生まれ変わり
「私は、ほら、前世が悲恋だったでしょ? しかも、相手がスペック良かったから。どうしても、ハードル上がっちゃうよねー」
レナが、イチゴ牛乳をチュルッと吸い込んだ。ブレザーの赤いリボンが、動きにあわせて揺れる。
机といすは元通りに部屋に入れられており、3人は定位置に座っている。当然、魔法陣はそのままだ。
「相手が美形魔王様だったら許す」
響の少し低い声が、部室の中に落ちる。
「いや、魔王とかいやだし。イケメンイケボの王様だったんだよね。しかも、結構栄えてる国の」
少し得意気なレナの言葉に、響が手に持ったカフェオレのパックを握りつぶす。
ストローの先からカフェオレが吹き出し、机の上に零れる。
「魔王様第一主義の私としては、それは許せない」
響が頓着しない零れたカフェオレをせっせと拭くのは、華だ。
「ねーねー、響ちゃん。魔王様第一主義の響ちゃん的には、魔王様推しかもしれないけど、レナちゃんが魔王様の相手だったら、響ちゃんのライバルってことにならない?」
華の素朴な疑問だった。
響がメガネをくいっと持ち上げると、首をふる。
「華、いい? 魔王様はハーレムを形成してるから、そのメンバーが一人増えることなんてなんてことない。だって、魔王様は素晴らしいお方なんだ。蝶が群がるのは仕方のないことなんだ」
響の目が、遠くに馳せる。
「ふーん。ハーレムねぇ。ちょっとわかんない世界だなぁ。恋愛とか特になく、結婚するのが規定路線だったしなぁ」
華は首をかしげる。
「そんなにぼんやりしてるから、気がついたら悪役令嬢認定されて処刑されちゃったりするんでしょ! 華はボヤボヤしてちゃダメだよ!」
バン、とレナが机を叩いた。
「でも、前世の話だしねぇ。今は関係ないから」
華はオレンジジュースのパックを持つと、ズルズルと音をたてた後、几帳面にパックを畳む。
レナが首を横にふる。
「だーかーらー、前世の記憶のせいで、私の恋愛対象に対するハードルが上がっちゃって困るって話でしょ?」
「イケメン王様とか美形魔王とか、そんな人、この世界にいる?」
華の素朴な疑問に、レナがため息をついて首を横にふった。
「だよねぇ」
頷いた華が響に視線を向けると、響はまだトリップしたままだった。
「ねえ、私たちが生まれ変わってるんだから、相手も生まれ変わってると思わない?」
レナが、イチゴ牛乳をチュルッと吸い込んだ。ツインテールと赤いリボンが、動きにあわせて揺れる。
「魔王様が、転生されていると?!」
響の少し低い声が、裏返る。その声には、興奮が隠しきれていない。
「だって、私たち、実際に今ここにいるんだよ? あり得ない話じゃないと思うんだよね。……そうすると、グレーン様が私を見付けてくれるってことになるよね?」
レナが両手を組んで、うっとりと告げた。レナの前世のお相手は、『グレーン』という名前の王様らしい。
「そうなると、魔王様も、私を見付けてくださるわけだ!」
響がまた例のごとくカフェオレの紙パックを握りつぶした。
「え? 相手が生まれ変わってるって……また処刑されちゃうの? イヤだよー」
カフェオレをせっせと拭きながら、華がぶるっと身をふるわせた。
「今の日本で簡単に処刑されるわけないでしょ!」
レナが呆れたように華を見る。
「え、だって、あの時だって冤罪で処刑されることになっちゃったんだよ? 今回だって冤罪で……って可能性はあるんじゃないかなー」
華が首を傾げる。
「人間風情が処刑など、おこがましい!」
響が苦々しそうに告げる。完全にカフェオレのパックが潰された。
「えー。だって本当のことだよ?」
また零れたカフェオレをせっせと拭きながら、華が口を尖らす。
響がメガネをくいっと持ち上げると、首をふる。
「何千年と生き永らえた魔王様であれば、いくらでも人間を処刑する権利はあるだろう。だが、高々数十年しか生きぬ人間に、そんな権利があるわけがない!」
「だって、本当なのに」
華の言葉に、響がため息をつく。
「いいか、華。それは不相応なことをしているんだ。だから、きっと処刑などした後に、罰が下ってるはずだ」
ハッハッハッハッ、と響の高笑いが部室に広がる。
「響、うるさい!」
レナが飲み終わったイチゴ牛乳のパックを、響にぶつける。
華がそこから床に落ちたイチゴ牛乳のパックを拾って、ゴミ箱に捨てた。
「あ、華さんきゅー」
レナがお礼を言うと、華が肩をすくめた。
「で、私の王様が転生しているかもしれない件なんだけど」
真面目な顔で、レナが二人の顔を見た。
華は困った顔でレナを見た。
「えーっと、転生しているかどうかは、まだわかんないんじゃないかな?」
華の言葉に、響が、うむ、と顎に手を当てる。
「そうだな。よくよく考えてみれば、私がこの世に生を受けてから16年。もし魔王様がこの世界に転生してきてくださっているのであれば、とっくに見付けてくれているはずだ。だが、未だに探しに来てはくれていない。つまり、魔王様はこの世界に転生していない可能性が高い。よって、レナの相手も、転生していない可能が高い」
レナが首を大きく振る。
「でも、私だけは違うの」
その言葉は、確信に満ちていた。
「なぜ?」
響が半目になる。
「レナちゃんだけ? どうして?」
華が首を傾げる。
「だって、私とグレーン様は、来世では結ばれようって、そう約束したんだから!」
あー、と響が声を漏らした。
「人間とは愚かだな」
響が首を横にふる。
「それって、口約束ってやつだよねー。効果ってある?」
華がまっすぐにレナを見た。
華と響の言葉に、レナが半目になる。
「二人とも、信じるものは救われるってことわざ、知ってる?!」
だが、レナの言葉に、響も華も首を横にふった。
「魔族にとって信じるものは魔王様しかない。他は全て疑うべきものだ!」
響が拳を握りしめて言い切った。
「最後はきっと冤罪がはれるはず、って信じてたけど、処刑されちゃったよ?」
華が小首をかしげた。




