5 アルバの弱点
時刻は朝6時40分。霧はまだ明けない。
紅葉は携帯瓶の蓋をちゅぽんと開け、唇を水で湿らせた。
リーダーが休憩ではないと命じたのに、部隊の空気が緩んでる。
命じた当人でさえ、左前方にいる警官と楽しげにお喋りしていた。
この部隊は警官が6人、アルバが2人、囚人が1人。
そして酒場の店員が1人。
誰も信用なんかしない。守るべき相手のショーンでさえ。
『ピー、ガーッ!』
胸につけたトランシーバーが鳴った。
『えーっと…アルバの、ショーン・ターナーです』
紅葉はチッと舌打ちした。電波上で本名なんか名乗っちゃダメだよ。
『ラヴァ州警がアルバへの……つまり呪文を使える人間への、対処法を知らないと訊いたので、今から伝えます』
——そんなの教えていいんだろうか。
紅葉は眉を吊り上げ、遠方にいるクラウディオも同じく顔を曇らせた。
『まず第一に、呪文は、口に出して発声しないと成功しないんです。一番いいのは口を塞ぐこと。これで全ての呪文は使えなくなります』
警官たちは未知の情報に、黙って拝聴していた。
『呪文っていうのは、体の一部、もしくは複数箇所に、マナを集中させて……次に呪文を唱えることで成功します。マナを集中させると、その部位が光ります。ですから、詠唱前に光った所を攻撃したり怪我させれば、その呪文は失敗し、再度同じ呪文も打てなくなります』
警官たちの嬉しそうな表情と真逆に、クラウディオと紅葉の顔はどんどん険しくなっていく。
『複数箇所が光る場合は、どこか一部だけでも攻撃すれば大丈夫。例えば5指の先端が光っている時は、親指だけを怪我させても、呪文は使用できなくなります』
同胞の顔など何も知らないショーン・ターナーの、独演会はしばらく続いた。
『ただ、呪文には色々な種類があるし、使う体の部位も様々です。回復呪文も豊富ですから、攻撃が成功したからといって油断はできません。一番確実なのは、直接呪文を止める口塞ぎです。えーっと、あとは集中力を要するので、例えば目潰しとか金的とかも……』
つらつらと弱点を語り続けたアルバ様は、最後に警官からの質問にいくつか答え『じゃあよろしく……』と最後の挨拶を告げ、ぷつりと切った。
なんだこれは。
紅葉は静かに激怒した。
(いくら【星の魔術大綱】の序章に書かれている内容とはいえ、無線に乗せてベラベラ喋るだなんて)
(どこに裏切り者がいるか分からない)
(この部隊の中に紛れてても全くおかしくない!)
(みすみす自分の弱点を晒すなんて、お人好しなのか、大バカなのか——)
めらめらと燃える炎が彼女の両肩に揺れるようだった。
一方クラウディオも深いため息をつき、ヤレヤレと首を振った。伝わってしまったものは仕方がない……そう言いたげに首をあげた。
そんな苛立つ2人の気配を背中で感じたペーター刑事は、満足げにトランシーバーを切るショーンの横顔を優しく見つめた。