第1話 「隣人は鬼教師 - 告白のはじまり- 」
俺の名前は――網谷駿輔。
今年、18歳。広島市出身で、春から高校1年生になったばかり。進学先は、全国屈指の名門・広陵高校。もちろん、野球部に所属している。
ポジションはピッチャー。中学時代、スピードガンで最速145kmを記録し、「未来のドラ1候補」とメディアやスカウトからも騒がれていた。しかも、4番バッターとしても活躍し、中学3年間で20本以上のホームランを放ったスラッガーでもある。全国中学生大会での優勝経験もある俺は、まさに“注目の逸材”としてスポーツ推薦で広陵高校に入学した。
そんな俺が、入学式で見た光景に、思わず息を呑んだ。
スーツ姿で壇上に立っていた女教師――その人は、家の隣に住んでいる“あの人”だったのだ。
名前は佐藤夏葉、28歳。
そう、あの佐藤さん……いや、“夏葉先生”だった。
生徒たちの間では「鬼教師」として有名らしく、誰もが彼女のクラスにはなりたくないと噂していた。……まさか、俺の担任になるなんて。
入学式が終わってホームルームの時間。俺はこっそり小さな紙を折って、彼女の机の上にそっと置いた。
「今、何渡したの?」と隣のやつが聞いてきたが、俺は笑って「秘密」とだけ答えた。
夏葉先生は紙を開き、そこに書かれた文字を読み取る。
>「私のこと覚えてますか? 隣の家の網谷です。」
一瞬、彼女の目が見開かれた。「……あの子か」と小さくつぶやく。
続けて、紙にはもう一言。
>「今夜、うちに来ませんか?」
彼女は俺のほうを見てきた。俺は目を逸らさず、「お願い」と呟いた。
その夜――本当に彼女は網谷家にやってきた。
うちの母と夏葉先生の母親は、中学高校の同級生。所謂、幼馴染というやつだ。母は嬉しそうに彼女を迎え入れた。
「まあ、夏葉先生。息子から聞きましたよ。同じクラスなんですってね? よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそ……よろしくお願いします」
軽く会話を交わしたあと、夏葉先生は俺の部屋へと足を運んだ。
「で、話って何?」
床に座った彼女に、俺は迷わず言った。
「小さい頃から好きでした。付き合ってください」
彼女の表情が一瞬固まる。
「……本気?」
「はい、本気です」
「なんで? 私、鬼教師だよ?」
「でも、可愛いからです」
そのとき、部屋のドアが開き、俺の妹――GRT48で活動する香奈が顔を出した。
「今の……聞いてたの?」と俺が言うと、香奈は少し笑ってごまかした。
「香奈ちゃん、アイドル活動、順調ですか?」と香奈に話しかける夏葉先生。
すると香奈は、いたずらっぽくこう言った。
「なら、お兄ちゃん、そういうことだから……夏葉さん。お兄ちゃんのこと、よろしくお願いしますね!」
俺の部屋のドアが閉まる。
「……あのヤロー」
「香奈ちゃんにバレちゃいましたね」
「で……先生、俺と付き合ってくれますか?」
彼女は真剣な表情で、少しだけ俺を見つめたあと――
「このこと、友達とかクラスメイトに喋ったら……ぶん殴るからね」
「お、おう……怖っ。さすが“鬼教師”って言われるだけあるわ……」
「……じゃあ、そういうことで。明日また話すわ」
腕時計を見た彼女は、そう言って部屋を出て行った。
玄関の扉が閉まる音がして――静寂が訪れる。
“少し考えさせてくれ”
それが、あの夜、彼女が残した言葉だった。




