表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双華のディヴィーナ《地獄篇》  作者: 賀田 希道
Cuckold and Pure Love
30/72

Chaos with Bullshit

 「バッカだな、舞台は見るものだろ?」——〈新聞部部員〉島城 祺世

 「無理。その件は調べられんわ」


 開口一番、そう言われた。


 場所は院内の校庭の一角、ぽつんと立った樹木一本を挟んでまるでスパイ映画のような構図で俺と島城は話していた。盗聴を恐れてとかではない。事実、俺達は廊下で偶然ハチ合わせて、連れ立ってここに来た。つまりは気分、つまりは道楽だ。小学生が「〇〇の呼吸」とか「領域展開」とか言って遊ぶののちょっと大人バージョンだ。


 道楽はいついかなる時も大切だ。戦いの最中だろうが、テストの過渡期だろうが、脱糞の間際だろうが、淫行の渦中だろうが、道楽を忘れて真面目一辺倒、集中一筋、非道一極化などしてしまえば途端に視野が狭くなる。何事もゲーム感覚で臨むのがちょうどいい。その方が効率がいいし何より楽しい。


 だから瑣末なことにも道楽を求めるべきだ。ただの情報伝達にもちょっとした遊びを混ぜればほら、この通り。なんとも気まずい状況の出来上がりだ。


 「え、なんで?」

 「ごめん。それは調べられない。他のことなら色々当たれるかもだけど、そればっかりは無理だ。あと頭痛いんだよ、二日酔いで。帰ったらでいいからしじみ汁作ってくれ」


 俺の返答を待たず、島城は俺から離れ、その足で下校してしまった。あまりにもあっけなく突き放され、清々しいほどに感情の余韻を残さなかった。立つ鳥跡を濁さず、羽の一枚波紋の一つ残さず島城は消え、俺だけが残された。そして誰もいなくなった、ではなく、そして俺だけ取り残された。


 飲酒をしていて、頭が痛いにしてももう少し話す余地があるかと思ったが、こうなった島城は梃子でも動かない。まるで杭を地面に打ちつけたように全く譲らない。この時点でもう島城を通じて間男に関する捜査をすることはできなくなったということだ。


 島城が協力を拒否した理由を考えてみるが、 これといった理由が思い当たらない。島城は新聞部だからこういったゴシップネタは大好物だろうに、わからないと答えるどころか、調べられないと言うのは明らかに不自然だ。例えるなら、饅頭好きが突然饅頭嫌いと言い始めたようなもので、違和感を覚えさせる。


 新聞記者が調べられないと言った場合、2パターンが想定される。本当はもっとあるのかもしれないが、即座に思いつくのはこの二つだ。


 一つは単純な実力不足。バカがバカをやってバッカニアに売られるというのはよくある話だが、そうなるリスクを恐れて身を引いたというパターンが考えられる。特ダネを得たいがために訴追された記者なんかも随分前にいた気もするが、札付きの悪になるかもしれないリスクを背負ってまで、分不相応な行動をしたくもないというのはわからない話じゃない。


 島城にこのパターンが当てはまるかは正直、疑問がある。島城の記者としての実力は俺がよく知っている。情報屋としての彼の実力は一級品だ。その彼が実力不足を理由に断るなら、よほどの大ネタと捉えたということになるが、そんなことはないように感じるので、恐らく彼が調べられない理由は二つ目のパターンだ。


 二つ目はなんらかの圧力。新聞社に政治家から圧力が、なんて創作物の世界ではよくあるイベントだが、現実にないとは言えない。あの件については記事にするなとか、実名報道するなとか、そもそも話題にすら出すなとか、ネットでは話題なのにニュースでは全然やらないなんてことは日常茶飯事だ。


 じゃあ実際に島城にその状況が当てはまるのかと聞かれれば、半分当てはまるし、半分当てはまらない。島城は現金な奴で、圧力をかけられたと言って早々簡単に諦めるわけがない。なんらかの形で調べようとしたり世間に好評しようとするが、金とかを積まれて口止めをされれば多分喋らない。俺がもらった以上の額を提示すれば話は早いのだろうが、あいにくと財布に余裕があるなんてことはない。


 俺の中では島城が金で口止めをされていることはほぼほぼ既定路線なのだが、そうなると口止めを指示しただろう間男は相当の財力を持っていることになる。あるいは、島城が怯えるほどの権力があるかもとも考えたが、それができるのは院内じゃ和泉さんぐらいだろうが、あの人に同性愛のきらいはないし、何より訴えそのものをもみ消すだろう。


 それでも島城としては俺への義理を通すつもりなのか、いい情報をくれた。それは調べられない、とは言い換えれば、島城に対して何らかの圧力がかかった、つまり報道機関でありストーキング組織である新聞部に圧力をかけられる人物が背後にいることを示している。


 「——さて、面倒になったな」


 風紀委員室に戻る傍ら、訴えを起こした男子院生達の教室を尋ねてみたが、該当する生徒は全員下校してしまったか、どこに行ったかわからないということで、どうしようもなかったので17時ごろになって結局蜻蛉返りを決め込んだ。まさしく骨折り損のくたびれ儲け、徒労とはまさにこのことだ。


 明日になって色々と調べてみる必要がある、そう思うくらいには今の俺は興味が出ていた。ぶっちゃけ間男が誰かなんてのはどっちだって良かったのだが、ここまでのことをやる人物だと知ると俄然興味が湧いてきた。


 ——実に興味深い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ