100%
0.プロローグ
太陽が惑星状星雲を形成してから、数億年後の未来。法律は全ての自由意志に権利を認めていた。
1.菜食主義の延長線上
「植物材を使ったサラダの密造。以上」
検事である悠斗は、法廷で罪状を読み上げる。
「密造って何だよ!」
被告は叫ぶ。
「人工の植物材でも、宇宙環境省への申請が必要なんだ」
「何だよ! それ!」
「被告人、何か言いたいことは?」
彼はLIKU。この法廷の裁判長だ。そして、実体のない立体映像のみの人工知能でもある。
「知らなかったんだよ! 人工でもだめだなんて!」
被告は再び、声を上げる。
「知らなかったのかよ」
「何!? あ! おめぇは担当の!」
被告は傍聴席から聞こえて来た声に振り返った。そこには、担当の警察官、結月がいた。
「どうも、警察官です」
「静粛に」
「はーい」
彼女は、LIKUの言葉に右を見て返事をした。
「判決、懲役3年、執行猶予3年」
「あー、終わった」
結月は両手を上に伸ばし、背伸びをする。
「静粛に」
「はーい」
――つまらないんなら、何で来た?
悠斗は少し呆れていた。
「ハロー! 検事!」
結月は悠斗に話しかける。
「お前、うるさいぞ。法廷で」
「ちぇえ」
「お前も警察官なら、法廷のルールぐらい」
「あ!」
結月はある人物を見つけた。そして、嬉しそうに駆け寄る。
「また、あなたたちでしたか」
LIKUは立体映像の姿で振り返る。
「裁判長。どうでした? 今日の法廷」
結月は尋ねる。
「完璧です。では失礼」
LIKUはスタスタと速足で去って行く。
「風を切るなぁ。ま、人工知能だから、風を切る程の実体はないか……」
「お前、それを言うなよ」
悠斗は困惑した。
「今回の資料です」
人工知能の事務官、MIOが資料を差し出す。
「ありがとう」
悠斗は笑顔でお礼を言う。MIOも笑顔になる。
「ちょい失敬!」
結月はノックもせずに、ドアを思いっきり開ける。
「てめぇ! ノックぐらいしろよ!」
悠斗は声を荒げた。
「わりぃわりぃ」えへ?
結月は照れる。
――えへ? っじゃねぇ!
悠斗は頭を抱えた。
「何だ? いい仲なのか?」
結月はずけずけと土足で踏み込んでくる。
「お前、相手は人工知能だろう?」
悠斗は資料を開きながら、淡々と話す。
「え? だめなの?」
「てめぇ!」
悠斗は顔を赤くした。
「で? 何なんだ?」
悠斗は結月に尋ねる。
「これ、書類に添付し忘れた」
結月は紙の資料を手渡した。
「お前、メールでいいだろう?」
「傍聴ついでに」
「何!?」
「はい。お茶でよければ、どうぞ」
MIOは笑顔でお茶を出す。
「ありがとうございます!」
結月は敬礼をする。
「いえいえ。お友達ですか?」
「え?」
「いつも、気の置けない仲のようですので」
「あぁ、幼なじみ」ウィンク。
「そうだったんですね」
MIOは笑顔のまま、苦笑を隠した。
「もしかして、気になっちゃう感じ?」
結月は再び、土足で踏み込む。
「え!? あ、その」
MIOは頬を染める。
「なるほど、そういうことか」
「詮索はするな」
それを聞いていた悠斗はぴしゃりと言い放つ。
「ちぇえ」
「天然肉を使ったチャーシューの密造、以上」
悠斗は法廷で、罪状を読み上げた。
「天然肉だなんて知らなかったんだよ!」
被告は叫ぶ。
「言いたいことはそれだけですか?」
LIKUは淡々と尋ねる。
「そ、そうだ! 知らなかった!」
「ふむ」
――な、何だ? 今のふむ。
結月は困惑した。
「知らなかったでも、この法律では裁けるのですよ」
悠斗は強く、言い放つ。
「何だよ……」
被告は肩を落とす。
「ふむ」
――何!? またでた、ふむ!
結月は傍聴席で再び、困惑。
「判決。懲役1年、執行猶予1年」
LIKUは判決を言い渡す。
――意外と軽い?
結月は首を傾げる。そして、LIKUは席を立ち、法廷をあとにした。
「どうだった?」
結月は傍聴席から、検事の悠斗へ話しかける。
「まぁ、こんなもんだろう」
「そうだね」
2.人工知能の権利
「てめぇ! 人工知能だろう! 何、偉そうに裁判長やってんだよ!」
被告は叫ぶ。
「私語は慎みなさい!」
悠斗も声を荒げる。
「うるせぇ!」手をあげる。
「静かに」
結月はその被告の手を掴んで、行動を制止した。
「裁判長!」
閉廷後、LIKUは結月の声に振り返る。
「大丈夫でしたか?」
「あぁ、ありがとう。被告を制止してくれて」
LIKUは微笑み、去って行く。
「ほんと、強いよね」
結月は感心して、後ろ姿を見ていた。
「じゃなきゃ、選ばれないよね」
悠斗もその後ろ姿を見ていた。
「なるほど」
3.元素からの創造
「判決。懲役2年6ヶ月、執行猶予4年」
LIKUは判決を言い渡した。
「……」
被告は黙ってそれを聞いていた。
「法律では、全てのものは元素からの創造が原則です。自由意志を侵害することは許されません」
「はい……」
被告は肩を落として返事をした。
「かっこよかったね、裁判長」
閉廷後、結月は廊下で悠斗といた。
「まあな」
「あ! 裁判長!」
「裁判所で走るな!」激怒。
4.自由意志のないもののみ使用
「逃げたぞ! そっちだ!」
同僚刑事が叫ぶ。
「任せろ!」
結月は走る。
ドゴッ! そして、犯人を抑え込む。
「天然肉使用の疑いで、逮捕する!」
結月は犯人の手首に手錠をかけた。
「何で天然肉を使っちゃいけないんだよぉ! どうせ意思表示なんて出来ないだろう!」
「そういう問題じゃない! 自由意志は守られるものだ!」
「判決。懲役5年」
法廷でLIKUが判決を言う。
――実刑!?
傍聴席の結月は驚いた。
「被告。これからは、天然肉を使わないで下さいね」
「ちっ!」
「何か、言いたいことは?」
「どうせ、死ぬことでしか存在意義を発しない奴らだ。食用になって当然だ!」
「それは、違います。存在すること自体に意義があるのです。どんなことがあろうと自由意志の侵害は許されません」
――さすが、裁判長!
結月は目を輝かせた。
5.100%人工
「天然卵の密造。および、その為の鶏の不正飼育。以上」
悠斗が罪状を読み上げた。
――悪質だなぁ。鳥を監禁するとは。
結月は傍聴席にいた。
「判決。懲役8年」
――実刑かぁ。
結月は納得していた。
「被告人、何か言いたいことは?」
「天然ものは一部の富裕層に人気があり、金欲しさにやってしまいました。反省しております」
――なるほど。そちらの検挙も急がないとな。
結月はこれからの参考にしていた。
「今日も、裁判長かっこよかったね?」
結月は廊下で、悠斗と話す。
「俺に聞くなよ。しかも、見た目は立体映像だぞ」
「内面だよぉ!」
「ま、見た目は好きなように変えられるよな? 立体映像だから」
「こらぁ!」激怒。
「お二人さん、仲の良いことで」笑顔。
「あ! 裁判長!」
「どうしたのですか? 何か?」
「この度、最高裁判所への移動になりました」
「それって」
「出世!?」
――直球すぎ。
悠斗は内心、困惑した。
「これで、お別れになりますが、お二人とも、お元気で」
LIKUは笑顔で別れの挨拶をした。
「はい」
「裁判長もお元気で!」
結月は笑顔で敬礼をした。