表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1話:はなこちゃんの特別な出会い

夕方の太陽の明かりはお手洗いを照らしていた。青色のちり紙で描いたばかりの人魚さんの絵を見つめた。人魚さんは幸せそうに見えたが、一人で海を泳ぐのは寂しそうだった。


「心配しないで」と絵にそっとささやいた。「友だちを描いてあげるよ」


青いちり紙の上をペンで優しく触れて、人魚さんの隣の空っぽの海に描き始めた。でも、何も起きなかった。ペンを振って、ちり紙に何度も何度も描いてみたけど、インクが残っていなかった。

寂しそうな人魚さんを申し訳なさそうに見た。


「ごめんね。頑張ったのに」と絵に言い、涙が二つちり紙に落ちた。


夏休みじゃなかったら、ペンやアイライナーを借りて絵を描き終わることができただろう。静かに涙を流している間に、太陽が静かに沈み、明かりを奪っていった。わたしは一人で暗いトイレの個室にいた。夏を終わるのを必死に待っていた。


******


「久しぶりだね!」

「イギリスはどうだった?」


トイレの個室の外の音に驚き、目が覚めた。目を開けて自分の個室を見回した。壁には色鮮やかなちり紙が貼ってあり、それぞれにユニークな絵が描かれていた。


豪華なお茶会で竜とお姫様がお茶を飲んだり、魔法の冒険をする友だちの絵があった。その絵は希望と嬉しさと友情に満ちていた。


トイレの個室の扉から覗いてみると、洗面台の前で化粧をしている3人の学生が見えた。彼女たちの夏休みの陽気な話を聞いていると、幸せと悲しさが入り混じった気持ちになった。


「ねえ、アリシアちゃん。イギリスにいた時、超常現象みたいなものを見た?」


縮れた髪の毛をポニーテールにして真ん中に立っていた女の子はマスカラを塗りながら固まった。不意に3人の学生は私のほうを少しだけ向いた。わたしは扉をすぐに閉めた。心臓がドキドキした。彼女たちは私を見た?


「えーっと、別に何も見なかったけど、従妹がブラッディ・メリーについて教えてくれたんだ。」

「血まみれ?こわっ!」

「従妹は友だちと学校のお手洗いでブラッディ・メリーを召喚したと言ってたんだ。」

「嘘じゃん?どうやって召喚したの?」


「鏡を見ずに、洗面台で手を洗いながら、『ブラッディ・メリー』と何度も唱えるの。それから、3回まわって、鏡をのぞく。自分たちの姿を見るかわりに、ブラッディ・メリーを見るそうよ。」


話に夢中になりながら、もう一度扉の隙間からゆっくりと覗いた。アリシアさんという女の子と右に立っている女の子が蛇口をひねる前に、ニコニコしていることに気がついた。


「ブラッディ・メリー」

「ブラッディ・メリー」

「ねえ、みんな、やめて!」

「ブラッディ・メリー」

「ブラッディ・メリー」

「ブラッディ・メリー」


左に立っている女の子は、他の2人に止めるように懇願しながら、ますます緊張していった。

「アリシアちゃん、実夢ちゃん、やめて!怖いよ!」

「ブラッディ・メリー」

「ブラッディ・メリー」

「ブラッディ・メリー」

「なんかい『ブラッディ・メリー』って言えばいいの?」

「分かんない。聞こうと思わなかったよ。」

「ブラッディ・メリー」

「ブラッディ・メ」


学校の鐘が鳴ったせいで、唱えるのを止めた。

「やばっ!授業に遅れるよ」と実夢さんがスカートで手を拭きながら言った。

「初日に問題を起こしたら、親たちに殺されるよ」

「千絵ちゃん、心配しすぎよ。先生に叱られないよ」


学生たちが部屋から飛び出した後、私は誰かが化粧袋を忘れたことに気がついた。トイレの個室から出て、化粧袋に近づいた。手描きのペンタクルが描かれた紫の小さな化粧袋があった。ペンタクルの下には、「セイレーンの呼び出し」と書かれていた。


化粧袋を開けると、小さいアイライナーが入っていた。

「やっと、あの絵を描き終われる。」

化粧袋のチャックを閉めてもう一度鏡をのぞいた。

「メリーさん」とささやいた。「そこにいるの?私が見える?」


「メリーって誰?」

わたしは振り向いて、万戸さんを見た。

「あっ、万戸さん、お久しぶりですね」

「はなこちゃん、どうしたの?幽霊を見たような顔をしているよ」


面布の下の顔は見えなかったが、万戸さんが心配していることはわかった。万戸さんの腰には色とりどりの色鮮やかなちり紙が巻かれていた。


「トイレの個室の外で会うのは珍しいね。」

「わた、わたしのペンのインクが切れたから、このアイライナーを借りたんです。」

「借りたのかい?それとも盗んだのかい?」と万戸さんが笑った。

「とにかく、もっとちり紙が欲しいかどうか見に来たんだ」

彼は青いちり紙と赤いちり紙を数枚差し出した。

「いえ、結構です。万戸さんが先にくれたちり紙にまだ描き終わっていないんです。」

「そっか。もし必要なら、いつでも言って。」


万戸さんは立ち去ろうとしたが、立ち止まった。私の肩に手を置く前に、少しためらった。

「はなこちゃん、今学期、誰かと話してみるのはどう?みんなが君を怖がるわけではないよね。」

わたしが応える前に、万戸さんは消えた。トイレの個室に戻る前に、もう一度鏡をのぞいた。


一日中、他の学生たちは私のトイレの個室の外で話していた。いつもなら、私はその会話を熱心に聴くのだけれど、集中できなかった。絵を描くことさえできなかった。人魚さんのために友だちを描く代わりに、適当に大きな渦巻きを描いてしまった。かわいそうな人魚さんは渦に吸い込まれそうだった。


その日最後の学校の鐘が鳴り、人々の賑やかな音はゆっくりと死のような静寂に変わっていった。


わたしはメリーさんのことを考えずにはいられなかった。鏡の中に本当に妖怪がいるのだろうか?


召喚してみるべきだろうか?

妖怪が他の妖怪を召喚するのは変だろうか?

メリーさんは本当にいたのだろうか?

いるかいないかどちらの答えのほうが怖いか決められなかった。

答えが分からなかったから、心が休まらなかった。


そこで、今日2度目、トイレの個室から出た。洗面台まで歩き、蛇口をひねった。


「ブラッディ・メリー」

私は何をしているの?これはばかげているわ。

「ブラッディ・メリー」

お水は氷のように冷たかった。

「ブラッディ・メリー」

でも、洗面台で手を洗い続けた。

「ブラッディ・メリー」

どのくらい名前を言えばいいの?

「ブラッディ・メリー」

10回、100回、1000回?

「ブラッディ・メリー」

何度も何度も、名前を言い続けた。

「ブラッディ・メリー」

緊張しすぎて見れなかった。

「ブラッディ・メリー」

真実を知るには緊張しすぎていた。

「ブラッディ・メリー」

メリーさんはもうここにいる?

「ブラッディ・メリー」

何度も名前を言うのを聞いている?

「ブラッディ・メリー」

メリーさんは何を考えているの?

「ブラッディ・メリー」

メリーさんに何を言えばいい?

「ブラッディ・メリー」

もう指の感覚さえなかった。


スカートで手を拭いて、ゆっくりと回った。


1回

2回

3回


そして、鏡をのぞいた。

二つの目が私を見つめ返した。


私は飛び上がって驚いた。メリーさんは本当にいる!


彼女は私と同い年に見えた。しかし、メリーさんは血まみれだった。シャツと顔は赤い斑点だらけだった。


彼女は私の目をじっと見つめながら緊張しているように見えた。その目は美しい琥珀色だった。


彼女を見つめるうちに、私はさらに気がついた。ブラウスにある斑点は血ではなく、小さな赤いバラの花びらだった。そして、顔にある斑点も血ではなく、そばかすだった。一見、血まみれになったように見えたが、メリーさんには一滴の血もついていなかった。


私は長い間、メリーさんをジロジロと見ていることに気がついた。

「あのぉ、わ、わたしははなこです!よろしくお願いします!」

長い間、知らない人と話していなかったせいで、言葉に詰まった。

恥ずかしい!


メリーさんはかすかにほほえんだ。口元は笑っていたが、目は悲しそうに見えた。

彼女は鏡に息を吹きかけて結露させた。メリーさんは消える前に、丁寧に指でメッセージを書いてくれた。


「I can’t hear you.」


日本語の校正: yukko55

日本語を直してくれてありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ