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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第1章【Rat-a-tat】ラタ・タッタ(サウザス町長吊り下げ事件 ①不穏な日常編)
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5 アルバとは

 そもそも【アルバ】とは何か。

 アルバとは帝国魔術師。

 大陸ルドモンドにおける、正式な資格を持った魔術師のことである。

 年に一度、試験が行われ、帝国から合格認定を受けた者だけが、その職を名乗ることができる。

 アルバに必要なものは、知識と慧眼、探究心、そして体内に有する魔力──《マナ》の有無が重要だ。このマナの量が多くなければ、どれほどの研鑽を積んでも、アルバになることはできない。

 ひとたびアルバの資格を得たものは、国中の尊敬を受けられるが、公僕として人民に奉仕せねばならない。

 奉仕内容は、州に報告する必要があり、成果や実績に応じて恩給や予算が受けられる。内容は、学術研究、社会福祉、怪物退治など多岐にわたるが、ショーンは今のところ、生まれ故郷のサウザスで、町民のケガを治す仕事をしていた。


 ケガを治す、つまり【治癒師(ちゆし)】──とても尊い職だ。切り傷、刺し傷、火傷、軽い風邪なら、呪文で治せる。だが重大な傷病はショーンには治せない。事故現場に呼ばれることも度々あったが、切断された脚を泣きながら治療を施したものの、結局うまく繋がらなかった。

 ショーンの両親は、ともに非常に優秀なアルバで、今は研究のため帝都に行ってしまったものの、昔はサウザスで活躍していた。

 彼らは、屋根から落ちてバラバラに砕けた老人のあばら骨を、ものの数日で組み直したり。鉄道に轢かれ四肢が裂かれ、皮だけかろうじて繋がっていた少女の躰を、再び繋ぎ合わせてみたり……ショーンが未だに、どうやったのか見当もつかない治癒呪文を、次から次へとやってのけた。

 そうした超人的偉業を身近で見つづけ、目が肥えてしまった町民にとって、ショーンに対する風当たりは……とりあえず、伏せよう。



「あーもー、掃除しろ掃除しろってうるさいな!」

 雑誌の山に埋もれながら、ショーンは自分のベッドに突っ伏した。

 あれから、顔がスープだらけになってしまったショーンは、食事を切りあげ、下宿のシャワーへと駆けこんだ。リュカは2本目の蜂蜜酒を注文し、紅葉も2回目の舞台へと戻っていった。

 ショーンの部屋は、酒場から最も遠く離れた位置にある。それでも喧騒は聞こえてくるし、太鼓の振動は、巨人の足踏みのように背中へガンガン伝わってくる。おまけに北西の角部屋だから、めちゃくちゃ寒い。国中から尊敬を集める帝国魔術師にあるまじきこの環境も、イライラを増幅させる原因だった。


「もお、やだ!」

 足を再度投げだすと、昼間、紅葉にまき散らされた封筒が、パサリと床に落ちる感触がした。宮廷魔術師の印が押してある。皇帝直属のアルバのみ許される、鮮やかなコバルトブルーの帝印章だ。

 ショーンはそれを拾ってジックリと読みかえし……途中で何度も、長い猿の尻尾で枕をパタパタ叩いた……そして、ようやく意を決して立ちあがり、紙が積まれた文机の奥から、使える羽根ペンとインクを引っぱり出した。

 ドアの向こうでは、本日最後の旋律が奏でられている。紅葉が瞳を閉じ、頰に汗を滲ませながら、バチを振る様子が目に浮かぶ。屈強な鉱山の男たちに向けて、力強い演奏を続ける彼女が、昔、体の四肢がすべてふっ飛んでるなんて、誰も信じやしないだろう。

 町から街灯が消えて深まってゆく夜の中、星ランプの灯りを調整しながら、ショーンは懸命にペンを走らせ、誰かのために返事を綴った。





 ──コッカドゥルドール!

「んーん、寒っ」

 早朝、元気な鶏の声が町のあちこちから聞こえてくる。太鼓の演奏が終わると、すぐに帰って寝てしまう紅葉は、酒場従業員でありながら驚くほど早起きだった。

 井戸から水を汲み、部屋のウォッシュスタンドに注いで顔を洗った。紅葉の住む部屋は、酒場の地下室だ。ジメジメして住み心地が良いとはいえないが、洞穴みたいで気にいっている。顔を洗った残りの水をバケツにあけて、雑巾を絞って床を拭く。ショーンみたいに汚い部屋は信じられない。

「あそこ、掃除しに行った方がいいのかなぁ…」

 お茶の差しいれ程度はまだしも、部屋の掃除をしてやるなんて、さすがに従業員の範囲を超えてる気もするが(ていうか、手伝ったら手伝ったで、怒られそうな気もする。)

「でも……昨日のショーンの様子はおかしかった」

 どんどん部屋も性格も汚くなってるし、友人としてなんとかした方がいいのかな。そう考えながら、掃除を終えて、バケツを持ち、下宿の1階へと階段を上がった。

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