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76話 Sランク魔物と戦いです

 目の前の魔獣使いラギュルとやらは、歳は初老の頃か……ナイスミドルな雰囲気を放っている。


「部下共を次々と投げ飛ばしたのは確かに俺だが、指揮のとれない魔物達を殲滅している悪魔は……」 


 指揮取れてない魔物……何匹かいたな。


 アレか、指揮が取れてないのって、俺が魔物使いである魔人族を吹っ飛ばしちゃったからか……。飼い主の責任とかナマ言ってすみませんでした。


「でもしょうがなかった。俺は悪くないんだよ、うん」


「オヌシは何を言っているゲソ?」


「いや、コッチの話。それで、ラギュルさんが相手してくれんの?」


「オヌシは少々やるようじゃなイカ、化け物には化け物で対応させてもらうことにするゲソ」


 てかイカとかゲソって……。ナイスミドルな初老の男性が使っていい語尾じゃないと思うんだが。 


 そんなことを考えていると、魔獣使いが魔力を高めたかと思えば、中央の湖から巨大な足が何本か生えてきた。


 おいおい馬鹿言うんじゃねえよ……。


 吸盤のようなものが沢山ついた巨大な足は全部で八本。湖から逆立つように伸びており、どう見てもアレス教国の大聖堂くらいデカイ。


 間近に見たアレス教国の大聖堂が、四十階建ての予備校と同じように感じたんだ。つまり、あの足だけで百メートル以上あるってことだろ……?


「オヌシの相手はクラーケン、Sランク魔物ゲソ。何やら怪我人を逃がしているようじゃなイカ、死人を出したくないんでゲソ?」


 コイツ……。


「ワイバーン部隊!人族を殲滅するゲソォォォ!!」


 魔獣使いラギュルの声に合わせて、数十体のワイバーンが現れ、上空から攻撃をしてくる。


 ワイバーンの口からは何かエネルギー砲のようなものが、ワイバーンの背に乗った魔人族からは攻撃魔法が、次々に戦場へ降り注ぐ。


「終わり……だ」

「ガハハハ、ここまでの戦力差とは」

「まだ死にたくなかったよぅ……」

  

 ワイバーンはAランク、コイツらAランクパーティと同格だ。つまり一体一で戦えばどちらも死ぬということだもんな。


 そのワイバーンが数十体に、伝説のSランク魔物であるクラーケン。


 これで相手を殺さずだと?ゆっくりしてる間に人間は滅びるぞ。いや違うな、ギリギリ無理なんじゃなく、圧倒的に無理だからこそ別の方法に振り切ることを考えなきゃいけない。


 そうか、これは心を摘みに行く戦いなんだ。


 そうと考えれば、戦場を支配しつつ、圧倒的な絶望感を与える破壊神的な存在が必要だ。クラーケンの相手もしなきゃいけないしな。


「オサム君!アレ、湖、大きな足が!」


 美砂があまりのインパクトで片言になってしまっているが、ちょうどいい所で来てくれた。

 

「美砂!手伝ってくれ!」

「え?うん!」

 

「ロアいくぞ、温めておいたあの技を使う時が来た!シルワ=マーレ、魔獣使いラギュル!全ての人間と魔人族をこの一帯から逃がせ、死んでも知らんぞ」


「「分かった!」」

「オヌシは何を言っているゲソ?」


「忠告はしたぞ?」


 俺はトランスを発動し、魔力コブを全力で膨れさせ、全長百五十メートルの巨人を象る。


 魔力コブの中に入り、魔素と魔力をエレベーターのように操作して頭の部分まで移動すると、美砂のシールドでコックピットを作ってもらう。


 魔力の巨人はまだ透明なので、周りに魔素をコーティングすることで、目に見えるようにしていく。


 ワハハハハハ!圧倒的全能感だぜ!

 

 関ヶ原の戦いに一人だけモビルスーツで参戦しているようなもんだな!戦艦美砂のリアル実写化も近いぞ! 


「オサム君……これが何か聞いてもいいかな……?いや、手の形とかで何となく分かってきたんだけどさ……」

 

「大仏君だよ?」


「うん、やっぱりそうだよね……。というか、なんで大仏?というか何するつもりなの?」


「もちろんこの大仏君が景色を楽しむだけもものだと思ったら大間違いだ。なんせ、この戦いは敵の心を摘みにいく戦いだ。そうしなければ、敵の全てを倒す前にコチラの死者数は笑えない数まで膨れ上がるからな」


「確かに、そうかもね。でもこの大仏……いるかな?」


「敵に百メートル級のクラーケンが現れたんだ、敵が巨大化したらコチラも巨大化する、当然だろう?」


「え……そう?」


「そう、つまりクラーケンはこの大仏君が倒すんだ!本当は牛久大仏みたいに天〇魔闘の構えで戦いたいんだが、アレはカウンターありきの技だからな」


「牛久大仏ってそんな戦いの構えだったっけ?」


「ばっかお前!『天』は攻撃、『地』は防御、『魔』は魔力の超必殺カウンターを知らんのか!?」


「牛久大仏の話だよね!?」


「かぁぁぁ!お前は分かってない!いいか、そもそも天地〇闘の構えってのは空手の……「オサム君!大丈夫だから先に進めよう!僕は何をしたらいいのかな!?」


「全く……。まぁいいだろう、美砂にはとても重要な役割があってな、それはコックピットを頭の位置にした理由でもあるんだ」

 

「なんでヤレヤレってされなきゃいけないか分かんないけど、この際いいよ。それで重要な役割っていうのは?」


「『まふ☆マギ』に出てくるサンダース軍曹が、ライトニング教官の厳しい訓練の末に身につけた伝説の魔法を使って欲しい!」


「また『まふ☆マギ』なの!?嫌な予感がするよぅ……」


「その名も『ムカ着火ファイヤー』だ!」


「ほらっ!なんだか、すっごい駄作感だよッッ!!」


 そんなに力を込めて否定しなくたっていいじゃないか……。


「あ、いやゴメンね?ついツッコミが必要かと思って……。それで、その『ムカ着火ファイヤー』で何をしたらいいの?」


「いいけど、なんだかエリーズに似てきたな。それで、『ムカ着火ファイヤー』を使って大仏君の目を作って欲しい」


「目?」


「目、ほら燃えてる目ってカッコイイだろ?」


「それって重要?」


「重要だよッ!」


 燃える目が無ければ、ここにいる数万名の命は助からないかもしれない。なんせ俺のモチベーションに大きく関わってくるんだからな。


 イメージ共有魔法でムカ着火ファイヤーを共有すると美砂が肩を震わせている。自分の役目がどれだけ重要か、ようやく伝わったようだ。


 シーンごと共有したからな、ライトニング教官の厳しい訓練を乗り越え、目を燃やすエフェクト魔法を覚えたサンダース軍曹は、その後の訓練を軽やかに乗り越えていくことになる。


 その熱意を胸に、美砂は魔法を唱えてくれた。

 

「『カム着火インフェルノォォォォオオウ』」


 ムカ着火ファイヤーを超えて来た……だと?


 美砂の背後に般若が見える気もするが、気の所為だろう。ロアの感知にかからないからな。


 そんなやり取りをしていると、外装の魔素コーティングは完成していたようだ。


「よし美砂!開戦の狼煙といこうか、口から火炎放射、燃料は大量のアセチレンと酸素でやってみよう」


 大仏君の口を大きく開けて空を向き、首を百八十度回転させながら青い火炎放射を放出し、最後はこれから対峙するクラーケンに先制攻撃を入れる。


「ワハハハハハ!デストローイ!」

 

 さて、落ち着いてコックピットから辺りを見回すと、湖にはこれから締める予定のクラーケンが……既に黒焦げだな。


 アレ生きてる?


 黒焦げなクラーケンと大仏君の間には、細々とした人間なのか魔人族なのかが沢山いるけど、なんだか、やけに戦場が静かな気がする。


 誰も逃げないけど……、そうか百メートルをゆうに超える巨大なモノに挟まれている訳だもんな。


「蛇に睨まれた蛙ならぬ、前門の虎、後門の狼って所か」


「いや、前門は黒焦げのクラーケンだし、後門にはクラーケンを焼いた火を噴く大仏君だよ……」


 クラーケンが大きな音を立てて湖の中へ沈んでいった。


 ――*――

 クラーケンが出た頃。(エリーズ視点)


 ルロワ王国兵もルウ様に鍛えられたおかげか頑張ってくれていますが、やはり厳しいですわね。


 先程中央の戦場で沢山の人が空を飛んでいたのも気になりますわ。まぁ誰が原因かなんて分かっているのですけど。


 しかし……この魔術師アビスは強敵ですわね。


「よく躱すでありますね、流石勇者とそのお付きといった所であります!」


「俺たちは負ける訳にいかないからね!」

「目の届く限り、誰も死なせませんわ!」


「ふん、アレを見ろ!伝説のSランク魔物クラーケンであります!あれを見ても勝てると思うでありますか?」


 目の前の魔将軍は勝ち誇ったかのように問いただしてきますが……。


「あそこは、少し遠いですけど中央の戦場ですわね?」


「そうであります!君の魔法がいかに優れていても、ここからでは絶対に間に合わないのであります!」


 勇者京介様と目が合いました。どうやら京介様も同じことを考えているのでしょう。


「中央の戦場は魔獣使いのラギュル……でしたか?お可哀想に……命こそ多分無事でしょうが、心が無事であることを切に願いますわ」


「なんでありますか?」


 中央を戦場を一瞥し、自分たちの戦いに戻ろうとしましたが、私の視界の端にソレが飛び込んで来ました。


 アレは……?


「あ……アレはなんでありますか!?馬鹿な!聞いてないであります!ラギュルが捕らえた新たな魔物でありますか!?」


 どうやら同じ魔将軍である魔術師アビスも知らないようですわね。


「だ、大仏……?」

「京介様……アレをご存知で!?」


「えっと、俺たちの世界の神?みたいな感じで大きい像なんかも建てられているんだけど、大仏って言って……」


「オサム様は……神を作って戦わせるつもりですの!?」


「ああ、やっぱりオサムだよね……」

 

「ええ、どう考えてもオサム様以外にあり得ませ……」


 そう言いかけたとき、巨大な神像が口から青白い光線のようなモノを放出し、戦場はとてつもない熱気に包まれ、クラーケンを炭にしてしまいました。


 あ……あんなものが戦場に当たったら漏れなく全員即死ですわ。


 目の前にいる魔術師アビスも完全に停止してしまいましたし、戦場とは思えぬほどの静寂を迎えた後、クラーケンが大きな音を立てて崩れ落ちました……。 

 ――*――

お読み頂きありがとうございます。

ブックマークや☆1つでも評価を頂けるととても嬉しいです。


明日明後日の更新はお休みして月曜日から再開いたします。次話もどうぞよろしくお願いいたします。

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