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第1話 下着には寿命がある

「下着の寿命は3か月なのよ」


 唐突に姉に言われて貴文は鳩が豆鉄砲を食らったかのように驚いた。まぁ、昨今豆鉄砲なんて死語である。食べ物を粗末にするようなことはそもそも許されないし、平和の象徴である鳩を打つなんて論外である。まぁ、確かに、鳩のあのとぼけた顔はどこか人をイラつかせてはいるだろうけど。


「なんなんだよ、唐突に」


 言われた貴文は当たり前だけど言い返した。

 今日は休日で、仲の良い両親は揃って朝早くに出かけてしまった。紅葉が見たいと母が言ったので、前日から仕込んだいなりずしと太巻きを持参しての夫婦仲良しデートである。確か、中学ぐらいから両親はそんなだった。朝起きれば書置きが一枚テーブルに置かれていて、レトロ感満載のはえちょうの中には両親の弁当の残骸があった。要するに、太巻きの端っこと皮の破れたいなりずしだ。寿司桶には詰められることのなかった酢飯まで入っている。何年たっても母は酢飯の量を作り間違える。と思っていたら、それはわざとで、自分の分は自分でつくれ。という母の教えだったらしい。


「あんたのそのよれよれパンツのことよ」


 今まさに全自動洗濯機に放り込もうとした、貴文が手にしたそれを姉は指さした。


「これ?寿命が3か月?……たしかにもう一年は履いてるな」


 昨夜自分が脱いだパンツだ。さわやかな秋の気候であるから、汗臭いとかはない。しげしげと眺めてみると、確かにゴムが伸びてきてはいる。


「だいたいね、今時白の綿パンってなんなのよ?おじさん?ねぇ、貴文、あんたおじさんなわけ?」


 なんだか良くわからないけれど、姉の機嫌が若干悪いらしいことは察した。


「落ち着くんだよこの形。夏場は一応ドライメッシュって書かれてるのを履いてるから」


 なんだかとてもめんどくさく感じながらも、貴文は若干言い返してしまった。


「そのドライメッシュのだって、買ったの去年じゃん」


 それは確かにその通りだ。去年ドライメッシュが流行って、男性用下着まで出たのだ。だから、父親と一緒に量販店に行って、あれこれ買ってきたのだ。去年。


「もう涼しくなったから履いてないよ」


 まあ確かに、汗ばむ季節を数えれば確かに三か月ぐらいだろう。その間毎日履いて、汗もたっぷりかいているから、そう考えれば夏場の下着は酷使されているかもしれない。


「そんなこと見ればわかるわよ」


 姉はそう言って貴文の手からパンツを奪い全自動洗濯機に放り込んだ。そのあとも、洗濯籠のものをどんどん放り込む。自分のものと母親のものを洗濯ネットに入れて、洗剤やら柔軟剤やらをどんどん投入していった。


「新しい秋冬物を買いなさい」


 全自動洗濯機の蓋を閉めるなりそう言い放った。

 そこで貴文は考えた。姉は下着メーカーの社員だっただろうか?いいや違う。姉は食品メーカーの営業事務だ。だから時々試食品を持ってきては家族に感想をせがむのだ。


「どうしたんだよ。突然」


 はえちょうを片付けながら貴文は聞いてみた。姉はいわゆるアラサーだ。まあ、ベータ女性なら大抵そんなもんだろう。晩婚化が進んでいるのは働く女性が増えたから。なんて言っているが、もともとベータは自由恋愛が主流で結婚してきたから、働く女性が増えて出会いの機会が増えたのだからとてもよろしいことだと思う。だが、そうなってくると貴文のようにちょっとぼんやりしたベータ男子は取り残されるわけなのだが。


「昨日合コンだったの」


 姉は手巻きずし用の海苔の上に酢飯を乗せながら話し始めた。具は缶詰の中でマヨネーズと和えたツナだ。野菜室から適当にレタスを取り出してなんとなく彩は整えている。貴文はチューブの梅を出しただけでくるくると丸めただけだ。


「ベータだけの合コンのはずだったのに、なぜかいたのよね、オメガが」


 なるほど、それは場が荒れただろう。貴文はぼんやりと考えながらコップにお茶を注いだ。

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