第二十一章 魔族の記憶
あれは300年前のこと
この時代はまだ魔族と人間が共存していた時代
ともに得意な分野を分担して助け合って生きていた
人間は農作物や鉱山、様々なことを担った
魔族はその中に混ざって助けたり、魔法を教えたり
お互いが必要としていた
俺は魔力の瘴気が渦巻く山の奥の小さな村に生まれた
そこでは毎年のように優秀な魔法使いを輩出していた
しかし俺は全くの魔力を持たずに生まれた
もちろん、村の者たちは忌み子として見るものや
逆に神からの贈り物だと言うものもいた
しかし多くの魔族は、俺を忌み子といい俺は虐げられて生きてきた
ろくに学校にも通えず、ろくに飯も食えなかった
実力至上主義の村から、俺は完全に孤立した
魔法使い以外には価値がないと思われたのだろう
必然的に俺はこの村から離れることになった
まとめるほど量のない荷物を持って、村を出た
まぁ出たところで行く当てなどなかったのだが
ずっと山から北のほうに歩いて行った
昔見た地図によると北のほうに小さな人間の集落があるらしい
まぁ人間にとっても俺は存在価値のない魔族なのだろうけどな
しかし、あるけどあるけどその集落には、一向に到着しない
おかしいもう三日も歩いている
人間よりも体が丈夫とはいえ魔族でも7日飲まず食わずはさすがにまずい
頭がくらくらしてきた
とうとう、俺は暗い森の中で一人、倒れてしまった
それからどれほど時間が過ぎたのだろう
体中全身のだるさとともに、小さな男の子の声で目が覚めた
「…じょうぶか、大丈夫か?おい!」
人間の子供だ、こんな森の中に何の用だろうか
「すっ…すまない、水をもらえないだろうか…」
少年は快く水を渡して飲ませてくれた
体は完全に衰弱しており、立つこともままならない状態だった
彼は、その小さな体からは想像のつかない大きな力で俺を集落まで運んでくれた
森から村まで半日かかるほどの距離を息も切らさず運んだのだ
この子は将来有名な戦士になるだろうと確信した
しかし、俺の意識が持ったのはここまでだった
それから三日たったらしい
俺は三日間完全に意識がなく、眠っていたらしい
長距離を歩いた疲労と、栄養不足に水分不足その他もろもろ…
その小さなバラック小屋の外からは、あの少年の声が聞こる
「俺は…少年よ俺のみに何があったのだ」
「あぁ、起きたんだ俺はこの村の戦士ライコ・イエローヴェインだ、魔族の…えっと名前は?」
「名前か…俺の村で名前で呼ばれたことがないからわからない」
「そうか、君魔力全くないもんな、魔族の魔法使い社会じゃ淘汰されるだろうな」
「あぁ、だから逃げてきたんだ身寄りもなければ魔力もないような魔族ってわけさ」
絶望的な状態だ、仮に俺がこの村からも必要とされなければ、本当に行く当てがないから死ぬしかない
まぁ魔族だから死ぬことすら簡単にさせてくれないのだがな
「お前、名前ねぇなら俺がつけてもいいか?あと今日からお前は俺の弟子だ、魔法使いにはしてやれねぇが、戦士にはしてやる」
「名前か、確かに欲しいかもな、戦士か…俺が必要とされるならどのような形だろうが構わない」
「お前はそうだな、ベラトールだ戦士という意味がある」
いい名前だ
俺はこの時からライコの弟子となった
今まで受けたことのない訓練だった
ひたすら山の中を走ったり、滝に打たれたり
最初の3年間はひたすらそれの繰り返しだった
「よし、今日はこのくらいにして、そろそろ体術を教えていくぞ」
「本当ですか!これで俺も一人前になれるのですね」
「ははは、まだまだだよ体術を教わっても、それを使いこなせないと意味がないさ」
3年前に比べたら、体をよりうまく動かせるようになった
しかし、それはあくまで戦士としての標準水準まで来ただけだ
俺は最強の戦士になるために、ライコ様に弟子入りしたのだ
イエローヴェイン家に伝わる、名もない古代武術
「それじゃ、俺の道場に行くぞ今日からお前をしばいていくからな」
「お手柔らかに…いやそれじゃ意味がないですね、本気でお願いします」
それからというもの、日が暮れるまで俺はひたすらにぼこぼこにされた
体術というよりは、もはやただただ殴られ、蹴られ、投げられ
「はぁはぁ…もう終わりですか…」
「あぁ、今日は終わりだ、明日も同じ内容でやっていくから、覚悟しておけよ」
こんなめちゃくちゃな修行でちゃんと成長するのだろうか…
とりあえず、今日のところはしっかり食べて、しっかり寝て回復しないとな…
「あら、おかえりなさい…すごいぼこぼこね…イエローヴェイン家の修行受けたんだね昔から、ひたすらぼこぼこにするという修行で、ほとんどの弟子は逃げちゃうのよね…あなたもそうならないといいけど」
ははは…なんちゅう修行だよ…そりゃ人間の弟子は逃げていくだろうな…
魔族は回復力が高いから俺は耐えられてるけど…人間なら三日もすれば逃げ出したくなるだろうな…
「ご飯にしましょうね、お皿出してくれるかしら?」
「はい、浅い皿でも大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫、ありがと」
みんなにはまだ紹介してなかったか
俺はこの三年間でこの村の娘である、メア・フィーリアと結婚した
魔族と人間の結婚は少し珍しい
実際魔族と人間のハーフは少数精鋭と言われている
俺の一目惚れだ
「はい、じゃあ食べよっか」
「はい、いただきます」
メアが作るごはんはとても美味しい
お陰様で怪我もすぐに回復する
「とても美味しいです、いつも本当にありがとう」
「え?えっへへでしょ〜あっそうだ敬語やめない?なんか堅苦しいじゃん?夫婦なんだよ私たち」
もちろん、やめて対等に話したい
しかしこれは俺からメアへの敬意なのだ
メアの強さとその美しさ、魔族への差別心もない
そんな完璧な人間はもう出会えないだろう
そのすべてを尊敬している
「ええ、私が1人前の戦士になったとき、私はメアに初めて対等になれると思っています」
「そんなことないよ、だって私はあんな厳しい修行受けられないもん」
いや受けなくてもその強さまで持ってきたのだ
本人曰く見様見真似らしい
一人で山賊を解体するまでの強さにまで
「ごちそうさまでした、食器洗っておきますね」
「うん、足りた?」
「ええ、メアさんの料理はとてもボリューミーでお腹いっぱいになれます」
「ならよかった、食器ありがとね」
可愛らしい
村の男の方たちはいささか穏やかではないだろう
ぽっと出のしかも魔族の男に、村のアイドル的な存在のメアを取られたのだから
だからこそ、俺は修行しないといけないのだ
メアと結婚するに足る男だったと
「よし!ご飯も食べたしお風呂行こっか」
「はい、俺この村にきて、温泉というお風呂に出会い、とても幸せです…あぁ!もちろんメアと出会った事が一番の幸せです」
「えへへ〜私も」
なんかすまん…のろけてしまって…
「うわ〜今日人多いね…どうしよう」
「安心してください、ライコ様が俺専用のお風呂を用意してくださいましたので、そちらに入りましょう」
まぁ、いやな予感がするのだがな…
ライコ様が用意したお風呂だ…きっと激熱とかなんかやばい成分入ってるとか、あり得るな…
「ここですね、大丈夫でしょうか…ライコ様変なお風呂用意してたりするかもしれませんので、俺が先に行ってきますよ」
「ううん、大丈夫だよ!ライコ様は大のお風呂好きなんだよ、べらとーる知らないの~?」
「えぇ、知りませんでした、そういうことなら、一緒に参りましょう」
メアは隠していることがある
メアは子供の頃、山に入って遊んでいたところ山賊に出くわして、誘拐されかけた
もちろん、メアはとても強いから、山賊をある程度倒した
しかし、武器を持った大将に、胸を切られ
今でもその傷は、残っている
「メア、やっぱりまだ、その傷しっかりと見せてはくれないのですか?」
「えっ?あっうん…ごめんね、結構グロイかもだし…」
「いえ、見慣れていると言ったら変ですけど、傷は俺もたくさんついていますし、もちろん女の子の傷とは別ですけど、俺には何でも見せてほしいなって…なんか恥ずかしいですね」
「え~ベラトールおっぱいみたいんでしょ!」
「いえ!そんなことは…ないわけじゃ…ないですけど…」
広い風呂場に気まずい空気がしばらく流れた
静かに、メアは俺のほうをしっかりと見た
「どんな、姿でも愛してくれるって言ったよね?」
「もちろんです、俺はメアを愛してるなんて言葉じゃ足りないほど、愛してます」
「本当に?どれくらい?」
「来世でも必ず会いに行くほどですかね」
どれほどか…確かに難しいな…メア以外いらないほどだろうか…
俺の修行の活力の原動力だし、メアを守るために修行してるといっても過言ではない
「じゃぁ、見せてあげるね私の全部」
俺たちは最高の夫婦だと思う、これほどお互いを愛している人間と魔族は世界にいないだろう
長所も短所も見せ合い
長所は、うまく生かして
短所は、認め合って助け合って
とにかく俺たちは最高だった




