連携(前)
TURN WEI
沖縄演習から帰投したウェイ・レジスタンスは、演習から得た反省点をまとめている。
「森林の戦いで感じたこととして、お互いの術式が上手く連携できてなかったというものがある」
豪は近絶妃とのコンタクトで大きな力の差を感じていた。同時にその場での対応には限界があるとも考えている。
軍導師も意見を出す。
「物量が強みである青梅側に対し、我々は少数精鋭だ。皆が高い能力を持っているが故に、その活用が上手くできていない節があるのかもしれない」
確かにそうだ。勇は他のメンバー全員に様々なことを教えてもらったが、全てを知れたわけではない。森林演習で鬼と姫が奇襲される可能性は考慮していたが、その時にどのような戦術がとられるかまでは把握できていなかった。
「味方の能力を深く知ることで隠れたリスクに気付けるかもしれません。自分だけではなく、味方に対する分析も大切だと思います」
「勇の言うことはもっともだが、魔術の高度な理論の習得には時間がかかる。危険はすぐそこにあるかもしれないのに、悠長なことは言っていられない」
体術や剣術は人間の身体をもとに繰り出すため、戦闘展開の予測は可能だ。しかし魔術は術者個人が基本理論から高度な実用術式を創るため、土壇場での予測は困難だ。
「私は使用頻度の高い術式をみんなに理解してもらうのがいいと思うわ。戦場に到着してから一瞬で状況確認ができるのが理想ね」
姉の案は的確だが、姫は少し不満のようだ。
「基本は姉さんの通りでいいと思うんですけど、簡単に理解できることだけで勝てるのでしょうか?以前の水源林の件では私が敢えて作戦を隠したことで保安局から逃げられました」
軍導師が口を開く。
「チームの能力が未熟な場合は姫くんの作戦も有効かもしれないが、仲間を信頼できるに越したことはないと思うがね」
その言葉で、姫は納得したような表情を見せた。
その後、レジスタンス全員が地下の練習場に集まった。
「今から使用頻度の高い魔術の披露と解説をしてもらう。見るだけでなく、積極的に質問してくれ」
まずは鬼が披露を行う。
「今から攻撃用の術式、油性焼夷を放つ」
途端に室温が急上昇し、赤橙色の炎が噴射される。生体の有機物全てが消し炭になるような勢いだ。
勇は圧倒されながらも質問を投げかける。
「この射程と周辺環境による影響を教えてください」
「基本的な出力で打てば10から30メートルほどになる。出力を上げれば50メートル程度まではいける。しかし炎だから敵が水に隠れていると有効性が下がる」
それを聞いた姫が口を開く。
「水に炎を当て続けて敵の周りを沸騰させるということはできないのですか?」
「それをやるにはかなりの時間と魔力が必要だから、戦場では現実的ではないな」
鬼は次の術を披露する。
「これが防御用の土壁錬成だ」
鬼の前方の床が持ち上がり、厚い壁が形成される。よく見ると周囲の床が凹んでおり、周りの床を集めて壁にしたことがわかる。
「勇、壁の裏側に立ってみろ」
勇が鬼の指示に従うと、突然部屋の温度が上がった。
「このように油性焼夷は土壁で無力化できる」
無茶な検証法だ。鬼は余程自分の術式に自信があるのだろう。
「質問だ。この壁の物理攻撃に対する耐久力を知りたい」
豪らしい質問だ。対して鬼は実際に壁を斬って確かめるように促す。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛」
豪は真剣を振り下ろした。滅多に見られない、豪の本気の斬撃だ。しかし壁には細いヒビが入っただけで、決定的な打撃にはなっていないようだ。
「この威力に3発までなら耐えられるといったところか。しかし斬撃ではなく打撃ではどうだろうか」
豪はそう言うと棍棒を取り出した。鈍い衝撃音とともに強烈なエネルギーが繰り出され、土壁は崩壊した。
「俺は打撃に関しては専門外だ。俺の一撃で崩壊してしまうのなら、打撃は明確な弱点になるのだろうな」
「何か別の素材との2重構造で強化できないか考えてみる」
2人の会話を遮るように、軍導師が口を開く。
「怒ってはいないのだが、壁のために削った地面は埋められるのかね?」
それを聞いた鬼は逆転の術式を発動した。壁の残骸が宙に浮き、床の穴へはまっていく。
「この術式は証拠隠滅にも対応している」
鬼曰く、壁を形成する前に周囲の空間を記憶することで簡単に復元できるようだ。
次は姉が披露する番だ。
「まずは基本の能力向上術式を披露するわ。効果を分かりやすくするために、SASでの測定を使いましょう」
勇たちがSASでの測定を済ませると、姉は全員に術式を掛けた。
「全能力値が1割ほど上がっていると思うわ。出力を最大まで上げれば3割程度まで盛れるけど、長時間の発動は難しいわね」
「姉さん、練習場で試してみましょう」
提案した姫はライフルを的へ向けて構える。スコープに映る像は普段より鮮明で、移動する的への偏差も簡単に読める。
「筋力や魔力を使わない射撃にも効果があるのですね。術式の出力を上げていただけませんか?」
姉が出力を上げると、姫はより遠くて小さい的に照準を定めた。視界に映る像は小さいが、普段の射撃で感じる身体のブレはない。
的の中央が撃ち抜かれる。次の刹那、一列の小さな的たちが撃破される。
「姫さん、何かを掴んだみたいね」
姉は微笑んだ。
この経験は姫の覚醒にとって非常に大きな意味を持つことになる。
次に姉は治癒術式を披露しようとしたが、治すためにわざと怪我をするわけにはいかないため、口頭での解説になった。
「勇くんには以前説明したけど、この術式は中等度までの怪我を治すものになるわ。重症の場合は応急処置程度にしかならないことを覚えておいて」
勇は質問をする。
「重症の場合、科学魔術並立法で治療はできないのでしょうか?」
姉は悩んだような表情で話す。
「ヲタのトップ層は周囲の有機物から生体組織を造れるようだけど、それこそ人間をやめるような技術が必要になる。けど魔術治療用のキットがあれば私の技術でも重症の治療ができると思うわ」
そう話すと、軍導師が口を開いた。
「既に私と姉君でキット導入に関する話をしたのだが、非常に高額なのが悩ましいところだ」
軍導師によると、キットは一治療あたり10万円以上するそうだ。とはいえメンバーの命を守るためなら安い。
「とりあえず1セット購入して、姉君のもとで試験運用してみたいと思っている」
「実戦でいきなり使うわけにもいかないから、残酷だけど動物実験も必要になるわね」
治癒術式は怪我をしなければ効果が分からない。姉はこの技術を身につけるのにどれだけの血を見てきたのだろうと、勇は戦慄した。
プロジェクトの初日を終え、レジスタンス全員の魔術に対する理解が深まった。
「明日は物理戦闘と魔術の連携について意見を出し合いたいと思う。皆も今日得た知見を基に、意見をまとめてきてくれ」
軍導師のまとめで今日の訓練は終了となった。
「少し話をしたいです」
自室に戻ろうとした勇の袖を、しなやかな指が掴んだ。振り返ると複雑な表情をした姫が見上げてくる。
「どうした…のですか?」
「どうしても…気になることがあります」
姫の考えていることは分からないが、とても深刻な何かがありそうだ。
「どうして、こんなに強い人ばかりが集まっているのですか!?」
強い味方に複雑な表情を抱いているようだ。姫は嫉妬しているのだろうか。勇は自室に姫を入れた。
「すみません。少しおかしいと思って。
反政府組織にここまで高い戦闘能力を持つ人が集まっていることが、不自然に思えてきたんです。悔しいですけど、今のヲタ政府は広く支持されています。つまり優秀な人が反政府活動をする確率は低いと思うんです」
勇は驚きながらも、言葉を返す。
「それは…軍導師のスカウトが上手いからでは?」
こんなに不安そうな姫は見たことがない。無難な言葉をかければいいのだろうか。
「そう…ですよね。そうあってほしいです。変なことを言ってすみませんでした」
そう言うと、姫は部屋から出ていった。




