2話目 クリスマスに思う事、願う事
このお話は……冴ちゃんのクリスマス 7話目 (https://ncode.syosetu.com/n0938io/7/)
とリンクします。
SNSへのUP用にと冴ママが寄越した“出来立てのクリスマスシリーズ”の和菓子を皆で見ている。
賢パパはただただ感嘆しきりだがスグルパパは真剣そのものだ!!
「どうした?スグル? なにか問題でもあるのか? この“作品”に?」
「いや! 何も無い!! あえて言えば……まだ堅いかな?? そんな感じ!」
「加奈ママはどうよ?!」
「私は……見とれていた!!」
「まあ、これは撮影用の試作だから」とのスグルパパの言葉に賢パパが
「じゃあ、実際の商品はここまでじゃないのか?」と聞くとスグルパパは即時に否定した。
「兄ちゃん!! その逆だ!! 冴ママは今、ドンドン商品を作っている筈だから、きっと“堅さ”がとれて……より嫋やかに洗練されていると思うよ」
「加奈ママ! そうなのか?!」と驚いた賢パパが尋ねるので
「私は和菓子屋の娘なわけだけど……正直、冴ママのようなアベレージを叩き出せる人は見た事がない!!」と答えてあげた。
それを聞くと賢パパは心配そうな顔つきになった。
「とにかく、一刻も早く一甫堂へ戻ろう!! このままじゃ冴ママの寝る時間が無くなってしまう!! スグルも!! ちょっとは冴ママにブレーキを掛けさせなきゃマズイぞ!! あいつアクセスをベタ踏みするヤツだから!!」
とスグルパパに釘を刺した。
「うん!オレも分かってるんだけどさ!」
「頼むぞ!! オレ達は今から出るけど……お前はどうする? クルマで送ろうか?」
「いや、もう少し“まろやか音プロ”の調整やろうと思う。だから会社に泊まるよ!! この“作品”見てすっごく力を貰えた!!」
とスグルパパはスキップでもする様に部屋を出て行き、私と賢パパは肩を竦める。
「言ってる傍からこれだ!!」
「私達が注意して見てあげないとね……」
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今年のクリスマスイヴはスグルパパと冴ママは本社(冴ママはデパートの出店が終わってからも居残って、向うで一甫堂と両和システムの仕事をしている)付きだから、津島家のクリスマスパーティには私と賢パパが出席した。
「孝太とあかりの面倒は賢ちゃんが一番見てんだろ?! たまには夫婦水入らずで賢ちゃんをねぎらってやんな!! 昼間はあーちゃんも居るし、子供達の事は心配するな! 何なら2、3日ホテル住まいして来な!!」
なんて父は言う。
『これからの時代、会社も!家庭も!! 男女等しく助け合って運営して行かなきゃならない!!』と言うのが社長としての賢パパの“矜持”だから、賢パパは子供達の面倒もよく見てくれる。
でも“あの”父がこんな事を言うなんて!!
私はずっと、父の事を『昔気質の職人』と思っていた。
でも、それは間違いの様だ。
父は単なる“孫煩悩”で言ってるんじゃない……あれが本来の父なんだ!!
私が幼い頃……スグルの両親が亡くなり、その1年後には母が死んだ。
一甫堂は、ばあちゃんとスグルだけだし、私の家も父と私の二人きり……
その時から父は単なる“職人”では無く、一甫堂とそこに集う私達を“絶対的に”守らねばと決心したのだと思う……だからこそスグルも常日頃から一甫堂の店主は箭内さんだ!!と言っているし父として慕っている。
こんな……不器用だが優しい父の心情を、私も子供を持って初めて知り得た気がする。
さて、津島家のクリスマスパーティでは、私は津島のお母様と“二人目を授かったばかりの”彩ちゃんと一緒に“奥さんらしい”事をさせてもらい、その後は“女子会”で盛り上がった。
津島のお義父様、お義兄様と賢パパの三人も侃侃諤諤とした議論で熱を帯びた様だ。
心地良い夜風の中、お義母様が呼んで下さったタクシーで“想い出の”湯の町温泉ホテルへ向かったのだが……お互い胸に一物を秘めている為、寄り道して酒とツマミをしこたま買って、バーには寄らず部屋に直行した。
部屋に入るとジャックさんのごついボトルを挟んで、お互い少しの間だけ氷をカラカラさせる。
この“お見合い”の均衡を破ったのは私の方!
「“賢ちゃん”からにしてくれると嬉しいな! 『レディファースト』って言うかもだけど」
「分かった! まずは、合併の話! スグルに話した!! スグル、『オヤジの血を引く孝太が一甫堂を継いでくれたら、ばあちゃんも喜ぶと思うんだ』って、めちゃめちゃ喜んで……最後は二人して泣いて抱き合って乾杯した!!」
「ふふふ! いいなあ~!男の子してるねえ~」
「何だよそれ! とにかくアイツも色々思う所はある様で……今は“まろやか音プロ”の開発に邁進してもらっているが、合併したらアイツが社長というのもありかなと思ってる!順番から言ったらオレが先に逝くからな」
「そんな!!縁起でも無い事、言わないで!!」
「スマン!! でもオレの理想はアイツに社長になってもらう事だ!! 絶対いい会社になる!!」
「どうかな……アイツ甘ちゃんだから……」
「手厳しいな、加奈ちゃんは! それで二つ目の話なんだが……」
「うん」
「実はさっき津島の義父と義兄から『スグルを市会議員にしたい』って相談されたんだ!」
「ええ?!」
「もちろん、『スグルは二つの家業のどちらにとっても無くてはならない人だからこれ以上の負担は掛けさせられない!!』って断ったんだけど」
「それでさっき“盛り上がって”たのね」
「うん! あの場では断ったんだが、さっきの『甘ちゃん』の話じゃないが、これから先の事を考えると……スグルにとって市会議員の仕事はいい経験になるかもしれないと思えてな。勿論!当選したらの話だが……」
「スグルなら自力で当選するよ!」
「オレもそう思う! でもキチンと仕事ができるかは当選してからの事だからな。いずれにしてもオレ達の大切な弟の事だ!! 加奈ちゃんも一緒に考えてくれないかな」
「分かった!一所懸命考えるよ!!賢ちゃん!! いつも家族みんなの事を大切に考えてくれて本当にありがとう!!」
「大切に思うのは、ごく当たり前のことだけど……加奈ちゃんからお礼を言われてとても嬉しい!!」
「良かった!! 私も賢ちゃんに言えてとても嬉しい!!」
「で、ここからが本題だな! 加奈ちゃんが『お金で買えないクリスマスプレゼントが欲しい』って言ってたけど……何をすればいい? 因みに加奈ちゃん手編みのマフラーはとてもいいよ!!」
「へへ、愛情の他にも津島のお義母様から教えていただいた特別な毛糸も使っているからね……それはさておき、私のおねだりはね……冴の事! 賢ちゃんは昔、冴の“お馴染みさん”だったんでしょ? ヤったんでしょ?!」
「……ああ」
「その頃の冴ちゃんはどうだったのか教えて欲しいの! ヤキモチじゃない!! 勿論興味本位でもない!! あの子は今でも“苛まれ”ていて……私はそれを見たり感じたりするたびに泣けてしまう!! 少しでもあの子の“荷物”を下ろしてあげたい!! だからお願い!!」
私のお願いに、賢ちゃんは腕組みしてしばし考え……そして語り始めた。
「『オトコもお金も好きだよ』 アイツはそう言っていたが、そんな単純なものじゃない!
アイツは“吸血鬼”とは真逆の“供血鬼”だ!!
アイツを抱くと……抱かれると……オレの胸の中に温かい物が残った。
それはアイツの“血”だ!!
アイツは自分を金で買った男に
その対価として自分の血を惜しみなく与えた。
だけどそんな事を続ければ、アイツ自身の命が無くなってしまう。
だからアイツは……拡がった傷口を塞ぐカザブタを作る為に
アイツの血を必要としない“ケダモノ”達に見境なく自分を抱かせ、無理にカサブタを作った。
けれど、アイツの心はカサブタの内側でどんどん膿んで壊死してしまい、アイツの心は事切れて死んだも同然に引きこもる。
けれども生物としての本能が、アイツのカラダとココロに“飢餓”と言う石炭をくべ、無理やり揺り起こし……アイツはまた不毛の連鎖に陥る……
そんなアイツを見ていられなくて、オレはアイツを自分の仕事に引き込んだが……
それが良かったのか悪かったのか……アイツは
今度は仕事とオトコに狂った。
今から思えば……あかりを産みたくて!!呼び戻したくて!! 男と目合っていたのだろう。
オレは当時、離婚調停中だったし、そんなアイツの事情も知る由が無かったから……
ただ黙って見ているしかなかった!!
ようやく離婚が成立して……「さあこれから!!」と言う時に、アイツはオレの前から消え、
この街にやって来た。
そして一甫堂の人達に救われたんだ。
だから加奈ちゃん!!
本当にありがとう!!
加奈ちゃんが救ってくれたのはアイツだけじゃない!!
オレも救ってくれたんだ!!」
私は涙で賢ちゃんの姿がぼやけてしまって
「ありがとう」も言えなくなってしまったけど……
賢ちゃんが
「心配するな!! 冴ちゃんにはオレ達が居る!! オレ達がキチンと抱きしめるから絶対大丈夫だ!!」と言ってくれて
私は賢ちゃんの胸に飛び込んだ。
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ようやく泣き止んだ私に“悪戯心”が持ち上がった。
「ねえ!賢ちゃん! ワタシ、今年はお金で買えないプレゼントが欲しいって言ったけど、お金で買ったプレゼントは無いの?」
「もちろんある!!」と取り出したのは“しーちゃん”の所のショッピングバックで……中から細長いジュエリーケースを取り出した。
最近の賢ちゃんは『子供達が誤飲したら大変だから』と言い訳して……事あるごとにネックレスを買って来る。
「もう! 私は“ヤマタノオロチ”じゃないのよ!!」
「じゃあ!冴ちゃんとシェアすればいい」と言い返してきたので私は吹き出し、笑ってしまった。それでもめげずに……私にネックレスを付けようとする賢ちゃんの手を止めた。
「付けてくれるなら明日にして!! 飲んでる時には何だか邪魔だし!!」
「それはまた……色っぽくない発言だなあ~」
「そうかしら? じゃあ、こう言うのはどう?『今日は付けなくていいよ』」
「えっ?!」
「『孝太とあかりに……妹か弟が欲しい』って話……冴ママとしててさ! 冴ママから『私は高校を卒業してからかな……だから加奈ママ、お願いします!!』って言われちゃった!!
こればっかりは“コウノトリのご機嫌次第”ってのもあるけど……とにかく“挑戦する権利”を賢パパにあげる!! これが私から賢パパへのお金で買えないプレゼント!!」
次の瞬間、私は空中を舞って……賢ちゃんの腕でガッシリ捉まえられた。
で、賢ちゃんの熱いキスで……
体も心もフワフワと浮かんだ。
おしまい
今回のお話は、加奈ちゃん、賢ちゃん、スグルさん、冴ちゃんの4人のつながりと愛情を書こうとしました。 かなり端折ったので分かるかしら……(^^;)
なお、本編は『こんな故郷の片隅で 終点とその後』
https://ncode.syosetu.com/n4895hg/
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