第3話 「秘密の恋と練習、そして妹の登場」
俺と夏葉先生の秘密の恋は、学校でも家でも人目を忍んで、慎重に続いていた。
学校では、授業の合間にほんの15分、他愛もない話を交わすだけ。誰の目にも怪しまれないように、少し距離をとって話すようにしていた。
一方、家では隣同士という立地を活かし、夜になると窓をそっと開けて、お互いの部屋越しに小声で会話する。
「次、窓を3回ノックしたら『好き』って意味ね」
「そんな秘密の合言葉みたいなルール、誰にもバレないかな」
そんなふざけたやりとりすら、俺たちには貴重で、大切な時間だった。
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そんなある日、ついに両親同士の顔合わせが行われた。
夏葉先生と俺の母親は、実は小学校から高校までずっと同じ学校に通い続けた幼馴染。
再会に、二人の母親は一気に時間を巻き戻すようだった。
「まさかうちの息子が、あんたの娘と先生と生徒として出会うなんてねぇ。世の中ってほんと狭いわよね」
「ほんとよ。駿輔くん、うちの夏葉のこと……ちゃんと大事にしてくれてるみたいで、安心したわ」
母親たちはワインを片手に、あの頃の思い出話に花を咲かせていた。
「覚えてる?あんた卒業式で、泣きながら校歌歌ってたじゃない。あれ一生忘れないわ」
「ちょっとやめてよ!駿輔くんに恥ずかしいでしょ〜!(笑)」
俺と先生の関係を真正面から肯定するわけではなかったが、母親同士のこの深い繋がりが、俺たちの背中を少しだけ押してくれているような、そんな気がしていた。
駿輔の父親と夏葉先生の父親は後でこの事を知ったのだ。
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そして、ある日の夕方。俺は広陵高校の専用野球場へ向かっていた。
バスに揺られること30分、野球場に着くと、捕手で4番の平澤大河と、元部長で三塁手の坂井先輩がすでに待っていた。
「お!駿輔、来たか」
「お疲れ様です。どうしたんですか、坂井先輩」
坂井先輩はキャップをかぶり直して言った。
「2年の投手が遅れてくるらしくてな。お前、肩慣らしがてら投げてくれねえか?」
聞けば、その投手の父親が工事現場で怪我をして病院に寄ってから来るらしいとのこと。
「わかりました。久々に投げられるだけで、むしろ嬉しいです」
早速ユニフォームに着替え、マウンドに立つと、レギュラーセカンドの片山が打席に入った。
俺は横手から鋭く、サイドスローで速球を投げ込む。
球速測定機には「138km」と表示された。
「おお、まだ全然鈍ってねえな!」と平澤大河が目を丸くする。
「先輩の球、俺も受けてみたいです!」と2年の控え捕手、西條颯斗が手を挙げた。
「大丈夫か?骨とか折れても知らねえぞ」と大河が笑う。
「はい、やらせてください!」と、西條颯斗は嬉しそうにマスクを被って座った。
「西條、本気で投げるぞ?」
「お願いします!」
気合を入れて投げたボールは、球速「145km」を記録した。
「ストラァァァイク!」と坂井康熙先輩の大きな声が響く。
「うわっ、手痺れた……これマジやばいっす!」と西條。
「お前、先輩の球受けたって一生語れるぞ」と大河が笑う。
次に、2年の右翼手・高橋一生が打席に入る。
「お願いします!」と礼儀正しく一礼。
俺は軽く頷いて、今度はカーブを投げた。
球速は「110km」、続けて「108km」。選手権の頃よりやや落ちていたが、回転は鋭く、落差も十分。
「くっそ……やっぱ先輩のカーブ、曲がりすぎてタイミング合わねえっす」と高橋一生が唸った。
続いて、2年の打者が交代で5人ほど打席に立ち、各自5〜6球ほど粘ってきた。
みんな真剣に、全力でバットを振ってきた。これが、野球だ。
その時、グラウンドの端から走ってくる影が見えた。
遅れて来た投手・榊皇紀だった。
「すみません、父が怪我をして……でも、もう大丈夫です!」
「無理すんなよ、榊」と坂井先輩。
「お前の分は俺が投げといたから、後は頼んだぞ」と俺が言うと、榊は「はい!」と気持ちの良い笑顔を見せ、ユニフォームに着替え始めた。
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夕方4時を過ぎた頃、雲間に沈みかけた太陽の下、駐車場から警笛音が鳴った。
ふと視線をやると、そこにいたのは夏葉先生と妹の香奈だった。
「おい、あれ……香奈ちゃんじゃね?」
「うそっ!?GRT48の香奈!?ヤバッ!」
「しかも、あの鬼教師が一緒にいるぞ!」
「マジかよ、あの人だけはホント無理……」
部員たちはざわめき始める。
朝、母に迎えを頼んだ覚えはないのに……2度目の警笛音で俺の迎えだと気づいた。
「駿輔、お前の迎えか……でも、なんで鬼教師なんだよ?」
「多分、うちの母親が頼んだんだろ」
「え、お前の母ちゃんとあの先生、知り合いなの?」
俺はそっと耳打ちした。
「実は、先生とは家が隣でな……
あと、俺の母親と夏葉先生の母親が小学、中学、高校と同じで、実は幼馴染なんだよね。このこと、絶対他の人には内緒な」
「マジかよ……ってことは、何かあるってことか?」
「ないとは言えねぇ。でもこれ以上言うと、先生に殺される」
「……おい、まさか付き合ってるとか言わないよな?」と大河。
俺は黙って、小さく頷いた。
「マジかよ!!」と大河。
「駿輔、それはさすがに……いや、すげえけどヤバいぞ!」坂井先輩。
「頼むから誰にも言うな。もしバレたら先生の人生終わる。俺がプロ入りできても意味なくなる」
「おう。分かった。」
「ここにいる人も言わない様にするわ」と坂井先輩が言った。
俺はそう言って、ユニフォームのまま駆け足で野球場を離れ、夏葉先生と香奈が居る車に向かった。
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「すまん、お待たせ」
「お兄ちゃん、遅いよ〜!夏葉さん、ずっと待ってたんだから!」
「何回、警笛音鳴らさせるつもり?」
「ごめん、先生……」
「お兄ちゃん‼︎ 汗臭い(笑)」と香奈が鼻をつまむ。
「帰ったらすぐ風呂入る。香奈、沸かしてくれる?」
「うん、ちゃんと沸かしとく!」
妹の頭をポンと撫でると、香奈がふいに前を見ながら言った。
「君たち、仲良いんだね。」と夏葉先生。
「買い物やスーパーとか行くし… なんでもしてくれる。大好きなお兄ちゃん‼︎ 」と香奈が…
駿輔が香奈の言葉に泣いてしまった。
急に香奈が2人に言った。
「……ねぇ、二人って、いつから付き合ってるの?」
「か、香奈ちゃん……私は教師で、駿輔は生徒なの。もしバレたら、大問題になっちゃうのよ」
「それはわかってる。でも、お兄ちゃんはプロ行き確実って言われてるし、夏葉先生は“鬼教師”って怖がられてる。でも私は……どっちも好き」
「香奈ちゃん……」夏葉先生。
「お前って奴は… 」兄である駿輔(私)。
「だったら、校長先生とか教頭先生に相談すればいいじゃん」
「それができたら一番いいけど……現実は、そう簡単じゃないの」
夏葉先生は窓の外を見ながら、少し苦しげに答えた。
「じゃあさ、夏葉先生のお父さんとか、うちのお父さんに話してみようよ」
「そういや、父親達には話してなかったね。」
「互いに母さん達には話したが… 父親には話せてないな」と駿輔。
「反対されそうで… 」と夏葉先生。
車は静かに、夕暮れの街を走っていた。
外の景色はオレンジ色に染まりながら、俺と先生の恋の行方を、そっと見守っているようだった。
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その後日。香奈は父親と夏葉先生の父親に2人が付き合っている事を話した。
そして許可を得る事が出来、夏葉先生の父親が駿輔に「娘の事を宜しくお願いします」とお願いした。
また駿輔の父親も夏葉先生に「こんな息子をお願いします」と承諾を得た。




