District Trend
TURN WOTA
国を荒らす者がいれば、国を守る者もいる。ヲタの公務員は己の実力のみを用いた執務を厳に義務付けられており、一切の汚職、忖度は許されない。また選挙が存在しないため有権者との関わりも起きず、さらに企業と政治の談合には極めて重い罰則があるため、汚職のメリットがない仕組みとなっている。
東京管理行政区、青梅市役所では職員が活発化するレジスタンスへの対応に追われていた。
「改めてではあるが、多摩川上流域におけるレジスタンスの活動が激化している」
そう会議で職員に伝えているのは多摩小管区長である研鑽雄。真名の通り貧しい身分から努力で出世し、ヲタが掲げる実力主義体制を体現した男である。
「先日の定例演説の言葉を借りるが、彼らの多くは個人的な感情で活動していることが取調べからも証明されている。彼らの好きにさせれば取り返しのつかない事態になることは明らかなわけだ」
雄は厳しい口調で続ける。
「しかし彼らの気持ちに寄り添うことも大切だと私は考える。和解が可能な場合は積極的に対話をする方向でいきたい」
雄は極端な統制には反対しており、これまでも数人のレジスタンスを監視下で穏健化することに成功した実績がある。この手法に関しては上層部も賛成であり、大規模な戦闘を避けてきたヲタの歴史とも合致している。
「今日のディスカッションでは、多摩川上流部のレジスタンスへの対応についてアイデアを募りたいと思う」
雄はあらかじめ通知しておいた議題を述べる。
旧来職場における会議というものは、上司が部下への支配を強めるためにあった。しかし総司令官はそのやり方を完全に否定し、ただ純粋にアイデアを募るためのものと定めた。
知的なやり取りが続く。地方とはいえ実力主義組織の幹部、無能な案は一つとしてない。
「彼らが戦う理由を聞き出し、取り除くというのはどうでしょうか」
一人の部下が意見を出した。
「確かに、戦わないに越したことはないと総司令官は述べていた。しかし敵にその理由を言う者はいないだろう」
雄は深く考え、そして提案した。
「会話を盗聴するのはどうだろうか」
「盗聴器を取り付ける隙があるとは思えませんが・・・」
当然ながら、レジスタンスがアジトを留守にすることはない。
「科学魔術並立法を使う」
部下たちが一斉にざわめく。
「無理があります!地方の小規模な、動乱ともいえない問題に上層部が動いてくれるか・・・」
並立法は科学と魔術双方の、極めて高度な技術を要すため、術者たちは上層部直属の特殊部隊に所属している。
「君たちは未だに上司の顔色を伺いながら仕事をするのかね?」
雄の鋭い声が室内に響く。
「独創的なアイデアは積極的に表しなさい、自分もその実現のため最大限協力すると、総司令官は建国時に発言した。現に総司令部では、常に新しい案が生まれ続けている。この国を支えてきたものは何だ!?それは己の力を示す意志だ!ここは日本ではなく、ヲタなのだ!」
見事な演説である。部下に自信を与える、それこそが彼の能力なのだ。
「そのうえこの件が重大である可能性も浮上した」
雄はなおも続ける。
「先日、青梅市内で高速飛行術式を使うレジスタンスの二人組の目撃情報があった。うち一人は骨格などから以前からの構成員だ。問題はもう一人、全世界のデータと照会しても一致しない。すなわち新人とみて間違いないだろう」
「新人が耐えられるわけがない・・・」
部下が確かな推理を見せる。
「お見事。訓練を始めたての人間が旅客機並みの飛行に耐えられるはずがない。すなわち非常に高い実力を持つ可能性が高いわけだ」
高い向上性、それは大きな動乱をもたらすものなのかもしれない。
「このまま生かしておけば、やがては大きな脅威になる。上層部を説得できる理由だと考えるが」
部下全員が賛成意見を出す。和平作戦の方向性が決まった。
一級並立術師。それは科学と魔術、二つの背反せし学問を極め、その腕をヲタ政府により認められた者へのみ与えられる、大ヲタ国最高の国家資格である。有資格者は活動費を国庫から無制限に支給される代わりとして、指導部への従属が求められる。しかし余程の反政府思想がない限り、魔術師は皆取得を目指す。
あの会議から数日後。多摩小管区指導者、研鑽雄は総司令官への提出書類を作成し続けている。当然、内容は奥多摩にあると想定されるレジスタンスへの隠匿捜査、そしてそのために必要な並立術師の派遣要請だ。
「書類の矛盾点は、ないか。いやもう一度、他の人間にもさせるべきだな・・・」
総司令官の目は誤魔化せない。少しでも書類にミスがあれば瞬時に見抜かれ、改善点を指摘される。決してペナルティを下されるわけではないが、常に動き続ける情勢のこと、手を打つのは早めておきたいのだ。
そしてこの案件は研鑽雄にとっての大きなチャンスだ。彼は総司令官に忠誠を誓っているが、考えの違うライバル、あわよくば汚職で利権を得ようとする不届き者など、蹴落としたい人物は多い。また捜査対象には極めて高い向上性を持ち、将来的にレジスタンスの星となりうる構成員もいる可能性がある。主人の危険は排除せねばならない。
それから更に一日後。現場から秘書までの様々な部下に矛盾や誤字、法への抵触などの確認を求め、ついに提案・要請書が完成した。
直後研鑽雄は会議を開き、部下へ伝達を行った。
「先程書類を総司令官へと送った。今日午前には返答が得られるだろう」
総司令官は午前中に仕事を済ませてしまう。朝方に会議を開いているのも、早く返事が欲しいというささやかな願望からだろう。
徹夜明けの目をこすりながら、研鑽雄は次手の検討を始める。
「有能は常に一手先を考えている。君たちも具体的な行動案を考えてきてくれ。私はもう帰って寝る。あ、返答は自宅の端末で確認するから伝えないで大丈夫だから」
そう言うと、さっさと帰ってしまった。
これまでは固く見せてきたが実はこの研鑽雄、自己研鑽につながる大きな仕事以外はサボりがちなのだ。
「まったく、仕事が終わるといつもこうなんだから」
「まあまあ、大事なときには頑張ってくれるんですから」
軍出身の部下と、弁護士資格を持つ部下が話す。
二人とも研鑽雄が現在の役職に就いたときからの部下であり、公務員として目指すものは上司と同じだ。
「ん?」
午後になり、目覚めた研鑽雄の顔が疑問に染まる。いつもなら即日届く返答が未だに来ていないのだ。
(まあ忙しいときもあるんだろ)
レストランで美味いものでも食べるか、そう考えながら着替えをしていたとき、パソコンに新たなメールが届く。
「第一級優先命令。直チニ総司令部ヘ出向セヨ・・・?」
総司令官にのみ発令可能な指示、大急ぎで支度を済ませる。
自動運転の車中、部下への連絡と書類の再確認を済ませる。不備は見当たらない。
(即時出向命令?そんなことは戦時中か党大会でしか・・・。いやまさか粛清!?)
粛清なら身柄を確保するに決まっている、そう考えるも不安は消えない。
車は守護壁に置かれた検問を抜け、世界首都アキハバラ、そして総司令部たる漆黒の絶対塔へと進んでいく。多摩市長として経験を積んだとはいえ、未だにこの緊張感は感じられる。
研鑽雄は幹部用の駐車場に車を止め、一階のフロントへ入った。
「東京管理行政区・多摩市長、研鑽雄だ。第一級優先命令を受け、総司令部へ出向したが、待機場所が明記されていない」
タブレット内の書面をインフォメーションに見せる。
「お待ちしておりました。案内いたします」
丁寧な口調で応対した受付嬢は、確認の動作もなく研鑽雄を案内する。
一階の端まで連れられた先には、厳重なセキュリティがかけられたドアがあり、受付嬢は暗証番号を入力し開ける。
「何のエレベーターだ?」
「私たちが案内できるのはここまでとなります。到着後廊下を真っ直ぐに進んでいただければ目的地です」
乗り込んだエレベーターは直行らしく、階の表記は見当たらない。
(長いな・・・。最上階まで行くのか?)
約一分、エレベーターとしては異例の搭乗時間だ。
扉が開き、眩い光が廊下に差し込んでいる。確かにそこは最上階と思しき場所であり、眼下には世界首都を一望できる。
(やけに曲がった廊下だな・・・)
フロアの広さからして、一つの部屋を回り込むような形をしている。何かを隠すように、何かを包むように。
三回角を曲がり、ようやく扉が見えた。廊下はそこで終わりであり、目的地は間違いなくここだ。
ノックし、ドアノブに手をかける。
「失礼します」
「総司令官執務室へようこそ、研鑽雄君」
―――初めて目の前で見るそれは、圧倒的な美しさ、儚さで視界を包み込んだ。
「―――あっ。そ、総司令官!御呼びでありましょうか!?」
しかし相手は世界の最高指導者、急いで礼儀を整える。
「固くなることはありません。もう一人呼んでいます、それまでそこのソファーでゆっくりしてください」
「あ、有難き御言葉、甘えさせて頂きます!」
椅子に座り用意されたお茶を飲むも、全く気が抜けない。目の前で最高指導者が執務を行っているのだ。
待っている間にも、総司令官は仕事を続けている。自分では決して到達できないほどの作業速度、パソコンの陰から覗く完全無欠の女性としてのルックス、そしてその身体は小さくて細く、映像で見る以上に女性、いや絶世の美少女そのものだ。
約五分後、再びドアが開いた。
「こんどはどんな要件でお呼びでしょうかな総司令官?」
豪放で、冷徹な声が響いた。
「彼が今回派遣する第一級並立術師です」
「え、では!」
「君の要請、受諾しました」
大きなチャンスを作れた、心の中で舞い上がる研鑽雄に、総司令官は続ける。
「君に伝える事が二つある。一つは私と対談したことは極秘です。第一級優先命令となります。そしてもう一つ、君がこの摘発に成功した暁には、東京管理行政区への昇進を約束します」
えっ・・・?
市長から知事クラスの役職への昇進、通常ではありえない人事だ。将来的な危険性を内包しているとはいえ、小規模な反抗組織を潰しただけでは大した功績にはならない。
疑問を隠せない研鑽雄に、総司令官は続ける。
「実の所、奥多摩レジスタンスに高い向上性を持つ構成員がいる可能性は、こちらでも把握していました。しかしその事が明らかになれば各地の反政府活動が更に活発化する可能性がある為、極秘としていたのです。とはいえ極秘のままでは十分な情報を集めることができず、摘発を行うきっかけが得られませんでした」
もう一度顔を見つめ直す。
「しかし君は独自にその事に気付きました。その上摘発に十分な根拠を与えられる資料を添えて書類を提出している」
そう、研鑽雄は己の能力を認められたのだ。
「御褒めに預かり、光栄であります!」
「おいおい総司令官さん。この俺、心術祖を忘れちゃあいけないぜ」
先ほど入ってきた男が口を開いた。
「失礼、彼は一級並立術師の中でもトップクラスの技術を持っています。盗聴器の移送程度なら秒でこなしてくれるでしょう」
初対面のため、研鑽雄は自己紹介をする。
「改めて、私は多摩小管区指導者の研鑽雄と申す者だ。長い付き合いになるだろうが、よろしく頼m・・・」
「長い付き合いにはならないと思うぜ」
遮るように、心術祖は言葉を発した。
「俺を誰だと思ってる?かつての統一戦争のとき、俺が前線で暗躍したからこそあそこまでの早期決着になったんだ。いやあんときの人使いの粗さは問題だったぜ総司令官」
顔を向けた心術祖に、総司令官は言及する。
「戦時中の労働時間に関しては謝りますが、それに見合う報酬は払っているはずです。更に君の工作活動は極秘事項だ。その先を言えば粛清の可能性が」
指導者に警告されても、一切の怯みは見せない。
「・・・のようだ。あんたも気を付けたほうがいい。まあ要するに仕事自体はものの数時間で終わるってことだ」
粛清の可能性はともかくとして、第一級並立術師の力は本物のようだ。しかしその中でも際立った技術を持つ人間を、今回のような緊急性が低そうな事象に雇うだろうか。
「にしても相変わらず凄いアニメグッズですなあ。また増えたんじゃあないですか?」
急に心術祖が話題を変えた。緊張で気付かなかったが、執務室は壁から天井までポスターに埋め尽くされ、棚にはフィギュア、来客用のソファーには――推しというべきか、それとも嫁というべきか――のクッションがある。
「人は何かに依存しなければ生きていけない。二次元は素晴らしい」
相変わらず謎のプログラムを書きながら、総司令官は”到達した”理論を述べる。
「俺もアニメは好きでっせ、キャラの信念が絶対に揺るがない。三次元の身勝手さには辟易しますよ」
心術祖は軽いなりだが、総司令官には決して逆らわない。それは確かな正義感、そして忠誠心があることに他ならないのだ。
不意に総司令官は研鑽雄へ話しかける。
「茶番に無理矢理参加させるようで済まないが」
「君は自分の行いに不快感を覚えたりはしないか?」
美しさに、鋭利な何かが加わる。
一瞬言い表せないものに操られた気がしたが、研鑽雄は自己アピールを怠らない。
「その様な感覚は官僚を志して以降、十数年間決して覚えたことはありません」
「ならば大丈夫です。残業をする事なく頑張ってください」
笑顔の返答、夜なべがバレていた。
執務室を後にした二人は、下りのエレベーター内で今後の計画について話す。
「研鑽雄さんはこの後どうするんだ?」
「定時前に職場へ戻り、会議で要請受理の伝達と実行日時を決める予定だ」
「なら俺も参加させてくれ。それともう一つ頼みがある」
「何だ?」
少し間が開き、心術祖は答える。
「ホームセンターに行かせてくれ」
この男はふざけているのか。そんな疑念を感じたところで、エレベーターは一階へと到着した。
ロビーを駐車場へ向け歩きながら、話は続く。
「一体何を買いに行くのだ?」
「いくら優秀な術師でも、ゼロからは何も作れない。あらかじめ材料を調達しておく必要があるんだ」
手元に盗聴器があれば、設置が短時間で済む。いわゆるカットアンドペーストのような作業で十分とのことだ。
「ところで、あなたの車は?」
「そんなものねえよ。俺ほどのレベルになるとビルを飛び移って移動するんだ。そっちの方が気持ちいいしな」
とはいえ研鑽雄の能力は一般的、同じ車で移動することにした。
市役所近くのホームセンターで買い物を済ませ、定時一時間前に戻った。
「これだけの買い物にしては少し長くないか?」
市役所の廊下を歩きながら、研鑽雄は多少の文句を言う。心術祖の品定めが長引いたことにより、定時が近づいてきていたのだ。
「細かい配線を理解しないと上手くいかないんだ。一級並立術師は神様じゃねえからな」
ややギスギスしたやり取りをしながら、会議室の前へと到着した。移動中に急ぎの連絡をとったため、主な部下全員が中にいるはずだ。
「要請の承認、おめでとうございます」
出迎えた弁護士資格を持つ部下が誇らしげな表情を浮かべる。部下を味方につける能力こそ、研鑽雄の強みなのかもしれない。
会議が始まり、現状の報告と立案が行われる。
「こちらが第一級並立術師の心術祖だ。作戦の完遂のため、具体的な情報を共有したいと考えている」
一部の部下が、一瞬その風貌へ怪訝な表情を浮かべる。しかしこれまで失敗無く大きな仕事をこなしてきた上司のこと、すぐに気を取り直す。
「俺が知りたいのは電気の配線だ。経路の情報が多いほど作戦が早く終わる」
答えるのが軍出身の部下。軍で鍛えた抜群の行動力で施工業者に聞き込みを進め、わずか一日で拠点の大まかな構造を把握してみせたのだ。
「まずブレーカーですが、通常の一軒家と同様、一階の玄関近くにあります。しかし内装が不明のため、盗聴器の適切な設置箇所は不明です」
「たった一日でそれだけ調べてくれたのか。上々だ」
配線図を眺めながら、心術祖は感心の声を上げる。
「配線がわかれば大体の構造はわかる。ふっ、いい部下を持ってるじゃんか研鑽雄さんよぉ」
「当然だ」
今日一日を使い、部下たちが様々な調査をしてくれた。固い応対をしながらも、研鑽雄の顔にほころびが出る。
約一時間、定時直前まで会議を続けた。
会議の結果、極力長い時間の盗聴が重大情報入手の可能性を高めるため、作戦は心術祖による現地での術式探査が終わり次第、即時決行することが決まった。
「そんじゃあ定時だから俺は帰るぜ。明日は朝九時でいいんだな?」
「そうだ。点呼を行い次第、現地へ直行する」
そんな会話を交わすと、二人は市役所の玄関前で別れた。
翌日午前九時、心術祖を含む実行部隊十五名が青梅市役所へ集まった。そのほぼ全員が保安局から派遣された摘発要員であり、また全員が研鑽雄との面識を持たない。これは知り合いとのしがらみのあまり、指示や伝達の迷いが生じないようにするためだ。
「そんじゃ軽く終わらせてくるからよ。まあ留守番気分で待っててくれや」
数々の戦場を経験してきた心術祖にとって、山奥の小規模レジスタンス摘発など朝飯前にも値しないのだ。
「あなたに手柄を独占されるわけにはいかない。随時状況を確認し、適切な伝達を行う」
「固くなるなって研鑽雄さん。いまさら名誉欲なんてものは出さねえよ」
統一戦争の英雄と言える彼からすれば、こんな組織は取るに足らない存在。自分とはステージが違うのだと改めて痛感する。それと共に、ここまで偉大な人物を派遣されることは、自分への期待の表れ、そして当初考えていた以上に大きなチャンスだとも考える。
「あ、言い忘れてたが、終わったらそのまま普段の職場に戻ってもいいか?現場からそう遠くはないんだ」
「構わないが、少しは緊張というものは感じないのか?」
どんなに手慣れた内容といえど、仕事である以上最低限の緊張は伴うものだ。しかし心術祖からはそれが感じられない。この程度の仕事、息をするようにこなせなければ幹部は務まらないという事なのか。
―――それとも、彼は違うのか。
見送りながらも、思索は止まらなかった。
追加交通費の申請、工事による騒音問題の訴え、学校給食の改善要望。そんなやる気を出せない小さな仕事をこなしながら、部隊が乗る車の現在位置と無線を絶えず確認する。
(現在位置は御嶽か・・・。通行止めや渋滞の情報もないし、順調に進んでいるようだな)
生活水準の向上により治安が旧日本時代と比べ大きく向上した今、この独裁状態における地方の指導者は、自ら提案しない限り暇でしかない。その他にもいじめ・長時間労働・虐待・高齢者への福祉の集中などの社会問題も粗方片付いたため、総司令官へ意を唱える者は非常に少ない。
当然そんな状況で活動を行うレジスタンスの気が知れない。
数個の書類をまとめ法研博へ確認を依頼した直後、車が目的地へ到着した。
「こちら心術祖、術式探査へ入る」
無線により作戦の開始が伝えられる。これから自身の未来を決める作戦が開始されるのだ。
心術祖曰く、探査は数分あれば終わるとのことだ。しかしそこは敵本拠地の側、いつ感付かれて攻撃を受けてもおかしくはない。そうなれば作戦は失敗、出世し総司令官を支えるチャンスもなくなってしまう。
リアルタイムで送られてくる周囲の監視カメラの映像、熱源反応、そして徹夜で調べ検討したレジスタンスの行動予測を照らし合わせ続ける。集中時は時間を長く感じるというが、これは永遠にも等しく感じる。
「こちら心術祖、探知を終了。これより並立術式を用いた盗聴器の設置を行う」
第一段階は無事に済んだ。
心術祖は前日に作った複数の盗聴器を並立術式を用いて電気信号へと変換、周囲の電線から配線によって建物内へ伝え、狙いの場所で実体化させる。一般人には到底想像がつかない芸当であるが、配線構造の情報さえあれば短時間の作業で高い成功率を誇るという。
また長い時間が過ぎる。研鑽雄は祈り続ける、それしかできない。
「何をビクビクしている?問題なく済んだぞ」
全てを見透かしたような声が、作戦の終了を告げた。しかし安堵に浸り崩れ落ちるわけにはいかない。
「了解。直ちに現場を離脱せよ」
車の位置を示すチェッカーが、現場から離れていく。研鑽雄は力が抜けた声と共に椅子から崩れ落ちる。
「んっ・・・!ああぁっ!」
「全部聞こえているぞ」
「んなっ!?き、切り忘れていたのか!?」
「まあそんなとこだ」
そんなこんなで(生配信でありがちな)茶番も交えつつ、車は青梅に到着した。
「そんじゃ俺はこの辺りでさいならするわ。報告書の作成はこちらでやるから悪しからず」
「協力感謝する」
これは心からの言葉だ、そう頭の中で付け加えた。
大ヲタ国が動き始めた。




