氷の騎士
それからの私の生活は単調そのものだった。
毎朝太陽が上る前に紫水晶の前で魔法陣を展開し直す。魔獣が現れて結界に触れ、少し綻びが出る場合があるからだ。
それが終わると、外に出る。朝の間は中庭を散歩することができるのだ。ただし、ドアの両側に控えている護衛騎士に付き添われながら。
「国の宝たる聖女に何かあってはならない」からだそうだけど、息が詰まることこの上ない。
中庭を歩いて戻ってくると、侍女が食事を乗せたトレイを持って待っている。それを受け取り、中に入って一人で食事を取るのだ。食べ終わればドアの外にトレイを出しておく。欲しいもの、例えば本だったり毛糸や布などの趣味の品だったりはその時にメモを挟んでおけば差し入れてもらえる。何の不自由もない生活。自由も無いけど!
そんな日々を過ごしていたある日、護衛騎士としてリカルドが派遣されてきた。護衛騎士は普通、新人騎士が任命されるのに、なぜリカルドが? (この任務は何の危険もないがひどく退屈なので、新人以外は敬遠する者が多いらしい)
「リカルド! 久しぶりね。元気にしてたの?」
「聖女アデリン様、お久しぶりです。あれから辺境に配属され魔獣ではなく人の出入りを見張る部隊におりました。一年、そこで勤務してから異動願いを出し、今回それが叶いました」
「リカルド……ずいぶん他人行儀になっちゃったわね」
「あなたは国を守る大聖女です。私はしがない一騎士。昔のように気安く話し掛けるわけには参りません」
せっかく懐かしい顔に会えたのに、距離を感じて逆に寂しさが増した。昔のように楽しく語り合えたらいいのに……。
それからはいつもリカルドの気配を感じながら過ごした。護衛騎士は六人いて、三交替制。だから夜、外にリカルドが立っている時もあれば昼の時もある。朝の中庭の散歩について来てくれることもある。
だけどいつも騎士がもう一人いるから、リカルドとだけ親しく話すことはできなかった。
リカルドは漆黒の髪に蒼い瞳を持ち、その怜悧な面差しと剣技の鋭さから【氷の騎士】と呼ばれていた。誰よりも戦いに長け、戦うことが好きな人。
(私が結界なんて張らなければ、リカルドは今も魔獣と戦っていたよね……そして私もリカルドと一緒にあちこちを旅して回っていただろう。私が、彼から生きがいを奪ってしまったんだ)
だから、距離を置かれて冷たくされてもしょうがないのかもしれない。
ある夜、誰もいない広い広い部屋の窓を開けて顔を外に出し、下を覗き込んだ。ドアの両側に立つ騎士の、左側がリカルドだ。私は窓枠に頬杖をついて長い間彼を見ていた。
ふと、リカルドが上を向く。暗くて、目が合ったかどうかもわからないけれど……彼の顔はそのまま動きを止めてこちらを向いていた。
(目が合ってるのかな……? こっち、見てるのかな)
私は急に恥ずかしい気持ちになり、窓から顔を引っ込めた。そのまま窓の下の壁に背中を付けてズルズルと座り込み、一晩中そこにそうしていた。これ以上彼を見ていてはいけない。そんな風に思った。




