エースの4人の王子様
0.プロローグ
「ん? 何だろう?」
蒼井一花は窓の外の異変に気付いた。
「急げ、急げ」
誰かが走る。
「半兎人間!?」
一花はそれを見て、唖然とした。そして。
「よし! 尾行だぁ! おー!」
一花は半兎人間の彼を追いかけた。
1.トランプ界
「あれ? ここは……?」
一花は目を覚ます。
「やっと気が付いた? ここはトランプの世界。君はなぜ、僕を尾行した?」
半兎人間の彼、白兎が目の前にいた。
「いやぁ、なんとなく」えへ?
「え!?」
「うわぁ。きれいな場所」
一花は目の前に広がるトランプ界に目を輝かせた。
「そんな事言ってていいの? 帰れるの?」
白兎は彼女に聞く。
「分かんない」えへ?
――この人、何も考えてないのかよぉ!
「ここで暮らしたいのなら、国王の許可が必要だ。会いに行けよ?」
白兎はそう説明する。
「へぇ」
一花はそう一言。
……。
「どうやって?」えへ?
――この人、やっぱり、何も考えてないぃぃぃ!
白兎は頭を抱えた。
2.スペード国
「ここがスペード国」
白兎はわざわざ、一花を連れて来てくれていた。
「うわぁ。一面、青いネモフィラ!」
一花は目を輝かす。
「綺麗でしょ? この国は一年中、春なんだ」
「すごーい」
白兎は微笑む。が。
「で、何で? メカニズムは?」
一花は真顔で尋ねる。
「そこは自分で考えて! っていうか、僕も知らないよぉ!」
白兎は困惑した。
「さ、国王に会いに行こう」
白兎は前へ進む。
「はーい」
一花は能天気に笑顔で手を上げる。
「お城の中はこうなっているんだぁ」
そして、目を輝かせていた。
「珍しいからって、いちいち目を輝かせなくても」
「え? 目が輝いていた?」
――無自覚!
「君が新しくこの国の国民になりたい人物かな?」
「はい」
国王の問いに一花は笑顔で答える。
「何ができる?」
「え?」
「だから、特技は」
白兎が耳打ちする。
「空手です!」
一花は構える。
――えぇぇぇ!? 格闘家だったのぉぉぉ!?
白兎はムンクの叫び。
「ならば、我が城の警備班に加わるというのはどうだろうか?」
「国王様!?」
国王の提案に総理大臣が驚いていた。
「いいのですか!?」
一花は問う。
「もちろんだ」
「わーい」
国王の返答に嬉しくなり、一花はジャンプする。
――まぁ、一段落?
白兎は冷や汗。
「へぇ。お前が新しい護衛か」
後方から声がした。
「ジェームズ王子!」
白兎は、ジェームズ=ハリス王子の登場に驚いた。
「え!? あれが!?」
一花は驚く。
「あれって言うな、あれってぇ!」
白兎は怒っていた。
「そうだ。お前の新しい護衛だ」
国王が説明する。
「ふーん。合ってたか」
ジェームズ王子はまじまじと一花を見た。
「まさか、いきなり護衛班に出世!?」
一花は驚く。
――気にするところ、そこ!? まぁ、確かに大幅出世だが。
白兎は困惑した。
3.ハート国
「今日は、ハート国のエイダン王子に会いに行く。ついて来い」
ジェームズ王子はすたすたと先を行く。
「はい!」
一花は笑顔で敬礼した。
ガタンゴトンと馬車に揺られる。
「うわぁ。どこまでも青い」
一花は身を乗り出す。
「ネモフィラは、この国の誇りだ」
「うわぁ。ここがハート国!? 綺麗!」
一面に広がる紫色の朝顔が目に入った。
「この朝顔は、エイダン王子の好きな花なんだ」
ジェームズ王子が説明する。
「そうなんだ。すごぉい」
一花は目を輝かせた。
――やっぱり、女子は花が好きなのかな。
ジェームズ王子は横目で彼女を観察していた。
「よぉ! ジェームズ! わざわざ来てくれたのか」
ハート国の王子、エイダン=フローレス王子が話しかけて来た。
「あぁ。新しい護衛もついたからな」
「へぇ。新しい護衛は意外と美人だな」
エイダン王子は、一花の顔を覗き込んできた。
「え!? え!?」
一花は少し困惑した。
「あれ? エイダン様に護衛はいらっしゃらないのですか?」
一花は疑問をぶつける。
「あぁ。外出の時はね。一人がいいんだ」
「そうだったんですね」
「ジェームズ王子は臆病だからね?」
「え!? そうなんですか?」
「んなわけ、ないだろ!」
ジェームズ王子は怒った。
「さてと、俺たち合流できたし、クラブ国のローガン王子のところへ行こうか」
「あぁ。そうだな」
エイダン王子の提案に、ジェームズ王子は相槌をうつ。しかし。
「歩きだな」
ジェームズ王子は呟く。
「え? 何で?」
エイダン王子はきょとんと聞く。
「馬車は二人用だ」
ジェームズ王子は真顔で言う。
「それを早く言えよぉ!」
エイダン王子は苦笑した。
4.クラブ国
テクテクテクと野を行く。
「うわぁ。見えてきたぁ!」
一花は目を輝かす。
「あれは……」
「リンドウだな。このクラブ国は常に秋なんだ」
エイダン王子が説明する。
「すごぉい」
一花は目を輝かせた。
「リンドウの向こうって!」
「イチョウ並木だよ。黄色い絨毯だろ?」
エイダン王子は笑顔で答える。
「綺麗」
一花は再び、目を輝かせる。
――こいつ、驚いてるか、目を輝かせてるか、しかないな。
ジェームズ王子は困惑した。
「おーい! ローガン王子!」
エイダン王子が大きく手を振る。
「久しぶりだな」
彼、ローガン=デイビス王子は微笑む。
「こちらは?」
ローガン王子は、一花の存在に気付く。
「俺の新しい護衛だ」
ジェームズ王子が答える。すると、ローガン王子は一花に握手を求めた。
「初めまして」
――何だか、紳士的な人だなぁ。
「よし! あとはダイヤ国のルーカス王子だけだな」
エイダン王子は先を見る。
「では、ダイヤ国へ向かいましょう」
ローガン王子は笑顔で答える。
「はい」
一花も笑顔になる。が。
「言っておくけど、徒歩だぞ」
「え!?」
ジェームズ王子の一言に、一同固まる。
「ま、徒歩でもいいんじゃね?」
エイダン王子が軽く、流す。
「そうですね。景色がきれいですからね」
ローガン王子も笑顔で誤魔化す。
「そうですね」
一花も彼らの笑顔に騙され、笑顔になる。しかし。
「言っておくけど、雪山だぞ?」
「……」
ジェームズ王子の一言に再び、困惑。
5.ダイヤ国
「まだ、着かねぇのかよ」
猛吹雪が襲う。その中を一同が進む。
「冬の国って大変だぁ!」
一花は叫ぶ。
バラバラバラと上空から音がした。
「もしかして、あれって!」
一花が驚く。ジェームズ王子はその問いに答える。
「対吹雪ヘリだな」
「え!?」
――なんかすごい。
「ダイヤ国は、科学が発展していますからね」
ローガン王子が説明する。
「そうなの!?」
「一花さんの国にもありませんか?」
「対吹雪用はないかも」
一花は考え込む。
「何だ、大したことないな」
「何で!? いきなり暴言!?」
ジェームズ王子の声に、一花は驚く。
「さぁ、皆さん。乗って下さい!」
ダイヤ国の王子、ルーカス=アレンが笑顔で手招く。
「ありがとうございます!」
一花は頭を下げる。
「まぁまぁ。頭を上げなよ。俺、かっこいいだろう?」
「へ?」
突然のことに、一花はきょとんとした。
「あー。ごめんごめん。こいつ、ナルシストなんだよ」
エイダン王子が説明する。
「そ、そうなんですね」
一花は困惑。一方。
「うるせー!」
ルーカス王子は激怒していた。
「ま、どうせいつもの挨拶みたいなもんだろ」
ジェームズ王子が冷めた様に言い放つ。
「何!?」
ルーカス王子は再び、怒る。
――結構、辛口。
それを見て、一花は困惑していた。
「さ、俺の城でパーティだ」
ルーカス王子はそう宣言する。
「パーティ?」
「何だ? 知らないのか?」
ルーカス王子は一花の問いに聞き返す。
「おいしいものも、食べれますよ?」
ローガン王子が笑顔で教えてくれた。
「本当!?」
一花は表情が明るくなった。すると、ジェームズ王子がそれを聞いて、呟く。
「怪獣」
「何で!?」
――ショック!
6.パーティ
「わぁ。天井が高い」
「あったりまえだぜ。俺の城だ」
一花の反応に、ルーカス王子はウィンクをして答える。
「さ、パーティの始まりだ」
「乾杯!」
ルーカス王子の合図に皆、グラスをかかげた。
7.エピローグ
「お姉ちゃん。起きて! お姉ちゃん!」
「あれ? 何で私の部屋?」
一花は自分の部屋で目を覚ました。隣には妹。
「何、寝ぼけてるの? もうすぐ8時だよ。遅刻!」
「え!? 何で遅刻!?」
一花はまだ寝ぼけている様子。
「だから、今日は月曜日! だから、学校! それじゃ、私はもう行くからね!」
妹は出て行った。
「あれ?」
「……」
「えぇ!? ゆめぇぇぇ!?」
――でも、楽しかったなぁ。
――また、会えるかなぁ。
半兎人間が窓の外を横切った。