アンドリュー王子の訪問
「ねえメラニー、やっぱりドレスの準備が先かしら」
結婚の準備はいろいろあるが、なかでも楽しいのはドレスやアクセサリーを揃えることだ。
「そうですねえ。ウエディングもですが、既婚婦人用のドレスもたくさん作っておかなければいけませんね」
「あら。そうだったわ……そうね、可愛いドレスは今しか着られないのね。髪も、結婚したらずっと纏めておかないといけないのよね?」
「そうですとも。少女みたいにふわふわと下ろしていられるのもあと八ヶ月ですよ」
既に結婚して子供もいるメラニーがからかう。いつまでも少女気分ではダメだ、と言いたいのだろう。
プーっと口を尖らせた私は、メラニーに聞きたいことがあったのを思い出した。
「ねえメラニー、その……キスって結婚式で初めてするのよね?」
「そうですねえ、アイリス様の場合はそうなりますかねえ。私たちの身分では式なんて挙げませんからね、先にすることはしてましたよ」
「ええ! そうなの? メラニー!」
「そりゃあそうですよ。他の令嬢方だって、内緒にしてるだけでみなさんなさってますよ。アイリス様が天然記念物並みの乙女なだけです」
知らなかった……七十年も乙女をやってたから、てっきりみんなそうだと思っていたけれど。今の女の子は進んでるの?!
(だったら、我慢しないで先に進んでも良かったのね……そしたら聖女の力だってさっさと失くすことができたのに)
いやいや、きっとエドガーはそんな女の子は嫌いに違いない。手を取るだけで赤くなってしまうんだもの。私は、前世でも傷を癒すためにいろんな人の手を取っていたから、手を握ることだけは慣れているのだ。
(ここまできたら式まで待つ……? いや、もしいい雰囲気になったら流れでキスくらい……)
などと考えていると、ドアがノックされ、執事がうわずった声で私を呼んだ。
「アイリス様! 第二王子殿下がお見えになりました。アイリス様にお会いしたいと」
「へ?!」
思わず変な声が出た。あの王子がなぜ? 嫌な予感はするけど、相手は王族。会わないわけにはいかない。
「わかりました。お父様もお兄様も今いらっしゃらないのよね? 私が応対しますから、客間にお通しして」
それからメラニーに手伝ってもらって急いで支度をし、客間へ向かった。
「お待たせいたしました、アンドリュー殿下」
相変わらず美しい王子は、にこやかに微笑んで待っていた。
「こちらこそ、突然訪れる無礼を許してくれ。もう一度、君に会って確かめたいことがあって」
「確かめたいこと……何でしょうか?」
王子は壁際に控えるメラニーをチラッと見て、コホンと咳払いをした。席を外せ、ということだ。
メラニーはどうしたものか思案していたが、私が頷くと静かに退室して行った。
「実は……」
ゆっくりと近づいてきた王子は、パッと一歩近寄ると同時に懐から短剣を取り出し、剣を持った手を振り上げて私の顔を斬りつけようとした。
「きゃあっ……!」
驚いた私はつい……防御してしまった。手から光が溢れ出し、王子の足が止まる。




