第13話(最終話):「音の先にある場所で」
◆放課後・音楽室
その日、広陵高校吹奏楽部はいつも通り、19時までの練習を終えようとしていた。
全国大会の余韻も冷めやらぬ中、それでも部員たちは“次の目標”に向けて、真剣な眼差しで音を紡いでいた。
「……じゃあ、今日の練習はここまで! おつかれさま!」
部長・葵の声が響き、楽器を置く音とともに部室に安堵と充実感が広がる。
ペットボトルのキャップが開く音。楽譜を閉じるパタンという音。
その“日常”の音の中で、突然――
ガチャ――
部室の扉が静かに開いた。
誰もが振り返り、目を見開いた。
そこに立っていたのは――
「こんばんは、広陵高校の皆さん」
「……えっ!? 駿輔さん!? そして香奈ちゃん!? GRT48の……!」
◆部員たちの反応
男子トランペット・俊太郎「マジかよ!? 本物!? 本物だよなこれ!?」
打楽器・結衣「うそでしょ!? 香奈ちゃん……本物!? テレビで見てる人が……!」
チューバ・達也「駿輔選手って、プロ野球の……えっ、えっ、なんで!? なんでここに!?」
女子クラリネット・ひかり「夏葉先生の旦那さんだって噂は聞いてたけど……うわ、現実味なさすぎて震える……!」
男子フルート・陸「……夢? 俺、疲れてる? 誰かツッコんで……」
部室がどよめきと歓声に包まれ、香奈が少し照れたように微笑んで手を振る。
香奈「びっくりさせちゃった? お兄ちゃんと一緒に、ちょっとだけ応援に来ちゃいました」
駿輔「お邪魔します。……皆さんの演奏、実はよく家で夏葉が話してたんですよ。“みんなの音が、私の力になる”って」
◆回想:2日前・校長室
「――2日後、部活終わりにサプライズで行きます。夏葉には内緒でお願いします」
駿輔の申し出に、校長と教頭は目を合わせ、頷いた。
校長「もちろん、歓迎しますとも。生徒たちも、夏葉先生も、きっと喜ぶでしょう」
教頭「ええ……夏葉先生、復職してからずっと、あの部に全力で向き合ってくださってますからね。その労いも込めて」
駿輔は少しだけはにかんだように笑って、頭を下げた。
駿輔「ありがとうございます。僕も……支えたくて」
◆現在・部室
香奈が部員たちに話しかける。
香奈「吹奏楽部って、いつもこんなに遅くまで練習してるの?」
女子部長・葵「はい、だいたい19時から20時までやっています」
香奈「すごいなあ……でもさ、たまには17時とか18時で切り上げる日があってもよくない?」
男子副部長・圭吾「うちは強豪校なので……どうしてもこのくらいの練習量が必要なんです。全国目指すなら、やっぱり」
香奈「そっか。でも、せめて金曜日くらいは早めに終わって、ちょっと音楽から離れる時間もあってもいい気がする。音楽って、“好き”って気持ちが一番大事だから」
打楽器・結衣「……確かに。最近、ちょっと詰めすぎてしんどくなってたかも」
クラリネット・ひかり「香奈ちゃんにそう言ってもらえると……なんか、安心する」
男子トランペット・俊太郎「金曜だけ軽め練習……それ、いいアイディアかも……!」
女子部長・葵は、少し考えてから、夏葉を見た。
葵「……先生、金曜はちょっと早めに終わる日を作ってもいいですか?」
夏葉は、温かく微笑みながら答える。
夏葉「……まかせるよ。部長が決めていい。でも……私も月に一回くらいは休ませてね?」
部員一同「はーい!(笑)」
男子副部長・圭吾「先生の休日が金曜日になりそうで、ちょっとホッとしました(笑)」
笑い声が部室に広がり、その空気はまるで家族のようだった。
◆その夜・夏葉と駿輔の時間
香奈は東京に戻り、翌日からの撮影に備えるという。
夜。二人の子どもを寝かしつけた後、夏葉と駿輔はリビングでワインを開けた。
「会えてよかった……本当に、ありがとう」
「久しぶりだもんな、こうやって二人きりの時間なんて」
灯りの落ちた寝室。指が触れ合い、そっと体を寄せ合う。
唇が重なり、言葉よりも深く心が通い合う。
「会えてよかった……駿輔」
「俺もだよ。……ずっと、こうしていたい」
胸元に顔を埋めながら、夏葉は小さく笑った。
「……それ、プロ野球選手が言うセリフ?」
「いいじゃん、たまには。……明日も勝つよ。お前が応援してくれるなら」
「……うん。応援してる。ずっと、いつまでも」
「……行ってきます。明日も、勝つから」
「……うん。応援してる。ずっと」
◆翌朝・自宅
リビングでは、プロ野球の試合前特番が流れていた。画面には、今日の先発投手・広陵出身のエース、駿輔の名が。
未衣奈がクッションの上で跳ねる。
未衣奈「パパ~! がんばれーっ!!」
まだよちよち歩きの弟も、画面をじっと見つめていた。
夏葉は、その二人の背中にそっと手を添え、愛おしそうに微笑む。
「今日も、うちのエースが魅せてくれるよ」
窓の向こうに、澄んだ青空が広がっている。
その空は、音楽室の窓から見た、あの日と同じ色だった。
――音楽と、家族と、夢を繋いで。
今、この瞬間にも、新たな音が生まれていく。
―終わり―




