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Times Limit Lover ~ プロ野球入団予定の私と隣人の鬼教師の時間制限の恋 〜  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
改訂版『Times Limit Lover ~ プロ野球入団予定の私と隣人の鬼教師の時間制限の恋 〜』
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第5話 「静かなる告発、そして決意」



季節は梅雨へと移り変わり、曇天が続く毎日。

俺たちの関係は、静かに、でも確実に深まっていた。

……けれど、周囲の視線もまた、静かに変わりはじめていた。


 


「ねえ、あれってさ、どう思う?」


ある日の昼休み。クラスの女子たちが教室の隅でヒソヒソと囁きあっていた。


「隣の網谷くんと佐藤先生……あれ、普通じゃなくない?」


「え、もしかして付き合ってるとか? だってあの目線とか、距離感、おかしいよね?」


俺の耳には、直接は届いていなかったけど、たまたま廊下で立ち止まっていた時にその会話が聞こえた。


背筋が一瞬、冷たくなった。


(まずい……)


誰かが気づきはじめている。


教室では極力、話しかけないようにしていたつもりだった。

でも、きっと無意識のうちに――俺は、彼女を「特別」に見ていたんだ。


 


放課後、グラウンドに向かう前、職員室の前で立ち止まった。

ドア越しに聞こえる夏葉先生の声。それだけで、不安と恋しさが交差する。


(これ以上、彼女に迷惑をかけたら……)


そう思った矢先、職員室の隅に見慣れない男の姿があった。

スーツ姿。首から記者証。手にしたノートには、俺の名前が大きく書かれていた。


――週刊スポーツ誌の記者だ。


彼は俺の顔を見るなり、すっと立ち上がった。


「ああ、網谷くん。少し話、聞かせてもらってもいいかな?」


その笑顔は、どこか冷たく、探るようだった。


「……用件は?」


「ま、簡単に言うと、進路のことさ。プロ志望届、いつ出すのかってね」


けれど、会話の後半で、彼は唐突に聞いてきた。


「それと、担任の佐藤先生とは随分仲が良いそうだね。家が隣なんだって?……噂になってるよ」


俺の拳が、無意識に震えた。


(こいつは……探ってる。俺たちの関係を)


「くだらない噂ですね。先生は、教師として尊敬してます。それだけです」


冷たく言い放ち、その場を立ち去った。


けれど――心の奥底では、確かな“危機感”が芽生えていた。


 


その夜、ベランダ越しに彼女に伝えた。


「……ごめん。俺、もしかしたら……俺たちの関係、誰かに疑われてるかもしれない」


夏葉先生は驚いた顔をしながらも、すぐに平静を取り戻した。


「……やっぱりね。私も、なんとなく感じてた。最近、生徒の目が少し変わってる気がしてたから」


彼女はベランダに身を寄せ、静かに言った。


「でも、それでも私は後悔してない。駿輔とこうして向き合ってきたこと、全部、正しかったと思ってる」


「俺もだ。けど……君を守れないようなら、俺は……」


その時、夏葉先生がそっと手を伸ばしてきた。


「守るだけがすべてじゃないよ。私だって、あなたを守りたい。……でも、それには冷静な判断が必要」


「……どういうこと?」


「距離を、少しだけ、置こう」


その言葉は、雷のように胸に落ちた。


 


「このままじゃ、あなたの将来を壊すし、私も教師でいられなくなる。

でも、それが終わりだって意味じゃない。これは……次に進むための一時停止」


彼女は涙をこらえながら、でも力強く笑ってみせた。


「夏の大会が終わったら、また話そう。そのとき……本当に隣に立てるかどうか、決めよう」


俺は、頷くしかなかった。


――俺たちの時間が、止まった。


けれどそれは、終わりじゃない。


再び動き出すための、静かな充電期間だった。


 


(俺は勝ち上がる。どんな重圧も、全部超えて)

(そして必ず――君を迎えに行く)


 


数日後、普通に授業を受けていた時だった。

突如、校内放送が鳴り響く。


『3年1組・網谷駿輔くん。校長室へ来てください』


教室がざわつき、クラスメイトたちが一斉に俺を見た。

担当の先生が促すように「すぐ行って」と言い、俺は静かに立ち上がった。


 


校長室の扉を開けると、そこには校長先生、教頭先生、そして夏葉先生の姿があった。

俺は自然と、夏葉先生の隣に立った。


「網谷君」

校長先生が低く、だが真っ直ぐに俺を見据えた。


「君は、佐藤先生と――付き合っているんですよね?」


いきなりの直球に、心臓が跳ね上がった。


「なぜ、それを……」


「君の父親から電話があった。“うちの息子と佐藤先生は付き合っている”と」


「え……俺の親父と繋がってるんですか?」


校長は頷いた。


「そうだ。君の父親は、私が教員になったばかりの頃の教え子だった。私は担任だったんだよ」


さらに教頭が口を開いた。


「佐藤先生の父親は、私の一つ上の先輩でね。彼からも“うちの娘と網谷君が交際している。どうか見守ってやってほしい”と話を受けた」


「……つまり、俺たちの関係を、うちの親父も、先生の親父も……認めてくれてるってことですか?」


「そういうことだ。ただし、学校には内密に、とも言われている。だから今、君にだけ伝えておく」


 


教頭室から出ると、元野球部の仲間――元キャプテンと4番捕手が待ち構えていた。


「なあ駿輔、教頭先生の話……本当なのか?」


俺は小さな声で答えた。


「……校長と教頭にも、俺たちの関係は知られてた。親父たちが、それぞれ話してたらしい」


驚いた顔のまま、キャプテンが言う。


「お前の親父、校長の教え子で元プロって……なんかドラマかよ」


捕手も感心したように笑う。


「それより、佐藤先生の父親と教頭が先輩後輩ってのがすげーよな。どんな人脈してんだよ、お前」


 


するとキャプテンが真顔になって言った。


「で……あれだよ。卒業式に告白してプロポーズするって話。教頭と校長にはまだ言ってないよな?」


その夜、俺はベランダ越しに夏葉先生へ、静かに言った。


「……卒業式の日。俺、プロポーズします」


夏葉先生は一瞬、目を見開き、言葉を失った。

けれど――その瞳の奥に、確かに宿る“覚悟”を、俺は見逃さなかった。



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