戦いの約束
そんなはずない。だって二人は嬉しそうに出て行ったもの。生まれた村に帰るって。そう言っていたのに。
「神殿のことを話されては困るということだ。過去を調べていくと、神殿から去ることになった聖女は皆密かに処分されている」
「国のために一生懸命自分の人生を犠牲にしてきた聖女を、用が済んだら簡単に殺すってこと?」
アンドリューは頷く。
「外に出た聖女の産んだ子供がまた聖女だったらどうなる? 聖なる血筋だと国民に崇められるだろう。王族はそれが許せないんだ」
「ひどい……」
「怖いのは王族はそれを当たり前だと思っていることだ。俺がたまたま前世の記憶を持っていただけで、普通に王族として生まれていたら何の疑問も持たなかっただろう」
前世の私はあの神殿での辛い生活を受け入れていた。人々のためと信じて。王族から信頼を受けていると信じて。だからあの時――観月祭のあの夜、私はリカルドの身体を押し戻したのだ。聖女の力を失うわけにはいかないと思ったから。
「ねえ、そうしたら、もしキャスリン様が聖女の力を持っているならどうなるの……?」
「そうだな、大々的に祭り上げるだろうな。王族から聖女が出た、我々は聖なる血筋だと喧伝するに違いない。元々邪険に扱っていたんだ、これ幸いと神殿に閉じ込めて利用し、キャスリンの気持ちなど一切考えないだろう」
それは絶対に許さない。キャスリンから再び笑顔を失くさせることは絶対に。
「アンドリュー。妖精たちに聞いたの。もうすぐ最悪の魔獣が目を覚ますのよ。災厄というその魔獣を私は倒さなくてはならないの」
「災厄……? 何だ、それは? 初めて聞いた」
「遠い昔から何百年かごとに目覚める恐ろしい魔獣よ。そのディザストロが、そろそろ目覚めそうなのよ」
「つまり、我がロラン王国だけでなく、世界中の危機が迫っているということだな? そいつを倒す方法はあるのか」
「妖精の姿を見ることができる聖女ならば、彼らの力を借りることができる。つまり……私よ。この国のため、世界の人々のため、私はやらなくてはいけない。だけど、私は聖女であると世間に名乗り出るつもりはないわ。いいわね?」
「ああ。もう聖女を犠牲にして国を守ろうとは思わない。だがお前一人でどうやって戦う? 剣士が必要だろう。俺のような」
リカルドのような……。確かにそうだ。的確に剣を振るうことのできる剣士が。
「ええ。でもあなた、今は騎士ではなく王子でしょう? 昔のように戦えるの」
「もちろん、今までも鍛えてはいた。しかし所詮は王子の自己満足。騎士団に参加してもっと厳しく鍛えておこう。氷の騎士の名に恥じぬように」
それから、私はエレンから聞いた話をアンドリューに詳しく話した。今、騎士団たちが戦っている魔獣とは比べものにならない強さなのだと。
「ディザストロは全ての魔獣の親なんですって。世界を焼き尽くし、魔獣の卵をたくさん産み落とす。そしてまた何百年の眠りにつくの。だから今回の目覚めでディザストロを倒してそのサイクルを終わりにしたい。エレンたち妖精族が協力してくれるわ」
真剣な顔つきで話を聞いていたアンドリューはおもむろにソファから立ち上がり、私の前に来るとサッと跪いた。そしてじっと顔を見ながら私の手を取る。
「アンドリュー? あなた、王子様なのに私なんかに跪くなんて、何やってるの?」
突然の行動に焦って手を引こうとしたが、アンドリューは私の手を離さなかった。指先から彼の熱が伝わってくる。
「……今世でも、お前に国の安寧を頼ることになって済まない。だが決して、お前を死なせたりしない。俺が必ずお前を守る。そしてこの国も」
前世とはちがう翠の目で、私を見つめるアンドリュー。リカルドよりも線が細く端正な顔立ちだけど、今夜はなぜか二人が重なって見えた。リカルドもあの観月祭の夜、こうして優しく見つめてくれていた気がするのだ。
「……あなたが転生したことも、何かの運命なのかもしれないわね。私たちは魔獣との戦い方を知っている。力を合わせればきっと成し遂げられるわ」
「そうだな。きっと」
アンドリューは私の手を握ったまま微笑んだ。




