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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第15章【Memorial party】葬礼饗宴
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6 地の神様

(ショーンさん……!)

 彼が会話に応じてくれなくなった。葉っぱも渡してくれないかもしれない。

 ペーター刑事はギリッと歯を食い縛り、自身の制服の左胸ポケットで潰れている葉っぱのことを思った。胸の周りには鉄のワイヤーでできた防具が、磁気の力に屈し、上半身をずっしり締め付けている。

(まずいっす……)

 相手は魔術師……ここにいる誰よりもおそらく強い。ナイフはある。暗器もある。しかし、どれも鉄製だ。唯一鉄ではない飛び道具は【コルク・ショット】。これは銃が厳しく規制されているルドモンド大陸で、警察が持つことを許された唯一の拳銃だ。



 警察拳銃【Cork-shot(コルク・ショット)】。銃身はチタン、銃把はコルクでできており、非常に軽く、表面にはコルクガシ葉の装飾が彫られている。古くは蝋、現在はゴム製の銃弾となっており、弾の中心には真鍮眼鏡の材料である《生命が直接触れると、ルドモンドで最も重い鉱物よりも、重たく感じる物質》が仕込まれている。


 この銃弾が撃ち込まれると、ゴムが裂けて露出し、体内に物質が直接入りこむ。すると瞬く間に強烈な重みを感じ、その場から動けなくなってしまう。重みで苦しむのは弾が当たった本人のみで、他人には元の体重しか感じない。これで安心して捕縛できる寸法だ。ゴム製の銃弾は、鉛や鉄の弾と比べて致死性はかなり下がっているものの、警官は常に相手の脚に打ち込めるよう訓練している。


 ルドモンドに住むほとんどの生物——人や獣を問わず——有効な銃だが、例外はもちろんある。マナ含有量の多い相手には通用しない。アルバの場合、ゴム弾相応の痛みは走るが、肝心の重みを感じることはない。名探偵のシェリンフォード・ホルムは、若い頃に犯人と間違えられ、警官に13発ほどコルクショットを打ち込まれたが……結局体から弾を取り出さないまま、一生涯の勲章とした。 普通は重みに耐えられないため、手術ですぐに摘出される。


(奴にコルクショットは効かない……鉄も無力……あとは……己のコブシっすか)

 ペーター刑事は苦々しく自嘲しながら、地面に顔を擦り付けた。



 そうしてショーンとペーター刑事、両者が諦めようとしていた時、クラウディオと仮面の男に動きが起きた。

「フッ……磁場か……」

 クラウディオは片頬をクイと上げ、地面の砂を革靴の裏でジャリと擦った。仮面の男はグッと腰を落として身構えた。

「貴君は——『磁場の神様』は、いったい誰だと思うかね?」

(磁場の神様?)

 いきなりどうしたと、ショーンとペーターは頭に疑問符を浮かべた。仮面の男も理解できずに、左へ35度首をひねった。


 ルドモンドで神様といえば、一週間の曜日を司る『七曜神』や、生死や願望を司る『大四神』が有名だ。他にも地母神や先祖神はいるが、磁場や磁石の神様というのは、ショーンが知るかぎり存在しない。

「もし磁場神がいるとしたら、思うに大地の神——【マルク・コエン】ではないかと思う」


 一週間のうち地曜日を表す【地の神 マルク・コエン】。土と家と司り、豊穣、貯蓄、守護の神様である。頭のはげた老父であり、腰は曲がり、節くれだった両手には麦の穂を持ち、肩には鳥が止まっている。農民の拠り所である神様で、土地と家を守る守護神でもあり、彼の持つ麦は尽きることなく民の飢えを満たすという。


「磁場は磁石に通じ、磁石は石に通じ、石は大地とともにある。だから磁場の神様は、私はマルク・コエンだと思うのだが、いかがだろうか、貴君」

「…………」

 仮面の男は、頷いたのか、警戒したのか、ほんのわずかに首を下げた。

「大地の神マルクは、我が桃白豚族のあいだでは最も敬うべき存在でね。分かるかね? 豚は豊穣——大地に転がり、よく食べよく肥え——農民の飢えを満たす生き物だ」



 クラウディオ・ドンパルダスはもう一度、地面をジャリッと擦った。

「我らが同胞を表す神が、この場にふさわしい神と同一だとは、何たる幸運」

 彼のマントが風に揺られて捲られ、キュートな豚の尻尾がちらりと見える。

「地父神マルクよ、民を守りたまえ」

 彼は手と手を重ね合わせて、神に祈った。


(——あいつは何をやっているんだ?)

 仮面の男は右に顔をかしげ、ショーンも肩の力が抜ける。

 しばし祈っていたクラウディオが、急に重ねた両手をグッと前に突き出した。彼の両腕は、槍のような形を作っている。腕は豊かな大地、麦の色——まるで大地神マルク・コエンが、両腕に持つ麦の穂の色のように、強い黄色の炎で輝いた。



【神の槍は地をも穿つ! 《グングニル》】



 神の閃光は、仮面の男に向かって、地響きとなって轟いた。


挿絵(By みてみん)

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