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双華のディヴィーナ《地獄篇》  作者: 賀田 希道
Violence Fill the Hearth.
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Under the Moonlight

 「仲良しだねぇ。付き合ってんの?」ー〈友人〉島城 祺世

 さて話を4月16日に移す前に俺のその後の行動について触れようと思う。必要かどうかと聞かれればそんなことはなく、不必要かと言われればうんそうですね、と答えるしかないが、話題を区切って話を整理するという意味でこの間はやはり必要なのだと思う。


 帰寮する、と俺は言った。つまり寮に帰るということだ。遠海魔術学院の院生は多くが院外にある寮で寮生活をしているわけだが、居心地がいい寮というのは総じて院の周辺にある利便性のいい寮のことを指す。例えばそれはイリアやエリスが住んでいる「白泉ハウス」だったり、慎二が使っている「シュラフハウス」なんかだ。院に近く、設備も充実している。競争率も高いが、それだけの見返りは期待していい。


 では居心地の悪い寮とはなにか。それは俺とアリスが借りているような、院から遠く、それでいて管理人が飲兵衛で、様々な寮内の設備の点検を入寮している院生が自発的にやらなくてはいけない「文月荘」のような寮のことを指す。有体に言えば寮とは名ばかりの個人所有のペンションかロッジのような寮のことだ。


 院の裏門から外に出て、暗くなり始めた舗装されていない道を行くこと約三十分、ようやく闇の中にぼんやりと光る「文月荘」の灯りが見え始めてきた。その間の俺とアリスの会話は特にない。強いていうなら、明日から大変だねー、くらいの苦労話程度だ。会話なんてしていたら何に躓くかわからないひどい道だから、お互いに足元に気を使って歩くことに精一杯だった。カンテラか懐中電灯でもあれば良かったのだが、あいにくとそんなものの貸し出しはないし、島の南部にある雑貨店で油か、電池と一緒に探さないといけないから、はっきり言って面倒臭い。それだけの話だ。


 えっちらおっちらとどうにか「文月荘」の玄関口まで来た俺達は玄関扉に鍵を差し込み、ようやく中に入ることができた。ドアベルが鳴り、明るい光が俺達を照らした。中に入ると異国情緒を感じさせる古めかしいシャンデリアがまず見え、向かって右手に待合スペース、左手に事務室があり、奥を見れば右に団らん室、左手に薬草室に通じている扉と二階に通じている階段があった。


 一息をついて寮への出入の際にひっくり返す名札を表向きにし、事務室を覗いてみると俺の友人である島城 祺世が俺達が帰ってきたことにも気づかず、呑気に携帯ゲームで遊んでいた。コンコンと窓ガラスを叩くとようやく気がついたようで、ヘッドフォンを取り外し、ゲーム機を机の上に置いて彼は「おつかれさん」と言った。


 島城は俺よりも身長が高い男だ。乙女ゲームとかで出てきそうな毒舌教師系の美形というか、ベッドの上で「子猫ちゃん」とか言いそうな秀麗な顔つきをしている。伊達メガネをかけていて、声も美声そのものだ。本当にどうして、こんな寮にいるのかわからない。お前の居場所はセックスフレンドのベッドの中だろ、と言いたくなるが、島城曰く、女を殴ったことはない、らしい。じゃぁ男はあるんだろうな、という話だ。


 「鍵、ちょうだい」

 「ああ、そうだな。えーと?千乱は302、アリスちゃんは206だったな」


 寮規則の一つ、外出の際は自室の鍵を事務室に預ける。


 島城から鍵を預かり、俺達がその場を立ち去ろうとすると、彼は事務室から身を乗り出して今日の決闘のことを俺に聞いてきた。新聞部である彼としては少しでも情報を仕入れておきたいんだろう。


 「話せることはなんもないよ。あーでも一つあるか。エリスが保護観察処分になった」

 「え、なんで?」


 「グレイのアホを雷撃で気絶させたから。決闘が中止になった後、しつこく詰め寄ったことに怒ったんじゃない?」

 「なるほどね。監視するのは、千乱か?」


 「俺とアリスだ。てか、ほんとフレンドリーよな。俺はいまだにラストネーム呼びなのに」


 棘のある言い方に対して島城は笑って返す。ある意味でそれがこの男の強みなのかもしれない。


 「へ。別にいいんだよ。俺らは魔術師だろ?だったら相手に気を許すようじゃあいけねぇ。いつ、寝首を掻かれるかわからないんだからさぁ」


 「すっごい棘のある言い方ね。それだて千乱君は私に気を許していることになるじゃない」

 「そりゃ俺みたく胡散臭くないからな、アリスちゃんは」


 そうだろうか。俺が初めてアリスと会った時、渋谷のナイトクラブで下半身丸出し、財布のがま口すっかすかのパーティーピーポーくらいの熱い抱擁を受けたから、むしろアリスの方が胡散臭く感じるのだが。有体に言えば、魔術師らしからぬ行動だったから、余計に怪しく見えたのだ。


 島城を名前で呼ばないのは単純に祺世と呼ぶのがなんか、字面が悪いからだ。失礼な話なんだろうが、祺世という名前が目の前の野郎の底意地の悪さと似合わなすぎて、俺の頭の中で軽いコモンセンス革命を起こしてしまったのだ。だから島城と呼ぶし、呼び続ける。


 要は好みだ。好き嫌いだ。別に貶すようなものではない。


 嘘ではなく、本当に。


 「痛い痛いなに?」

 「今なーんか、すっごい失礼なことを考えていなかった?」


 冷えた目でアリスが俺を睨んでくる。失礼だな、俺はやましいことなんて考えていないと言うのに。


 「ははは、こりゃ問題は千乱にあるな。まぁアレだ、仲良くしようぜ、これまで通り。一般社会じゃ俺ら三人どころか、この島に住んでる奴ら全員、ただの犯罪者なんだからよぉ」


 「そりゃぁね」「そうだね」


 自覚的であるか無自覚的であるかの違いはあるだろうが、島城の言っていることは間違いではない。すべからく、すべての魔術師は咎人だ。この世に罪のない魔術師など存在しない。冗談ではなく、本当に。


飛鳥島の地理解説


 飛鳥島)南鳥島の南、太平洋プレートとフィリピン海プレートの境目に存在している。。面積55平方キロメートル。


 遠海魔術院)島のほぼ中央にある。中央に本校舎、東に菜園棟、西に廃棄棟があり、北の森林部の中に研究棟がある。東、西、北にはそれぞれ第一、第二、第三校庭がある。


 街)島南部にある市街区。正式名称「王陸街」。


 連絡港)島東部にある空港施設。隠蔽術式を付与された旅客機のための空港。

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