


 今ここで自分が話せば、空気は変わる。


 だが。


(……今は違うな)


 この街は、玲司一人の街ではない。


「今日は見ます」


「珍しいな」


「今の橋前、“自分たちで議論できるか”の段階なので」


 その声は静かだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「玲司殿」


 ラウスが静かに広場を見る。


「……恐ろしいですね」


「何がです?」


「平民たちが、“公共議論”を始めている」


 玲司は少しだけ目を細めた。


 都市には“公共圏”が存在した。


 人々が議論し、対立し、世論を形成する空間。


「最近、周辺領地でも“橋前では市民集会が開かれている”と噂です」


 ラウスは苦笑する。


「普通、そんなもの反乱前夜です」


 ボルドが吹き出した。


「言われてみれば確かに!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 討論は夜遅くまで続いた。


「もっと自由を!」

「いや秩序必要だ!」


 怒号。

 拍手。

 野次。


 騒がしい。


 だが。


 誰も武器を抜かない。


 誰も壊そうとしていない。


 皆、“橋前をどうしたいか”を本気で考えている。


 玲司は第二橋の中央へ立ちながら、その光景を静かに見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でもあなた、支持失うかもしれないわよ」


 隣のエルザが静かに言う。


 玲司は少し考えた後、小さく笑った。


「……それでも街が回るなら、多分その方が健全です」


 エルザが少しだけ黙る。


 夜の橋前市場では、“どんな都市であるべきか”という無数の声だけが、静かに灯りの下でぶつかり合い続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ