第6話:「音が聞こえない日」
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◆冒頭:月曜日の朝/職員室
(夏葉が席に着き、机の上に広がる生徒の楽譜に目を通している)
同僚教師「この前のライブ、見に行きましたよ。あの香奈さんって、本当にお義妹さんだったんですね!」
夏葉(笑って)
「ええ、私も驚いたくらいです。でも……おかげで部の子たち、やる気がぐっと上がりました」
(ふと、1枚の楽譜に目が止まる)
夏葉(心の声)
「……このアレンジ、変わってる。音が逃げてる……?」
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◆昼休み/吹奏楽部の練習室
(部員たちは活気にあふれているが、一人だけ黙々と座っている女子生徒・蓮見沙織)
夏葉「沙織さん、調子悪い?」
沙織(顔を伏せたまま)
「先生……なんか最近、音が、自分のじゃないみたいで……」
(静まり返る部室。部員たちが気遣うように沙織を見る)
沙織「香奈ちゃんの演奏、凄すぎて……なんか、私の音が、全部嘘みたいに思えちゃって」
部員A「そんなことないよ!沙織は沙織の音があるって!」
夏葉「……その気持ち、すごくよくわかる。でも、比べるために音楽をやってるんじゃないよね」
沙織「……」
夏葉「もう一度、自分の“音”を信じてみて。私は、沙織さんの音が好きよ」
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◆夕方・自宅/網谷家のリビング
(夏葉、ソファで沈んだ様子)
駿輔「どうした?部活で何かあったか?」
夏葉「うん……一人の子が、自分の音に自信をなくしててね。香奈ちゃんのライブが、ちょっと刺激強すぎたみたい」
駿輔「それだけ響いたんだろうな。でも、それって音が“届いた”ってことじゃないか?」
夏葉「そう……だよね。でも、生徒の心の中までは吹けないから、難しいの」
駿輔(優しく肩を抱き)
「俺たちも、野球で似たようなことあるよ。“あの人には敵わない”って思った時こそ、原点に戻るんだ」
夏葉「……原点」
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◆翌日/校庭の片隅
(沙織が一人、クラリネットを持って音を出しているが、うまく吹けない)
(そこへ、香奈が登場)
香奈「やっほー。……クラ、いい音してたよ?」
沙織「え!?か、香奈ちゃん!?な、なんで!?」
香奈「ちょっとだけ、夏葉先生に楽譜届けに来たの。で、音が聞こえたから、つい」
沙織「……私、自信なくしてて……」
香奈「うん、分かる。でもね、自信って“ある”か“ない”かじゃなくて、“育てる”もんなんだよ」
(香奈はその場で、沙織の楽譜を見てクラリネットを吹き出す。少しだけ変えたアレンジ)
香奈「これ、どう?君の音にちょっとだけ私のスパイス。自分の音が誰かの“共演者”になると、音楽ってもっと楽しくなるよ」
沙織(少し笑って)
「……ありがとうございます」
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◆放課後/吹奏楽部・部室
(沙織が自分から立ち上がって練習を始める)
部員A「沙織、戻ってきたね」
夏葉(心の声)
「音って、不思議。ときに背を押し、ときに寄り添う。そして――何よりも、心をつなぐ」
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◆夜/網谷家の寝室
(夏葉、布団の中で駿輔と会話)
夏葉「今日、少しだけ、音が戻ってきた気がするの」
駿輔「お前の音、ってやつか?」
夏葉「ううん、生徒たちの音。だけど……それを信じてあげられるようになった自分に、ちょっとだけ自信が出てきた」
駿輔「それでこそ、俺の奥さんだな」
(2人、静かに笑い合い、手を繋いで眠る)
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◆エピローグ/東京・GRT事務所
安本「……で、勝手に学校行ったって?」
香奈「ちゃんと夏葉先生に楽譜届けに行っただけだよ?」
美香(書類を見ながら)
「“音で寄り添うアイドル”……次の特集、これでいけますね」
安本「ったく。アイドルってのは、ほんと、勝手な音出すんだから」
(ふと、満足げに頷く)
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◆ナレーション:夏葉
「“音”は、目に見えないけれど、確かにそこにある。揺らぎ、迷い、そして……導く力になる。
もう一度、生徒たちの音と、ちゃんと向き合えるように――私は、私の音を奏でていこう。」
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