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『一攫千金』

転生チートで一攫千金!の道のりが遠すぎて挫けそうです。

作者: ELL

ご覧いただき、ありがとうございます。


インフルエンザにかかりました。

熱が高いと、いつもとはちょっと違うことを思い浮かべて、しんどい中でも面白かったです。

ええー?と思いつつも書いてみたら悪くないかもな?と思えたので、やや冗長かとも思いましたが、そのまま出してみました。

冬休み。お時間あるときに楽しんでいただけると幸いです。

「あーーん!なっとうすぱがたべたい!」


 突然、ほんとうに突然、そう言った。らしい。

 三歳になる前の私が。

 家族との食卓で。

 柔らかく煮込まれたシチューを前にして。


 メルローズ・シュヴァイツァー。生まれて初めての言葉が、まんまでも、かったぁんでも、にぃにでも、とぉたんでもなく。


 はじめは誰もが何を言っているのかわからなかったらしい。

 というか、三歳になるまで一言も話さなかった私は、話せない子なのかな?と、思われていたらしい。

 そんな私が、いきなりの長台詞を言ったものだから、場は騒然となったらしい。


 らしい、らしい、と言うのは、もちろん私が覚えてないからだ。


 突然の出来事にも関わらず、この長台詞がはっきりしているのは、当時の大慌てだった家族が、繰り返し、何度も私に同じことを言わせたからだ。


 なにしろ当時の両親は「あーん!」の続きが全く聞き取れず、いにしえの魔法の呪文かと思ったくらいだ。響きも内容も理解できなかったから。でも、食べたい?食べたいって言った?なら食べ物??


 謎すぎても、可愛い娘が口にした初めての言葉。

 どうにか理解しようとしてくれたらしい。


「メルちゃん、もういちど言って?」

「メル、何が食べたいんだい?」


 などとしつこく繰り返し、何度も言わせたらしい。

 とりあえず響きだけでも覚えようと。

 なんたる涙ぐましい努力。愛を感じる。


 もちろん未だに家族どころか世間様にとっても『なっとうすぱ』なるものが何なのかわからずじまいだ。

 納豆も、スパゲッティーも、この世には存在しない。

 そもそも納豆を説明しにくい。

『くさってネバネバした豆』

 そんなものをうちの可愛いメルちゃんに食べさせられないわー!と、おかーちゃんが大騒ぎするのが目に浮かぶ。


 私はメルローズ・シュヴァイツァー。

 未だに納豆スパゲティを夢見る、花も恥じらう乙女だ。


 よかった。ニンニクマシマシ餃子とか、生ビールと焼き鳥とか、微妙に「あれ?これって??」とわかりそうなチョイスじゃなくて。


 ニンニク。家族も世間も知ってる。同じ名前で魔除けのハーブと言われている。食べない。裏口に吊るすだけ。美味いのに。食べないの?って聞いたら、お腹のなかに、吸いとった悪いものが溜まるから、食べてはいけない、と言われた。

 …………。臭いからな、にんにく。


 焼き鳥。家族も世間も知ってる。丸焼きだ。羽を休めている姿がイメージできるやつ。高級料理。北京ダックとか、クリスマスとかに売られるやつと似てる。テラッテラの黄金色に輝いている。揚げ鳥じゃね?と思うくらいに、テラッテラ。味付けは塩とハーブ。ニンニクはもちろん使わない。焼き鳥ってこの世界ではそれだから。切り身焼いたのはチキンソテーという別名を持っている。姿があるのが鳥で、切り身はチキンというらしい。


 たぶん、私は生まれたときから前世の記憶が朧気にあったんだろう。今でも朧気だけど。

 記憶が朧気なせいなのか、転生チートがなかなか上手くいかない。幼い頃からあれこれやってるのに、成果がお金に結び付かない。


 おかしい。転生チートで一攫千金を狙ってるのに。


 そもそも、転生ってのは、そういう何かしらの副次的な効果があるべきでは?かわいく生まれるだけじゃ、割りに合わんでしょ。

 活かしたい、この無駄知識。


 納豆のネバネバは、大根おろしが中和してくれるんだよ、とかは知ってるのに。

 ちなみに大根はある。いわゆる青首大根。ただし、食べない。そして名前も違う。ちょっと覚えてないけど。長くて難しい名前だった。

 だって頭が『あれは大根』って認識しちゃうんだよ?

 料理人に「あれはなに?」って聞いたんだけど「ラファなんとかかんとかですねー」って言うのよ。聞き取れない!

 大根は肉の下ごしらえに使うらしい。細かく刻んでハーブを混ぜたものに肉を漬け込むと、柔らかくなるんだと。使用法、それだけ。


 もったいない!大根に対する冒涜!


 もっとも、醤油もみりんもみそも鰹節も昆布も、まだこの世界で出会っていないので、おでんもふろふき大根も食べられないが。


 この世界の材料で良さそうかな?って思ったのは、大根のガリバタステーキだ。と、思ったけど、ガーリック、つまりはにんにく。にんにく食べないから、バター焼きか。味気ない!それにバター高い!そもそも醤油がないのが悪い!


 こんな感じで、成長すればするほど、フラストレーションが溜まった。主に食方面で。



 あぁ、転生チートで一つだけ微妙に成功したのがあったな。


 うちの領は土地が痩せてて、食物が育ちにくい環境なんだ。


 痩せた土地といえば?

 …………。

 はい、そうです、皆さんご存じの芋です。


 と、いうことで、芋を育ててもらった。いろんな芋の中で、(じゃがいも)甘芋(さつまいも)が環境的にもコスパとタイパもいいみたいで、それらを育ててもらって、名産にしようとした。

 連作障害の対策として、ホウレン草なんかも間に挟んで。

 そこそこいい感じに育った。

 お!これは!と、思ったけれど。 痩せた土地のシュヴァイツァー領でも芋なら作れるのか!連作障害?なにそれ、詳しく!と、周辺の領で評判になって、数年もすれば国中あちこちの痩せた土地で作られて、なんなら国の主食になりそうな勢いだよ。


 国から誉められたよ、おとーちゃんが。

 我が国の食料自給率が上がったとかで。

 誉められただけだけど。金一封は??ねぇ、金一封!


 芋を育ててもらった最初の頃は、目指すはフライドポテトとスイートポテトパイよ!革命起こすわ!と、思ったのだけど、油って高いのよ。

 特に、揚げ油。丸揚げ鳥、もとい、焼き鳥作るのに?って料理人に聞いたら、あれは鳥自身の持つ油分を活用するから、焼いてるのに揚げたみたいに仕上がる、らしい。

 野菜なんかの揚げ物を食べられるのはお金持ちの貴族か、裕福な商人くらいなんだって。


 むーん。うちはそこまでじゃないけど、なにしろ土地が痩せてるから貧乏寄りなんだよね。


 フライドポテトで一世風靡して一攫千金!という目論見は、早々に夢と散った。


 スイートポテトパイも、パイを中心になかなか問題だった。

 バターとか生クリームとかの乳製品が、めちゃくちゃ高価だった。

 試作用に少し買ってほしいと執事に言ったら、一ヶ月間、お嬢様の三食が芋スープのみでもいいかと聞かれて、諦めた。

 試作すらままならぬ!


 仕方ないので、大学芋もどきの、焼いた甘芋にはちみつかけて食べた。美味かった。

 だけど、はちみつもそれなりに高価なので、見た目の割りには高くつく。一世を風靡できない。


 仕方がないので、鬼まんじゅうを作ってみた。小麦粉少な目で。

 知ってる?鬼まんじゅうって。地方のお菓子らしいよ。私は作り方も知ってた。多分味噌県周辺の生まれ育ちだったんだろうね。あれ?味噌県て何?違うな、微妙に違う気がする。まぁいいか。 


 鬼まんじゅうは、受けた。大いに受けた。領民に。

 角切りの甘芋と小麦粉とほんのちょっとの塩を混ぜて、少しずつ水を入れてでろんとさせる。でろん。匙ですくって、ぼたっと落ちるくらい。それを蒸す。以上。

 材料シンプル、作り方シンプル。腹持ちよろし。

 ただ、見た目も味も、素朴すぎた。

 美味しいんだけど甘さは甘芋頼りだから、味わいがとっても素朴。

 出来立てのほかほかも、冷めてのしっとりも、どっちも美味しいけど、素朴。


 素朴な、田舎のおばーちゃんを思い出すやつ。


 って言うけれど、母の田舎にいる私のおばーちゃんに鬼まんじゅうは似合わない。

 背筋が伸びて、いつも綺麗に髪をまとめて、細い指でティーカップの取っ手をつまむおばーちゃん。

 間違ってもカップの取っ手に指をかけない。

 五歳の時にそれやって怒られた。おかーちゃんが。

 五歳にもなるのにまだこの程度にしか躾けられていないのか、と。怖かった。私にとっての怖い人ランキングツートップのうちの一人だ。


 そんなおばーちゃんには、鬼まんじゅう似合わないなぁ、と、思った時点で、貴族向けの新作お菓子の線は消えた。まぁ、食べてもらったら「ほほほ」と、ちょい受けたようだが。


 だけど、領民には大いに受けたので、転生前と同様に、地方の愛され郷土料理としての地位を得たと思う。

 うちの領の収穫祭では、各家や屋台で作られる人気メニューになった。収穫祭ではあちこちでみんなが鬼まんじゅうを食べてる。


 あ、ちがった。メルまんじゅうって言うんだよ。私の名前がついてるの。


 収穫祭に参加すると、あちこちから声をかけられるのよ。


「メルさまーー!うちのメルまん食べてってーー」

「メルさまーー!今年の甘芋はメルまんにはぴったりな甘さだよー」

「メルしゃまー!メルまんふたつたべてもいい?」


 最後のそこのおちびちゃん!あなた、右手と左手に持ってるやつ、どちらももう半分になってるわよ!


 私も、メルまんじゅうも領民にはとても愛されてる。


 でも!


 一攫千金が遠い!!!




 私は転生チートでの一攫千金を諦めたわけではない。


 甘芋で芋焼酎が作れるはずだが、作り方が見当すらつかない。


 却下だ。


 甘芋は甘味があるから、領民はそのまま焼いたものももちろん食べる。


 大きな壺に甘芋をいれてゆっくり加熱する壷焼き甘芋が領民には人気だ。

 これで一世を風靡できないかと考えたが、壺の重さの前で力尽きた。

 でも、この壷焼きには可能性がある。かもしれない。ちょっと保留しよう。


 ふつうの芋の方は国民食になったくらいだから、調理法も各地で工夫されてて、酪農がさかんな地域だとマッシュポテトみたいなものがあるらしい。

 この間、おとーちゃんが視察に行った領は酪農が盛んで、話に聞く感じだと、ポテトグラタン風のものを作ったりもしているらしい。


 く・や・し・い!!!!


 乳製品があれば!芋と乳製品で、芋のポテンシャルは爆上がりするのに!私にはその知識があるのに!!


 …………。

 今、ここにないものは諦めよう。


 そうして、毎日のようにうーん、うーんと頭を捻り、ようやくひねり出した。

 メルまんを越える、一攫千金への鍵よ!


 それが『片栗粉』だ。

 知ってる?片栗粉。あれ、じゃがいもからできてるの。

 なので、とりあえず片栗粉を作ってみた。


 芋をすり下ろし、清潔な粗目の布でつつんで、水の中でふりふりふりふり。匙の背でぎゅっぎゅっ。

 しばらくおいて、上澄み水を捨てて。新しい水を入れて撹拌して、また放置して底に白く沈殿したら、上澄み水を捨てて。

 残った白いのを皿に広げて、乾燥させる。


 料理人は、調理場の隅で意味のわからない作業をする私を、奇妙な目でチラチラ見てた。

 鬼まん……メルまんの開発してたときはもうちょっと好意的な視線だったのに。

 あれかな、料理感なさすぎるからかな?


 労力は大したことないけどめんとくさい、そんな作業の末、手にいれたサラッサラの純白の粉。

 匙を使って皿を掻いて、ほろほろと白い塊がほぐれていくのを、料理人がうろんな目で見てくる。

 おかしい。賞賛の目じゃない。まぁいい。


 出来た!片栗粉!


 片栗粉は本来、主役じゃないんだよな。

 脇役。料理の可能性を広げる存在。

 だけど私は、この片栗粉が主役として輝ける道を知っている。


『わらび餅風デザート』


 ねぇ、今度こそ貴族向けの高級デザートいけるんじゃない??

 料理人が多少青ざめてたけど、砂糖を。貴重品な砂糖を使った。何しろ貴族向けだから。

 片栗粉と同量くらいの砂糖と、水を……片栗粉の五倍くらいかな。

 かき混ぜ混ぜ混ぜして、火にかけて、ひたすらまぜまぜまぜまぜ。

 白く濁っていたものが透明になったら、出来上がり。


 うーん、香りはちょっと片栗粉くさいね。

 出来上がったものをカップにとりわける。

 形成はいいや、面倒だし、氷水ないし。


 本来なら、ここにきな粉と黒蜜をかける。

 だけどこの世にきな粉も黒蜜も存在しない。


 黒蜜がないから、カラメルソースを作ってみた。

 ああ、乳製品さえ潤沢に使えればプリンだって!!!


 いや、今は考えるのをやめよう。悲しくなるから。


 透明なぷるんとした片栗餅に、カラメルソースをかけて、出来上がり!


 家族と試食しよう。


「…………。メルは発明家だなぁ」


 照れるな、おとーちゃんったら!


「…………。こんな食べ物、見たことないわ」


 おかーちゃん、片栗粉は発明品だからね。


 ささ、二人ともはやく食べてみてよ!

 と、促すのに、両親揃っての困惑顔。

 そんな中、にーちゃんが大きな声で宣言した。


「メル。ごめん。こんな、御不浄(ごふじょう)のスライムみたいなの、気分的に食べられないよ」


 にーちゃんも、もちろん貴族だ。貴族だが、まだ若いし、筋力愛が強いタイプだ。

 なので、貴族のくせに、正直だ。あたまに馬と鹿が付くほどの。


「御不浄の……すらいむ??」


 この世界は、微妙に魔法が使える人とか魔物とかが存在している。

 魔法が使えなくても動く魔道具とかもあって、ある程度のお金さえあれば、日常生活はとても快適だ。


 だけど、当たり前だが転生前とは全く異なるものも少なくない。

 例えば、トイレ。

 御不浄と呼ばれるそれは、転生前のとは全く違う。


 トイレは水洗ではなく、養殖されたスライムが処理する。

 スライムは優秀なので、内側に金属を貼った陶器や金属製のバケツ……たらいみたいなものにスライムを入れておき、そこに排泄すると、スライムがすべてを飲み込んでなかったことにしてくれる。拭くための雑紙(かたいかみ)とかも、ぱっくんしてくれる。

 透明で、プルプルしたそれは、金属以外はわりと何でも食べるのが驚異的だが、攻撃性もないのであらゆる分野で活用されている。主に汚物処理として。


 私は手元のカップを見た。

 透明でプルプルしてる。透明でプルプル。間違いない。しかも、焦げ茶のソースまで…………。

 だめだ。

 兄め。あんなこと、言うから。

 私までスライム(しかも!!!!)にしか見えなくなってしまったじゃないか!

 これはスライムだ。スライムが過ぎる。


「っあああああっ!スライムめ!!!」


 私はバタン!と大きな音をたてて机に突っ伏した。

 令嬢としては零点どころか、マイナス減点だが、今はいい。

 ちらりと両親の様子をうかがえば、ホッとした表情でメイドにカップを片付けさせている。


 これは売れない!!!!

 全く売れない!!!!


 私の一攫千金の夢は、またしても遠退いたのだった。


 片栗粉のせいではない。私がちょっとだけ欲をかいたんだ。片栗粉を主役にしてガッパガッパもうけようと。

 断じて片栗粉のせいではない!



 私は、少量の水溶き片栗粉を使って、スープにとろみをつける方法を料理人に伝えた。

 とろみコンソメスープは、透明感が失われず冷めにくいのがよい。と、家族には大変好評だった。

 なので、その年の収穫祭で、料理人に屋台を出させてみたところ、めちゃくちゃ売れた。飛ぶように売れた。

 一攫千金の気配を感じたものの、この世には使い捨てカップなど存在しない。


 スープ代よりもカップ代の方が高くつく。

 価格のほとんどがカップ代といってもいいくらいだ。

 庶民の手の届く価格にすると、利益はない。むしろ赤字だ。


「メルさまー!メルメルスープめっちゃおいしい!」

「メルさまー!メルメルスープあったかいねぇ」

「メルさまー!メルメルスープ、おかわり無料?」


 こらこら、おかわりは無料じゃないわい!

 カップもっておいで、半額で売ってあげるよ。


「えー、もう半額にしてーー」


 仕方ないなぁ。

 私は苦笑いで頷いた。


 私はカップに入ったとろみスープ────メルメルスープと名付けた。料理人が。───を飲む、幸せそうな領民の顔をながめ、結果オーライとすることにした。


 その後、片栗粉は零細ながらも領の特産品になった。

 加工が簡単なので、小さい子どもや力のないお年寄りの、ちょっとしたお小遣い稼ぎの仕事としてうってつけだという。

 働けなかった層の雇用拡大だから、領民への負担もないし、何気に領内は活気づいたよね。


 こうして片栗粉とメルメルスープは、じわり、じわりと国中に広がっていった。


 どこぞの見知らぬカリスマ料理人が『カタクリ伝道師』を名乗り、片栗粉を活用した料理をいろいろと開発してくれた。そしてとろみのことを『メル』と呼びだしたのも、このカリスマだ。


「ちょっと水溶きカタクリでメルらせてぇー」

「ほら、この、メルった感じがいいのよーぅ」

「カタクリをたくさんにするとメルメルになるわよぉぅ」


 今では一般的にも『とろみ』イコール『メル』と表現されるようになった。

 名前の使用料を求む!!


 ちなみにこのカリスマは、カリスマだけに一財産を作ったらしい。

 おかしい。片栗粉を作ったのは私なのに。

 私はまだ一財産築けてないのに。


 かのカリスマのお陰で、片栗粉は売れた。

 だが、その頃には国中のあちこちの領で片栗粉が作られるようになっていたので、うちが爆発的に儲けたわけではない。

 おとーちゃんは、技術を隠すより皆に提供するタイプだから仕方ない。


『片栗粉』という画期的な食材を開発したことで、おとーちゃんはまたしても国から誉められた。


 誉められただけだし、開発したの、メルローズちゃんですけど??と、おとーちゃんにちらりと抗議したが「メルはほら、基本的に拝金主義だから……」と、言いにくそうに伝えてきた。

 どうやら貴族的には、国に金一封を求めてはいけないらしい。

 国から誉められるという栄誉だけ受けとるそうな。

 栄誉じゃ腹は膨れんぞ!


 また後年、とろみを増量した『メルメルメルスープ』が、飲み込みやすさとむせにくさから、病人食としての地位を確立するのだが、それはまた別の話だし、当然、一攫千金には繋がらなかった。


 私の一攫千金への道は、まだ見えない。


 だが、まだまだ私の人生は長い。

 私の戦いはこれからだ!





 そうやって、私は私にできることを頑張ってきた。一攫千金のために。

 主に食を豊かにする方向で。


 だというのに!!


 ある日、想定外のところから撃たれた。まさかすぎた。



「メルローズ・シュヴァイツァー!あなたとの婚約をはっきする!」


 おバカ王子がそんなことを大声で宣言した。

 彼が、入学の挨拶で登壇した際に。


 ねぇ、入学式だよ?挨拶のために登壇したんだよ?

 ばかなの?ばかだったね。

 舞台袖で控えていた私は、頭を抱えた。かったけれど、そんな余裕はない。

 ことは一刻を争う。


 私はそのまま舞台の中ほどまでツカツカと進み、お馬鹿王子と対面した。


「もう一度、おっしゃってくださいませっ」


 さあっ!本人を目の前にして言ってごらん。

 王子を見上げ、睨み付ける。

 いつの間にか私より背が高くなった年下の婚約者の尻拭いをせねば。


「メッメッメッメメッメッ」

「メルローズ」

「メル、こわい」

「そりゃそうでしょ。怒っておりますから」

「メル、婚約破棄するぅ」


 私は、ショボショボな発言をする王子の頬を叩いた。ぺちん。


「こんな大勢の前で、迷惑かけて。本当に破棄になりますよ、いいんですか?やっぱりもう一回やりなおし、とかないですからね?よいですね?」


 王子の目に、みるみるうちに涙が溜まる。


「やだぁ~~~メルぅ~~ごべんだざい~~」


 王子が私にすがりついてきた。

 でっかい図体で、邪魔くさい。


「私はいつでも婚約解消は受けるっていってますよね?」

「やだやだやだぁ~~~メルぅ~~やだぁ~~解消はやだぁ~~はっきなのぉ~~でもはっきもほんとはやだなのぉ~~」


 幼児か。駄々こねる幼児のが見た目が可愛いだけましだ。


「とにかく、こんな茶番。ほら、皆さんが唖然としてますわ」


 会場には、今年の入学生とその保護者。一部の在校生がいる。

 入学生は十五才。大人と子どもの狭間にいる彼らにとって、既にいくつかの公務も行っている同い年の第三王子は、大人びた憧れの存在だった……かもしれない。私にとってはいつまでもべしゃべしゃ泣いてる泣き虫だが。

 そんな入学生の皆様が、一様に口をぽかーーーんと開けている。

 私たち、何見せられてるんだろう。そんな顔だ。


 さて。とりあえずこの場をどうするか。

 私にすがり付く王子を一旦引き剥がし、演台の前へと進んだ。


「かように、誰でも。仮に王子であったとしても。人生においては悩み、混乱することもございます。そんな時、あなたの支えとなる、助けとなる友人が隣にいることを忘れないでください。一人で悩まないでください。どうか私たちを頼ってください。互いに競いあい、励ましあい、助け合える、そんな良き出会いが皆様にありますよう、心から願っております。以上をもちまして、在校生代表、メルローズ・シュヴァイツァーからのお祝いの言葉とさせていただきます。ご静聴、ありがとうございました」


 丁寧にカーテシーをし、べそべそ泣いてる王子の腕を掴んで舞台袖へと引っ込んだ。


 あーあ、丸二日かけて考えた私の名挨拶が、あんな陳腐なものになっちまったよ。


 私は、目の前でいつまでもべしょべしょ泣く婚約者(仮、でいいよね?もう)を見上げた。いつの間にか背だけはひょろんと高くなったのに、相変わらずの泣き虫だ。


 片栗餅を「ほら、スライムですよ」って投げつけたときもこれくらい泣き止まなかったなぁ。

 その後「食べ物で遊ぶな」っておかーちゃんに怒られて、私も泣いたけど


「そろそろ泣き止んで、鬱陶しいから」

「ベル、キツい……」

「メルって言えなくなるほど泣くな」

「だって……」


 王子の後ろに見知ったおっさんが現れた。


「ほら、偉い人がお呼びですよ。怒られに行きますよ」


 ぐずぐずが収まらない王子の手を引いて、見知ったおっさんの後に続く。


 見知ったおっさんは「偉い人って……」と呟いていたが、偉い人でしょ?それとも「おとーちゃん」って言えばよかったかい?


 学園の応接室には、偉い人こと、王子のパパが、溜め息を重ねて待っておられた。


「座れ」


 あ、長いタイプだ。まじかー、お腹空いてるんだけどなぁ。


「フェルナルド、理由を聞こうか」

「ぐずっぐずっぐずっぐずっ、ずびーーーっ」


 うっわ、泣きすぎだろ

 私も引いたが、目の前の偉い人は呆れて頭を抱えたわ。


「メルローズ。第二王子の相手がまた空席になったのだが……」

「だべえぇぇ!」


 きったない叫び声だなぁ。笑えるわ。


「そっちの殿下、またオイタですか」

「あれはあれで頭が痛い。ギリギリのとこで上手く片をつけるから、廃籍もできん」


 偉い人は額から髪の付け根に両手を差し込み、後ろへと指を走らせ頭を抱える。

 私はその、柔らかそうな細い毛の寿命を心配し、目が離せなかった。

 ただでさえ将来的な不安がありそうな毛質なのに、子らが要らぬ心労かけたら、ねえ??

 奥さまも心配されてましたよ?毛根。


「あれは一種の才能ですよね。人と時機を見る目がある、ともいえますよね。でも私は嫌ですよ」

「だよなぁ。メルローズは顔の美醜は問わんよなぁ」


 あら、失礼な。


「好みじゃないだけです。単に好みで言えば、私は王太子、第三王子、第二王子、の順ですね」

「べ、ベル??」

「メル、ですよ」

「あじヴべが好みなの?」

「そうですよ、王太子殿下のお顔だちはとても好みですね。王太子でなければ…………」

「ベルぅ」


 鬱陶しいなぁ。


「そうか。若い女性は皆、第二王子みたいなのが好みかと思っておったが……」

「あー……多分、五歳くらいまでなら私も騙されたかもしれませんが……あのナルシスト臭がどうにも……」

「なる……」

「あ、失礼しました、お気になさらず」

「……まあよい。さて、フェルナルド、なんであんなバカをやった」

「だってっ!だってっ!」


 だってがしつこい。

 ほら、君の父上もイライラしてるよ。


「はよ説明せぃ」

「ベルがっいっかぐぜんぎんっていうがだっ」

「は?」「え?」

「ごんっごんやぐはっぎだらっいじゃりょうぐぁ」


 隣の男の胸ぐらを掴んだ。

 王子だ?不敬だ?こちとらそいつの婚約者じゃ。文句あっか。


「ねぇ、ちょっとまって。婚約破棄の慰謝料で一攫千金?わたくしに結婚で商売しろと?このわたくしが?そんなことを本気で望むと?」


 王子の涙が引っ込んで、顔を青くしてプルプル震え始めた。


「王家から結婚絡みで金取るなら最初から第二王子と婚約しとるわ!殿下の想定の倍はむしりとる自信もあるわ!時間ももっとかからんわっ!今までの第二王子の相手の、誰よりも上手く効率的にやるわっ!」


 タイパもコスパも明らかに最良の相手がいるのに、わざわざこっち選ばんだろ。

 私はふぅーっと一息つくと、王子から手を離した。

 なんでそんなに寂しそうな顔するの。


「……メルローズ、それはそれで傷つく、わしが」


 おっさんの傷心にまで付き合っておれん。

 あんな第二王子(醜聞まみれ)との婚約なぞ、娘は知らんが親側は完全に王家の弱味握るのが理由だろ。

 そんなことより今はこのボンクラの制裁が先だ。


「そもそも、ここ最近、会えば『婚約破棄』って言っては泣いてで鬱陶しいなって思ってたんです。ようございます。婚約破棄、お受けいたします。一攫千金でございますわね。ほほほほほっ」

「だべぇ~~だべぇ~~」

「だまらっしゃい!ダメならなぜそんなことをおっしゃいますの!」


「だってっあじヴべが……」

「王太子殿下?」

「ちいあじぃぃ」


 あ、そっち。いまだに子どもの時の呼び方で呼んでるの、かわいいな。


「で?第二王子殿下が?何て?」

「婚約破棄なら、慰謝料、たんまり払ってやれるから、メルローズの望みの一攫千金が叶うぞ、そんなことを言われたか?」


 っだーー!王子に言わせたかったのにっ!このべしょべしょでぐずぐずしゃべるの、鬱陶しくてかわいいじゃないか。私の楽しみ、取り上げないでよぅ。

 ぶんぶんと音が鳴るかの程にべしょぐず王子が頷く。


「たんまり払われたんですね」

「……今回は相手がなぁ」

「侯爵閣下を敵には回せませんものね。もっとお手頃なお相手にしておきませんから」


 どうせ婚約破棄するんだから、婚約させなきゃいいのに。政治が絡むと難しいのかしらね。


「メルローズはなぁ。王妃に似ておるのが良くも悪くも、なんだよなぁ……」

「母親が姉妹なので、多少は血が繋がってますもの」

「こやつとの婚約を破棄したら第二王子の婚約者やってくれんか?破棄前提で構わんから」

「だべぇったら、だべぇっ!」

「なんですか、その、悪役令嬢ダブル盛りみたいなやつ。やですよ、冗談じゃない」

「だぶ……??まあよい、ダメか」

「殿下との婚約が解消されたら、さっさと領地に引っ込みますよ。まだまだやってみたいことはたくさんありますから」


「あの、栗とは全然関係ない片栗粉とか」


 名前か。最初からこのおっさん、名前についてはぶつぶつ言ってたもんな。


「そうですね、片栗粉はもう、カリスマが色々してくれたので、もっと別のものをやってみたいですね」

「おっ!さては何か考えておるな?ちょい聞かせてみよ」

「ダメですよ、お金がある相手に手を出されたら、うちじゃ敵いませんから」

「なんの、ちょっとだけで構わん、ヒント!ヒントじゃ、ヒント」

「えー……今度こそ一攫千金のにおいがしますので。ほんと、申し訳ありません」


 私は気づいたのだよ。

 シュヴァイツァー領は気候的に、前世の北の大地に似てるのではないか?と。

 酪農はしてないけど。憧れの酪農。広い平らなスペースがないのがなぁ。

 それでだね。

 北の大地と言えば?

 とうもろこし?惜しい!美味しいけどね。

 実は北の大地でのみ作られているものがあるのだよ。あれ、なに知識かな?授業で習ったのかなぁ。

 別の原材料は南の島で作られていたね。

 まだ本格的に手をつけてないけど、早く着手したい。『素』は手に入れたしそこそこ増えた。とりあえず、次の秋休みが勝負かなぁ。


 などと楽しく考えてたら。

 隣からジト目の泣き虫が、上目使いににらみながら、私の制服の袖をつんつん引っ張ってきた。

 なんだよ、かわいいかよ。


「メルは一攫千金が好き。僕より」


 お、ちゃんと喋れるようになっちゃった。


「違います。一攫千金は人生の目標です」

「人生の目標」

「そうです。ドラゴンスレイヤーになりたいと仰っていた、あなたのソレと同じです」

「なっ…………!」

「ほぉ、ドラゴンスレイヤー」


 あれはいくつの時だったかな。かわいかったなぁ。


「ドラゴンスレイヤーになれば母さまも怖くないと。必ずドラゴンスレイヤーになるんだと。私がドラゴン倒したところで王妃様には到底敵わないので、無駄では?と申し上げても、一向にお聞きにならなかった、アレと同じようなものです」

「……フェルナルド、メルローズの意見に賛成じゃ」

「……ええ、僕も今ならわかります」


 王子が落ち着いたのを確認したのか、偉い人が長い長い溜め息をついた。


「この件、今ごろ王妃の耳にも入っておる」

「もう?」

「でしょうねぇ」


 王子、甘すぎる。王妃様の情報収集力は王より上だよ。


 芋&甘芋の栽培成功でうきうきしていた私(と家族)の元に、王家の息子との婚約の打診という名の下知が下るよりも一月は前に、王妃様から『内々に相談』という名の命令として、王妃の息子との婚約の話がやってきた。

 おかーちゃんは「姉様が目を付けたんじゃ絶対に逃げられない……」と、青ざめて嘆いていた。

 私にとっての王妃様はそういう人だ。

 我が家の大将たるおかーちゃんを戦慄(わなな)かせる人。

 たとえ、夫の毛根を心配する面白夫人のふりをしていても、ドラゴンごとき倒したところで敵いっこない。


「メルローズが上手いこと誤魔化してくれたから、と、話しとく。お前、ホント頼むよ。妙なことしてくれるな。こんなに泣いて嫌がるのに、なんでそんなこと言ったのか…………」


 後半はもう、独り言だな。ぶつぶつ呟くみたいになってた。あぁっ、頭に指入れないでっ!ガシガシやらないでっ!


「メル。僕はメルが好き。でも、メルは一攫千金が好き。そう思ってた」

「一攫千金は、殿下のドラゴンスレイヤーと同じですってば」

「もう、それはなくなった。僕の人生の目標は、大好きなメルの夢を叶えることだから」


 なんとも可愛い告白だが、状況は最悪だ。……底辺は脱したか?


「だからあんなバカな真似を」

「バカな真似……」

「だってそうでしょ。あんな、大勢の前で大騒ぎするのがまずない。加えて、入学式という晴れの舞台を台無しにしたのもない。挙げ句に本心ではないからと泣き出すなんて。皆さん、呆れてどうしたらよいかわからなくなってましたよ。上に立つものとしては最低最悪です」

「最低最悪……」


 王子の目に、またまた涙が溜まる。

 私は溜め息をこぼした。


「まぁ。『やらかし王子』として、親近感を持たれる、かもしれませんね」


 上の『やらかし王子』より愛嬌のあるやらかしと思われれば、セーフだろ。セーフだと思いたい。ギャン泣きでしがみついて「やだなのぉ~」だからな。何が起こった?って感想を持ってくれ!あれは茶番!

 あとは私がそこそこ一緒にいれば「あ、やっぱり婚約破棄じゃなかったのね」ってなるだろう。まだリカバリーできる、はず。と、信じて。


「あのね、殿下」


 私は、未だ涙を止められない王子に向き合うように身体の向きを変えた。

 大事な話だ。ちゃんと聞け。


「一攫千金は、自分で考えて、試して、何かが形になって。その過程が楽しいのですよ。その先に一攫千金があればいいな、あってほしいな、いや、あるべきだろう?って、思ってますけど」


 ちらりと偉い人を見るが、さっと視線を逸らされた。おっさん、こっち見ろ!


「あとね、王子が降下するときに、うちの領の隣の、広大な広大な王領をもらう予定ですよね?」


 王子がきょとん?としながら、頷く。くぅぅ。大型犬の可愛さか!


「あれ、待ち遠しいんですよねぇ。酪農、かなり盛んな地域ですものねぇ。王妃さまにお願いしたんですよ。王子に牛をつけてくれって。ホント、王妃さまはわかってらっしゃる」


 まだ十歳の私が初めて両陛下と謁見することになり、我が両親は心の底から心配していた。思わず本音をぶちまけるのではないかと。

 そこでおかーちゃんは私に言ったのだ。


「両陛下にはとんちのような、なぞかけの言い方をしなさい。そうしないとあなたの希望はなにも叶いませんよ」


 そうすれば叶う。ではなく、そうしないとなにも叶わない。

 この言葉のチョイスにおかーちゃんの必死さを感じる。

 だがそれにより、私は「酪農できる領地くれ」を「王子に牛つけて」と言ったわけだ。

 王妃さまはにんまり微笑み(背筋に寒気が走るほど怖かった)頷かれた。

 もうあと数年で乳製品が私の自由になるかと思うと、ニマニマも止まらないってものよ。


「僕より領地!」


 やらかし王子が叫ぶ。うるさいな。


「違います。王子がいるからバターが手にはいるんです。あら、失敬。でも『ちいあに』殿下でしたら、一時の雀の涙な慰謝料で終わりですよ?将来性も見なくては」


 ふてくされる王子の頬に片手を添える。頬が熱い。私の掌に熱が移る。

 カッカしすぎだ。少しクールダウンしろ。


「私はね。殿下のその真っ直ぐな資質の将来性に賭けたんですよ。自分の、将来の夫になる人は、この人がいいなって。だから、こんな、なにもないとこで無様にコケないでくださいな。私の一攫千金を叶えるの、支えてくださるんでしょ?」


 殿下の顔がどんどん赤くなっていく。

 熱感、下がらないなぁ。


 私の背後から「んん゛っ」と、見知ったおっさんが咳払いをする。

 なにか?とばかりに振り向けば「お嬢様のお手は、今の殿下には少し酷かと」


 あら?


 見れば殿下は首まで真っ赤っ赤にして私をじーーっと見つめてくる。……鼻息が、荒い??

 向かいに座る偉い人は笑いが堪えられないのか、ふっふっふっと息をこぼして肩を揺らしているのが視界の隅でちらちらしている。


 わたしは徐に王子の頬から手を離し「んんっ」と令嬢風味の咳払いをした。


「ともかく。もうバカなこと仰らないで」

「メルの一攫千金を手伝いたい。手伝わせて」

「いいですよ。王家に情報渡さない約束が守れるなら」

「メルローズ、徹底するなぁ」


 目の前の偉い人が砕けた表情を見せる。


 ああでもこの流れ。

 仮に上手くいってもあれやこれやでまたしてもおとーちゃんが誉められて終わりパターンかも……王子の嫁の実家が伯爵だと弱いから陞爵つきとか??でも侯爵は絶対にやだっておとーちゃん言ってるんだよねぇ。二回断ってるから難しいかな……


 はっ!捕らぬ狸のなんとやら、というかむしろフラグか?折れろフラグ!



 こうして私のバカバカしい婚約破棄騒動は幕を閉じた。

 ……閉じたよね?閉じたと信じたい!!



 一攫千金は未だ叶わぬ夢だ。

「ねぇ、フェルナルド。お前、メルローズのところでお手伝いをしてきたそうね」

「はっははははははうえ」

「よい、お前は隠し事が下手だから。そんなに怯えなくてよい、問いただしはせぬよ」

「はっはい」

「楽しかった?美味しかった?」

「楽しかったですが……あまり美味しくはなかったですねぇ」

「そう、まだまだ完成は先のようね」

「それが……メルが言うには、じきに完成だと。僕も完成まで残りたかったのですが、公務が」

「なにっ!完成前に帰ってきたの?のこのこと!」

「で、ですから公務が……」

「なぜ!なぜそんな時期に公務を入れたの!!」

「母上の指示ですってぇ!」

「……迎えに行きなさい」

「え?」

「そろそろ領から戻ってくるでしょう?迎えにいって、学園より先に王城へ連れて参りなさい。はやっ」

「はっはい!」

王子が手伝って楽しかったのはサトウダイコン掘り。

美味しくなかったのは、本体。生も煮ても「ええー↓」というのが王子の感想。

王子では王妃の探りを避けられないと、そこまでしか関わらせませんでした。


メルローズはてんさい糖を作りました。

今度こそ一攫千金!なるか…………?

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