大聖女のオーラ
私と目が合った王子はスッと目を逸らし、うっすらと微笑んでエドガーに尋ねた。
「ところでエドガー、君は今回が初の討伐とか。それなのに、魔獣が怖くなかったのかい?」
「はい、殿下、もちろん恐怖を感じておりました。ですがアイリスが出立前に励ましてくれた言葉を思い出し、きっと傷一つ負わずに帰ることができると信じて戦ったのです」
エドガーは誇らしげに、そして自信を持って答えた。彼の信頼が嬉しくて、私も側で微笑む。
「殿下、エドガーは本当に勇敢でした。元々、腕の立つ男ではありましたが、魔獣に対する恐怖心がどうしても拭えず訓練も倍の期間を費やしていたのです。それなのに、いざ実戦になるとこれほどの働きを見せるとは」
テオドアがエドガーをベタ褒めしてくれている。ありがとう、テオドア。あなたは昔からそうだった。他人の悪口など決して言わない、誠実で優しい人。
「魔獣への攻撃も、全て一撃で仕留めていました。このような戦い方は伝説の騎士リカルド以来ではないでしょうか。リカルドは、鮮やかな剣技で魔獣を倒していたと話に聞きます。エドガーは、彼のような伝説の騎士になる可能性を充分に秘めております」
「ほう……?」
王子の目が妖しく光る。
「氷の騎士と同じ実力と言うのか。それは楽しみだ。いずれ、君の戦い振りを見てみたいものだ」
「有り難きお言葉でございます、殿下。まだまだ、氷の騎士には程遠い若輩者ですが、殿下とテオドア団長の期待に添えられるよう、精進いたします」
頬を染め、引き締まった表情のエドガー。王族に直接褒められるのは滅多にない光栄なことなのだ。
「ところで、アイリス嬢」
突然、王子が私のほうに顔を向ける。
「はい、殿下」
「君の励ましがとても力になったということだが、もしかして君は聖女の力があるのではないかな?」
ドクン、と心臓が跳ねた。王子の顔は笑っているが、目が笑っていない。射抜くような鋭い視線に私は一瞬、うろたえたがすぐに笑みを作って答える。
「いいえ、私には聖女の力などございませんわ。ただただ、真摯にエドガーの無事を祈っていただけですの」
「そうかな。実はテオドアから面白いことを聞いたので、君に興味を持ったのだよ」
(面白いこと……?)
私はエドガーと顔を見合わせた。エドガーも何も聞いていなかったのか、不安げな表情だ。
「いやいや、そんなに怖がらないでくれ、二人とも。年寄りの感傷だと思ってくれていいんだ。実はな、討伐の時、私はエドガーから懐かしいオーラを感じたのだよ」
「私から、ですか? 団長、それはいったいどのようなものなのですか」
エドガーは首を捻っている。オーラだなんて、そんなぼんやりしたことを言われても……というところだろう。一方の私はかなりの冷や汗をかいていた。
(やばいやばい! まさか私のオーラを覚えていたなんて……あれから三十年よ?!)
焦る私の気も知らないでテオドアは目を細め、懐かしむように窓の外の神殿を眺めた。
「オーラというのは、聖女様が身に纏う気配のことだ。ワシがひよっ子の新人騎士だった頃、大聖女アデリン様の護衛を一年間勤めさせて頂いた。アデリン様が亡くなるまでお仕えしていたのだが、その時のアデリン様の温かなオーラ……全てを包み護って下さる、白い光の気配を今も覚えているよ。あれから三十年の時が流れたが、その間一度もそれを感じたことはなかった。その気配が、エドガー、お前から漂っていたのだよ」
「本当ですか? 私には全くわかりませんでしたが。今も感じますか?」
「いや、今は何も。だがあの戦いの場では確かに感じていた。だから、お前やお前の隊が傷一つ負わなかったのもそのオーラのおかげではないかと、殿下に申し上げたのだ」
軽く頷いた王子は再び私の顔をじっと見る。
「エドガーが白いオーラに包まれていたとするならば、君がその加護を与えたと考えるのが道理だと思ったのだがね……今のところ、君からはそれを感じない。どうやら、私の思い違いだったようだ」
私はホッと胸を撫で下ろした。前世を思い出してからというもの、聖女のオーラを消すことだけはいつ何時も忘れないようにしてきたのだ。まさかエドガーに与えた加護から、私のオーラをテオドアに気付かれるとは思っていなかったけれど。




