第2話 「先生の答え 〜 時間制限の恋 〜 」
翌朝、いつもより少し早く目が覚めた。
昨夜のことが頭の中で何度もループしている。隣に住む鬼教師・佐藤夏葉先生に告白した――本気で。そして、先生は「少し考えさせて」とだけ言い残し、部屋を出て行った。
今日、返事が来る。
そんな覚悟と緊張を胸に、俺は制服に袖を通し、玄関を出た。
「……おはよう、駿輔くん」
家の前で、待っていたのは――夏葉先生だった。
教師としての顔ではなく、少しだけ柔らかい表情の“佐藤夏葉”として、俺を見ていた。
「せ、先生……!」
「登校、いっしょに行きましょう。まだ他の生徒たち、登校してない時間帯だから」
時計を見ると、まだ朝の7時前。さすがに通学路には誰もいない。
二人で並んで歩くのは、小学生の頃以来だった。
沈黙が続く中、夏葉先生が口を開いた。
「昨日のことだけど……驚いたよ。本当に。まさか隣の家の駿輔くんが、そんなふうに思ってたなんて」
「……ずっと言いたかったんです。でも、先生が教師になって、どんどん遠い存在になって……」
「でもね」
彼女は立ち止まり、俺の顔をじっと見つめた。
「私、駿輔くんのこと、ちゃんと見てきたよ。小さい頃から、野球に真っすぐで、頑張ってるの知ってたし……うちのお母さんからも、よく聞いてたし」
俺の胸が高鳴る。これは――
「でもね、私は教師。しかも、あんたの担任」
その声が、少しだけ硬くなる。
「だから、すぐに“はい、付き合いましょう”って軽々しく言えないの。万が一、周りにバレたら、私だけじゃなく、駿輔くんの未来も壊すことになる」
「……それでも、俺は本気です。誰にも言わない。絶対、バレないようにします。だから――」
「それでも?」
「それでも、俺は夏葉先生が好きです。……ずっと、変わりません」
先生の表情が揺れる。そして、小さくため息をついてから、俺に向き直った。
「……わかった。じゃあ、こうしましょう」
「え?」
「“高校を卒業するまで、絶対に秘密”」
「……!」
「絶対に誰にも言わない、見せない、バレない。それが守れたら――卒業する頃には、きちんと“彼女”になってあげる」
それは、今すぐの交際ではなかったけど、それでも――俺にとっては、確かな“希望”だった。
「……それ、約束ですよ?」
「うん。指切り、しとく?」
俺たちは誰もいない朝の通学路で、そっと指を絡めた。
「指切りげんまん、嘘ついたら――鬼教師がぶん殴る」
「……こわっ」
笑っている彼女の横顔が、初めて“年上の女性”じゃなく、“一人の女の人”に見えた。
そうして始まった、俺と夏葉先生の“時間制限つきの恋”。
誰にも言えない、でも確かな想い。
その一歩を、俺たちは踏み出した――。
⸻
少しして、小さな紙切れが俺の手に届いた。夏葉先生からだった。
「後で家に伺います。」
そうだけ書かれていた。
学校はいつも通りに授業を受けて、その夜だった。
チャイムが鳴り、ドアのベルが響く。
玄関を開けると、そこに夏葉先生が立っていた。
「失礼します」
そう言いながら、彼女は俺の部屋へと進み、寝室の床に腰を下ろした。
「駿輔君、本当に私で良いの?」
その瞳は真剣だった。
「はい。小さい頃から好きでした。付き合って下さい。」
少し照れながら答えると、彼女は頭をかいた。
「なら、時間を決めて接しましょう。」
先生と生徒の恋は、世の中的には禁じられていることを知っている。
だからこそ、俺たちは約束を守らなければならない。
そしてまず、俺たちは家族に話した。
俺の両親も、夏葉先生の両親も、この関係の難しさを理解し、了承してくれた。
「法律で禁止されていることだから、それを守れるなら良しとしよう。」
そう父が言った。
次の日、俺は夏葉先生の父親と母親に正式に報告した。
彼女の父親は真剣な眼差しで、
「時間を決めて接しなさい。それが最低限の約束だ。」
そう言って、俺たちの関係を見守ることを決めてくれた。
これから始まる“秘密の時間制限の恋”。
この約束を胸に、俺は夏葉先生と共に前に進む――。




