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物流拠点

 翌朝。


 橋前市場には、今まで見たことのない数の荷車が並んでいた。


「おい、場所空いてるか?」

「水を補給したい!」

「馬を休ませたいんだが!」


 怒鳴り声と笑い声が入り混じる。


 玲司は橋の脇に立ちながら、その流れを静かに見ていた。


(早いな)


 予想以上だった。


 口コミの広がりがかなり速い。


 前世でもそうだった。物流関係者の情報伝達は異常に速い。“使いやすい場所”の情報は、商人同士で自然に共有される。


「玲司!」


 ミリアが走ってくる。


「パン足りない!」


「追加焼ける?」


「もう焼いてる! でも追いつかない!」


 顔は大変そうだったが、表情は明るい。


 ほんの数日前まで、売れ残りを心配していた少女とは別人のようだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お前、本当に何したんだ?」


 ボルドが呆れたように言う。


「いや、俺も橋前に人が増えるとは思ったぞ? でもこんな急に隊商まで来るか普通?」


「来ますよ」


 玲司は即答した。


「商人は“使える場所”を探してるので」


「使える場所、ねぇ……」


「前のハルグ村は不便だった」


 玲司は橋前を見渡す。


「休めない」

「食えない」

「情報もない」


「だから通過された」


 だが今は違う。


 飯がある。


 座れる。


 人がいる。


 会話がある。


 つまり、“滞在できる”。


「商人は移動中、常に中継地点を探してるんです」


 玲司は橋を見る。


「この村は本来、その条件を満たしてた」


「……なるほどな」


 ボルドも少しずつ理解し始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その時だった。


「おい!」


 若者の一人が叫ぶ。


「橋で詰まってる!」


 玲司が視線を向ける。


 橋の中央で、二台の荷車が動けなくなっていた。


「だから先に行けって!」

「無理だ! 後ろ詰まってんだよ!」


 後続の荷車も止まり始める。


 橋前の流れが一気に滞った。


「……来たか」


 玲司は小さく呟いた。


 ボトルネック。


 人が増えたことで、橋の限界が表面化した。


「どうする!?」


 ボルドが叫ぶ。


 玲司は周囲を見る。


 橋。

 川。

 岸。


 そして即座に判断した。


「人を橋から降ろす」


「は?」


「歩行者を川沿いへ回してください!」


「そんな場所歩けるのか!?」


「今は無理でも作る!」


 玲司は近くの木材を掴む。


「板持ってきて!」


 周囲が慌ただしく動き始める。


 前世でも何度も見た。


 交通処理。


 導線分離。


 混雑は、流れを整理するだけでかなり改善する。


「馬車は中央!」

「人は左へ!」

「止まるな、流せ!」


 玲司が指示を飛ばす。


 最初は混乱していた村人たちも、徐々に動きを合わせ始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 三十分後。


 橋前の流れはかなり改善していた。


「……通ってる」


 ミリアが呆然と呟く。


 即席の歩行通路。


 橋の横を歩く人々。


 荷車は中央を流れていく。


 完全ではない。


 だが、明らかに動きが戻っていた。


「なんでこんなの思いつくんだ……」


 ボルドが疲れた顔で言う。


 玲司は橋を見ながら答えた。


「人と荷車を混ぜるから詰まるんです」


「それだけか?」


「大体は」


 都市問題の多くは、結局“流れ”の問題だった。


 人。

 物。

 金。


 それが詰まると、街は死ぬ。


 逆に、流れれば発展する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……なるほど」


 低い声。


 振り返ると、バルクが橋前を見ていた。


「お前、本当に都市を見てるんだな」


 玲司は少し眉を上げる。


「普通の商人は店を見る」

「役人は税を見る」


 バルクは笑った。


「でもお前は“流れ”を見てる」


 玲司は少しだけ黙った。


 前世でも、そればかり考えていた。


 駅前。

 商店街。

 再開発。

 人流。


 街とは、巨大な循環構造だ。


「なぁ玲司」


 バルクが低く言う。


「お前、本当にただの流民か?」


 玲司は少し笑った。


「自分でも最近よく分からないですよ」


 橋前には、今日も人が集まっていた。


 そして玲司は確信する。


 この場所はもう、単なる“村の市場”ではない。


 物流拠点へ変わり始めている。

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