47話 アレス教国へ出発です
新たな謎を見つけてしまったが、とりあえず全員に他人オーバーライドをかける事が出来た。
皆を見ると……やはり自分の速さに振り回されているみたいだな。
早くアレス教国の禁書庫へ向かいたい所だが、少し動きに慣れて、戦う訓練をしてからの方がいいだろう。アレス教国が触手卿だらけじゃない、なんて保証はないからな。
俺は皆が縦横無尽に駆け回っているのを見ながら考える。
そもそも魔力や魔素ってなんだろうな。
俺の身体が作り替えられていない、つまり転移だったと仮定すると、地球人の身体にも魔素があり、魔力があったということになる。
長い時間をかけて進化した人類が魔素や魔力を残していたんだ。判明していなかっただけで、地球でも何かしらの用途があったのかもな。
まあそんなことは置いといて、しばらくは皆にオーバーライドの訓練をさせて、俺は俺で新技の開発だな!
――修行を始めて二週間後。
今日も外で訓練だ。メンバーは俺と美砂とリオン、エリーズにエドモン、京介と団長、それからルウまで参加しての総勢八名だ。
やはり獣人であるリオンとルウは覚えるのが早く、かなり早い段階でオーバーライドを使えるようになった。
しかし、ルウは魔力量がとても少ないせいか、剣聖同様に使っているとすぐに魔力が無くなってしまうみたいで、要所で使うだけになるそうだ。
普通獣人は魔力量がほとんどないそうだが、リオンには魔力量が多いことを伝えると『そいつは獣人じゃねえ』ときたもんだ。
ルウには魔石みたいなものが無かったし、それが関係してるのか?
それと人間メンバーは遅れたが、美砂とエリーズ、エドモンは何とか自分で発動出来るようになった。
なかなか発動出来ないと思ったら細胞のイメージが上手く出来ていなかったようで、保健体育の授業をやってあげたら使えるようになったのだ。
今は総仕上げでバトルロワイヤル中である。
まずはエリーズを狙うか。
狙われていることに気付いたエリーズは、高速移動しながらウォーターカッターを発動する。直撃すると血が出る位には切られるので中々の威力だと思う。
しかし魔法発動時に一瞬止まるから減点だな。
次のエドモンは中々凶悪だ。元々攻撃と防御を技術で卒なく熟していたが、そこに身体能力が著しく上乗せされた訳だ。
大技は無いけど手堅い動きで隙が少ない。しかし、武器と防具を破壊すると肉弾戦は弱い、まだまだ課題ありだな。
次は美砂だ。うん、戦う気ないね。鬼ごっこやってんじゃねえんだよ、まてまてーとかやらんからな。
気を取り直してリオンだ、ゴメン……もう眠いよね。
よ、よし、最後!
ははは……。たまにお前のその歪んだ口元が夢に出てくんだからな。
多感な時期にトラウマ植え付けやがって!
「死ね!クソうさぎ!」
「何のために大人しくてめぇの技を習ってやったと思ってんだ!てめぇが死ねクソガキ!」
ルウの右手が左上から迫ってくる。その鋭利な爪で切り裂くつもりだろう。
爪が顔に当たるスレスレで、俺は半歩だけ踏込み右手でルウの手を弾く。ルウの手を弾いた反動を使って、そのまま顔に裏拳を入れにいく。
裏拳をルウは耳でガードし、半身になった俺の後頭部に左脚でハイキックを入れようとする。
俺は膝を抜き、ルウに背中を向ける形で深くしゃがむことで蹴りを避け、しゃがんだ状態からしなるようにバク転する。
着地をする足を強く振り下ろし、ハイキック後の隙が出来たルウの頭部を蹴り落とした。
と、思ったら……。
今は両足の太もも辺りをそれぞれの両耳で捉えられ、ぶら下げられた状態になっており、吊るし切りを待つアンコウの図である。
あ、アレは頭が上だっけ?
俺の頭はルウの腰辺りだが、ルウの口元が釣り上がっていくのが良く見えた……。
――本日の訓練後。
「ハァ……酷い目に会った」
「ははは……、でもオサム君楽しそうだったよ」
「まあ……ね」
皆の実力もある程度形になってきたので、アレス教国へ向かう準備を整えるために街を歩く。
もう寒くなってきているからな。防寒用に毛布を買い込んで、旅が快適に過ごせるようにしなければ。
色々と目移りしながら道を進んでいくと、遠くから聞こえていた『カンッカンッ』という金属同士をぶつけるような音が近づいてきた。
ここまで近づけば、この音はおそらく鍛治の音だろうと素人でも予想できる。
そうしてふと、鍛冶の音を弾ませている武器屋の前で足が止まる。やっぱり直接攻撃って限界があるよな……、触れない敵とかが出てきたら俺は戦えないもんな。
「ここ、京介君が刀鍛冶をしてる武器屋だね」
「へええ、ここがそうなのか。ちょっと入ってみていいか?」
「いいよ、行こうよ」
店内に入ると、銀色に薄っすらと光る武器や鎧なんかが所狭しと飾ってある。
防具は盾や胸当て、フルプレートの鎧なども置いてあるので、随分と幅広く取り扱いのある店みたいだな。
しかし防具よりも武器の種類が多く見られ、とにかく色んな形のものがある。剣だけでも十数種類ありそうだし、槍や斧、ハルバードなんかも立てかけてある。
店員は誰もいないが、武器を見ながら店の奥の方に進んでいくと、カウンターの近くにはショーケースがあり、中には店内の照明を反射して芸術品のように輝く日本刀が飾ってあった。
これが、以前京介が言っていた孫六兼元かな。確かに刃文が杉の形をしているようにも見える。
刀を眺めていたら、ようやく俺たちが来ていることに気づいたのか、奥から店主らしきおじさんが出てきてくれた。
「おう、嬢ちゃんは確か……前に京介と一緒に来てたよな?」
「親方さん、こんにちは!今日はオサム君がこの店を見てみたかったようで」
「はぁー、嬢ちゃん二股は良くねぇぞ?」
「ふた……ち、ちちちちち違うよぉ!全ッ然違うし、ふ、二股とかそんな!」
「お?おう、そうか、すまなかったな」
美砂がまたアワアワしていて話しが進まないので、放っておいてこちらで進めさせてもらう。
「直接触りたくない敵を殴ったり斬ったり出来る武器を探してるんだが、何かないだろうか?」
「あん?兄ちゃんは普段どんな武器を使ってんだ?」
「素手、だな」
「本当に必要なのか?武器……」
「ぐっ……。武器屋だろう?なにかオススメしてくれ!」
「いやオススメったってよ、普段の戦いを知らねえと……。大体、どんな武器がいいのか自分でもイメージとかはねえのか?」
「どうせ持つなら……とにかく硬い、俺が振っても壊れない武器が欲しい」
「ほらな、『どうせ持つなら』とか言ってんじゃねえか。自分でも武器なんか要らねえと思ってんだろ。それに、俺の武器はどれを買ってもそんな簡単に壊れねえよ」
「ほう?金は払う、武器を一本貰っても?」
「あ、ああ……いいけど何するつもりでぇ?」
俺は大剣の持ち手を石床に突き刺し、刃の部分が地面から生えている状態を作った。
そしてオーバーライドを発動し、大剣の側面ではなく、刃の部分に対して垂直に全力パンチを入れると、大剣は真っ二つになってしまった。
「おいおい、そいつは魔鋼鉄で出来てんだぜ。兄ちゃんは人間か?それより硬い武器なんて……伝説のヒヒイロカネやオリハルコンじゃねえと……」
「オリハルコンがあるのか!?胸熱だな!」
「ああ、勇者様の刀がオリハルコンだったと聞いているな。俺の師匠の師匠が王国に住む偏屈なドワーフだったみてえでな、勇者様の刀を打ったらしいぞ?」
「ドワーフもいるのか!!」
この分だとまさかエルフとかもいるんじゃないのか?まずいな、この世界でやりたいことが増えすぎて地球に帰るモチベーションが……。
「しかしそうか、硬い武器ってのはなかなか無いもんなんだな。ミスリルとかないのか?俺たちの世界では定番なんだが……」
「あるぞ?だが、ミスリルは銀と特性が近いからな、むしろ魔鋼鉄のほうが硬いぞ?魔法は使いやすくなるから、魔法師の武器だな」
「エリーズはミスリルを使った事あるか?」
「ありますわ、確かに魔力の伝導率がとてもいいので、魔法杖としては有能ですわね」
魔力の伝導率……身体強化って身体を魔力でコーティングして硬くしてるよな。もしかして、ミスリルも魔力でコーティングしたら硬くなるんじゃないのか?
「親方!要らんミスリルないか?」
「アホか!要らんミスリルなんてないわ!」
「じゃあ買う、ミスリルの剣どれだ?」
「なんだまたなんか試すのか?」
俺はミスリルの短剣を買い、自分の身体の延長というイメージで身体強化を発動する。
「あなたそれ、まさかその短剣に身体強化をかけてますの?」
どうやらミスリルの剣も身体強化ができたので、その状態で剣を殴って見たのだが、剣は歪んだりすることもなかった。
これはいけるのでは?
強者との戦いはオーバーライドが必須だからな、オーバーライドを発動すると……。
『バキッ』
ミスリルの短剣が砕けた……。
「兄ちゃん……。おめえに武器は向いてない、諦めろ」
親方が俺に諦めるように、諭すように教えてくれたのだが、どうやら物体には魔力を受け取る許容量があり、それを超えると壊れてしまうようだ。
「じゃあ俺の武器を手に入れるには、その伝説のヒヒイロカネやオリハルコンを探すしかないってことなんだな……」
「いや、おめえに武器要らねえよ。武器より硬いんだから。あえて言うなら、オリハルコンだったら兄ちゃんの魔力にも耐えれるかもな、なんせ先代勇者のお供だった訳だしよ」
武器が手に入らなかったのは少し残念だったけど、オリハルコンを見つけて武器にするのはゲームでも必須パターンだ。考えようによっては悪くない、いやむしろ俄然アリだな。
その後、武器屋以外にも色々な店を巡り、旅の準備を整えた俺たちは、次の日の朝に王都を出発した。
目的地であるアレス教国は魔物馬車で二週間ほどらしい。
御者のエドモンには悪いが、俺は馬車の中で毛布を被り、リオンを抱っこして暖をとる。
幌の隙間から外を覗くと、冬の始まりを告げる冷たい空気が肌に刺さるようだった。
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