王国の救世主(ショート×ショート)
ショート×ショートです。あっというまです。おたのしみください。
「おぉ、勇者よ。よくぞまいった。
我が求めに応じてくれたこと、国王として、この国に住むものの1人として感謝するぞ。
さて使いのものより多少なりとも話は聞いているかもしれんが、我が王国は現在、存亡の危機にある。それは其方も知っての通り、魔王が率いるモンスターの集団が現れ、王国を荒らしまわっているからじゃ。
魔王の手のものは恐ろしく、国中の村々を襲っておる。先週だけでも10の村が襲われ、50人以上の人々がモンスターによって殺されたと報告が上がっている。村の家々は壊され、人々は住む場所を失っている。我が城下町にも住処を失った人が押し寄せており、住居の斡旋だけでも大変労力が必要となっている。
加えて魔王軍は人々を攫っておるという。特に若い者が中心に攫われているというが、噂ではさらった人々を北部山地にある鉱山に連れ去っては、鞭を打っては昼も夜もなく働かせているそうじゃ。
娘、息子を攫われたという老夫婦からの訴えも毎日のように報告を受けていてな…。わしも子をもつ親として、悲しい限りなのじゃよ…。
すまない。少し感傷的になってしまったの。
そこで勇者殿、其方に頼みたいことは他でもない。王国を代表するものとして魔王と魔王軍の討伐を行ってもらいたい。
…そこまで深刻な顔をせんでも大丈夫じゃ。いくらわしが国王とて、1人だけ魔王軍と戦えなどと無茶を言うつもりはない。
城下にはひときわ大きな酒場があっての、国王の命令によって国中から優れた戦士、魔法使い、僧侶など、さまざまな腕利き達を集めておる。そこを訪ね、冒険と討伐を助けてくれる仲間を探すのじゃ。わしの任命状があれば酒場で仲間を募るにあたっての優先権も得られるはずじゃからの。勇者殿のお眼鏡にかなう武人、達人を連れて旅立ってくれれば良い。
それと旅立ちにあたって王国からも支援がある。ここを退出したのち、係りの者が其方を宝物庫に案内する。そこにある武器、防具、資金は其方の軍資金として使うが良い。街で武器を買うでもよし。さらに貯めて自分だけの新しい武具を製作するもよし。自由に使ってくれて構わんぞ。
次に魔王軍の動向についてじゃが…
勇者殿…すまんが、少しだけ離席させてほしい。日々国内の対処で忙殺されるストレスから、少しばかり腹が……体調が悪くてな…。すぐに戻るので待っていてくれるかの……。
ゴホン…。おぉ、勇者よ。よくぞまいっ……ん?このセリフはもう言った?すまんの。最近歳のせいで物忘れもあってな。どこまで話したか……そうそう、魔王軍の動向じゃったな。
王国の斥候部隊によると、彼らは北部山地の近くに根城を構えているようじゃ。つまるところ魔王城じゃな。その詳細な位置は、調べようにもモンスターの数が多く探りきれていない。申し訳ないのじゃが、勇者殿が旅の中で情報を集め、敵の居場所を探して欲しい。
以上が国王たるワシが、勇者殿に頼みたいことの全貌じゃ。王国の危機を其方に背負わせてしまうのはワシも心苦しい。しかし頼めるのはもはや其方だけなのじゃ。どうか王国に、いやこの世界に住む者に希望の光を灯すため、魔王の元に旅立ってもらいたい。
……………………。
………どうじゃ?もう行ったか?
いやぁ〜疲れたのぉ。いくら国のためとはいえ、こう毎日毎日では疲れてかなわんわい。早いとこ魔王の件も片付いてくれんかのぉ…。
いや、それにしても腰が痛い。少しは運動でもしないと固まって痛めてしまうわい。
ん?なんじゃ?
え?もう次のが来たのか?約束の時間よりもだいぶ早くないか?
……何?……さっきワシがトイレに行ってた時間が長かったから、休憩の時間がなくなったじゃと?
それは仕方ないじゃろ!ストレスで腹もくだれば、座りすぎて痔も悪化しとるんじゃ!
そうそう、大臣よ。面会が落ち着く頃でいいから、痔の医者の予約を取っといてくれるかの?今回は忘れずに頼むぞい!?
さぁて…それじゃ次の面談をするとするかの。次は……36番目の勇者で…なになに、農村の生まれでお婆ちゃんっ子か。では年寄りの被害のシナリオで行くとするか…。
おぉ、勇者よ。よくぞまいった。」