WARP and TRIP
太陽が白色矮星になってから、50億年後の未来。人類は宇宙連合に加盟し、自由に宇宙を行き来していた。太陽と共に地球が滅亡し、宇宙コロニーで生活する人類には、宇宙旅行が当たり前になった。
1.超新星爆発見学ツアー
「今回のツアーは超新星爆発見学ツアーです」
旅行会社で働く、黒井戸彩加は、上司に企画書を出す。
「採用」
「ありがとうございます」
彩加は笑顔で頭を下げた。
「添乗員は天城蓮、操縦士は四十万壮。よろしく」
「はい」
二人はそれぞれ、返事をした。
――まずは、もうすぐ超新星爆発が起こる赤色巨星を探さなきゃ。
――どこがいいかな?
彩加は目的地を探す。
「目的地は、決まった?」
壮が話しかけて来た。
「ううん。まだなんだ」
彩加は首を横に振る。
「うーん。近場のアンドロメダ支部にする?」
「近すぎないか?」
蓮が話に入って来る。
「遠い方がいい?」
彩加は蓮に聞き返す。
「移動の時に、美しい惑星状星雲や渦巻銀河などが見れるといいんじゃないかな」
「なるほど。それじゃ、隣のカシオペヤ支部にする?」
彩加は首を傾げる。
「そうですね。ちょうどいい距離かも」
壮は微笑む。
「よし。決定! この赤色巨星にしよう! 課長に提出して来る」
「いってら~」
蓮と壮は手を振る。
「皆さん。こんにちは。今回、この超新星爆発見学ツアーにご参加くださり、誠にありがとうございます」
彩加は挨拶をする。
「このツアーは、ニュートリノが大量に放出され、もうすぐ超新星爆発が起こるとされている赤色巨星へ向かいます」
そして、ツアーの内容を説明する。
「これから、このアンドロメダ支部から隣のカシオペヤ支部へ移動します。ところどころ、窓の外に惑星状星雲や銀河系が見えると思います。宇宙の絶景をお楽しみ下さい」
彼女は笑顔で、言い終えた。
「右手に見えますのが、今回、超新星爆発を起こすとされている、赤色巨星です。今はまだ、ニュートリノが大放出している最中です。しばし、お待ちください」
彩加は説明を終えると、一旦、裏手に。
「まだ?」
彩加は蓮に様子を聞く。
「あと少し」
「来た。3210」
ドゴォォォ!
「今回、このツアーにご参加いただき誠にありがとうございました」
ツアーを終えた彩加は、旅行客に笑顔でお見送りをした。
「楽しかったね」
「そうね」
乗客がそう言うのが、聞こえた。
「……!」
彩加は内心、嬉しくなり微笑んだ。
2.Big Bang見学ツアー
「今回は?」
蓮が彩加に尋ねる。
「Big Bang見学ツアーだよ」
「Big Bang!? どうするの?」
一方、それを聞いていた壮が驚いて、聞き返した。
「永久インフレーションをわざとに終了させて、その後のBig Bangが起こる時を狙うの」
それを気にせず、彩加は笑顔で答えた。
「……」
――なんて、ふてぶてしい。
蓮は困惑した。
「ポケット宇宙の外からの観測だろ? 光子は存在できないんじゃないか?」
蓮は彩加に聞く。
「車内モニターと窓には可視光線に変換して映し出すようにするから」
彩加は再び、笑顔。
「……」
――なんて、ふてぶてしい。
蓮も再び、困惑。
《ちなみに》
Big Bangとは、宇宙の始まりに起こる大爆発のことです。そして、永久インフレーションとは、インフレーションという宇宙の急膨張がまだ終わっていない空間のことである。光子とは、光の粒子のことです。
ポケット宇宙とは、インフレーション期が終わり、Big Bangを経て、宇宙空間として存在している宇宙のこと。永久インフレーションではない領域である。
真空崩壊とは、最低エネルギーの状態から、もっと低い最低エネルギーの状態へ空間が遷移すること。その時に、莫大なエネルギーが放出されます」
3.真空崩壊見学博物館ツアー
「今回の企画!」
彩加は机に企画書を叩きつける。
「真空崩壊見学ツアー?」
壮は驚きながらも、企画書を見てくれた。
「人工宇宙内の空間を真空崩壊させて、それを別宇宙からモニタリングするの!」
彩加は笑顔で話す。
「壮大だな」
蓮が遠くから、それを見ていた。
「大丈夫なのか?」
蓮が会話に入る。
「ん?」
彩加は首を傾げた。
「高エネルギーの粒子をわざと衝突させて、空間の相転移を図るんだろう?」
蓮は頬杖をしながら、彩加に尋ねた。
「大丈夫! 粒子のコントロールは博物館の館長に頼んであるから!」
――壮大だな。
蓮は笑顔の彩加に困惑した。
4.ブラックホール体験、制作ツアー
「今回は、ブラックホール体験、制作ツアーです!」
彩加は笑顔で言い放つ。
「ブ、ブラックホール制作なの?」
壮は少し、困惑しながら、言う。
「原始宇宙に存在していた蒸発するミニブラックホールなら出来るかなっと思って」
「……」
――なんて、やつ。
蓮は遠くから、それを見ていて、呆れた。
「それで、体験の方は?」
壮は続きを聞く。
「遠くに自分の後ろ姿が見えるとか……」
彩加は首を傾ける。
「それって」
壮は言いかけるが、蓮が話に入って来た。
「ブラックホールから少しの距離にいると、背後から放たれた可視光線がブラックホールの重力によりその周りをまわって自身の目に写るってやつだろう?」
「うん!」
蓮の問いに彩加は笑顔で答える。
「詳しい」
壮は押され気味で呟いた。
「他には?」
壮はもう一度、彩加に内容を聞いた。
「ブラックホールに吸い込まれていく光が紫から赤へ変化していく様子の見学だよ!」
彼女がそう説明すると、壮は納得した。
「そっか。なるほど。光の波長が伸びるのか」
――ポイントはそこなのか。
蓮はそれを見て、困惑した。
5.連立中性子星の見学ツアー
「今回は何?」
壮は彩加へ尋ねる。
「今回は、連立した中性子星の重力波見学ツアーだよ」
彩加は笑顔で答える。
「どこに行くんだ?」
蓮も内容が気になるようだ。
「一応、博物館にしようかな?」
「へぇ」
――今回は普通だな。
蓮はいつもとのギャップに困惑した。
《ちなみに》
重力波は巨大質量をもつ天体が光速に近い速度で運動するときに強く発生します。そして、中性子星は質量が太陽程度、直径20km程度で、中性子が主な成分の天体である。
6.Big Crunchの見学ツアー
「今回は?」
壮は今日も彩加へ企画の内容を尋ねる。
「Big Crunch見学ツアーだよ」
彼女はいつも通り、笑顔で答えた。
「潰れたあとには、宇宙の再生成のインフレーション期からのBig Bangも見れるかも!」
彩加は嬉しそうに伝えた。
――詰め込み感。
壮はいつもながら、壮大な企画に驚いていた。
「この宇宙はBig Crunchがこれで45回目か」
蓮が資料を見ていた。
「次はもう少し長く、存在し続けられるといいけど……」
彩加も横から、資料を覗き込む。
「まぁ、超銀河団ぐらいまで形成できるだろう」
「あと、生命体もね」
二人は笑顔で会話をしていた。
――上から目線が怖いよー。
壮は少し離れたところから、その話声が聞こえて来て、困惑していた。
《ちなみに》
Big Crunchとは、宇宙がある一点で潰れる宇宙の終焉のことです。宇宙には、Big BangとBig Crunch、要するに生成と終焉を繰り返すというサイクリック宇宙論があり、現在の宇宙は約50回目に相当します。それにより、45回目ぐらいの宇宙には恒星が出来始めたという説がある。
7.一世代前の人工宇宙見学ツアー
「今回は、一世代前の人工宇宙見学ツアーです」
彩加は嬉しそうに話す。
「出来るの?」
壮は首を傾げて言う。
「博物館の一周年記念で、特別に人工宇宙を創造してくれるって!」
彩加は笑顔を崩さない。
――スケールが……。
――しかもまだ、一周年で……。
連と壮の二人は困惑した。
8.光速移動体験ツアー
「今回は、小学生の遠足だよ」
彩加は企画の内容を話す。
「本当!」
壮は目を輝かす。しかし、蓮が尋ねると。
「で、内容は?」
「光速移動体験ツアーだよ!」
「Oh……」
――いきなり、高校物理。
二人は困惑した。
9.褐色矮星体験ツアー
「褐色矮星体験ツアー?」
蓮は企画書を見る。
「そうだよー」
彩加は笑顔で答える。
「何を体験するの?」
「褐色矮星を恒星みたいに自力で核融合できるように細工する体験」
彩加は笑顔を維持。
「……講師は誰だよ」
蓮は困惑した。
10.永久インフレーションの見学ツアー
「今回は、永久インフレーション見学ツアーです!」
彩加は企画書を見せながら、笑顔で話す。
「永久インフレーションを部分的に終わらせよう体験……って!」
蓮と壮の二人はそれを見て、驚いた。
「Big Bangが起きちゃいますね」
「まさか、Big Bangが起きても気にしないとは……」