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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第8章【Botticelli】ボティッチェリ
45/332

1 酔っ払いとレモンビール

【Botticelli】ボティッチェリ


[意味]

・ルネサンス時代のイタリアの画家。本名はアレッサンドロ・ディ・マリアーノ・フィリペピ(1445年〜1510年)


[補足]

Botticelliは渾名であり「Botticello(小さな樽)」に由来する。ルネサンス期を代表する画家で、フィリッポ・リッピを師とし、メディチ家に仕えた。代表作は『春』『ビーナスの誕生』、システィーナ礼拝堂の壁画『モーゼの試練』など。写実にとらわれない優美な曲線や文学性を特徴とする。ボッティチェリの表記が主流だが、他にもボッティチェッリ、ボティチェリなどの訳も。





 この物語は銀曜日から始まった。

 火曜日の深夜に事件が起き、地曜日に調査が始まり、今日は水曜日になった。


 ここで、ルドモンド大陸の週制度について説明しよう。

 一週間は7日あり、順に、(きん)(ぎん)()()(みず)(かぜ)森曜日(もりようび)となっている。


 それぞれの曜日には、名前に応じた特徴の神様がついており、ルドモンドの人々は、曜日と神様に合わせた行事や行動を取っている。

 例えば、プロポーズや結婚式は、愛と美の神である銀曜に。家の竣工式や豊穣祭は地曜日に。大掃除や洗濯は水曜日が良しとされ、火曜には運動を、森曜には勉強を。そして旅の出立は風曜日。


 休日も、それぞれ仕事の神に合わせた休みが設けられている。たとえば金曜日は銀行や商店、銀曜日は服屋に美容室、火曜日は鍛冶場や鉱山、水曜日は市場に酒場、森曜日は役場と学校がお休みだ。

 残念ながら週に休みのない職もある。たとえば郵便局や駅は、風の神様を信仰しているが、基本的に休みはない。同様に警察や消防、病院などもシフト制で働いている。新聞社も休みがないが、旅と情報の神である風の神様が祀られている。旅人に決まった休みは不要なのかもしれない。

 このような週と曜日の概念は、ルドモンドのほとんどの地区で通用しているが、一部の少数部族や小さい村では独自習慣を築いているところもある。


 ちなみに、アルバは伝統的に森の神様を信仰しているが、休みなく働く “高貴な” 存在とされているので、ショーンには休みがない。シフト休みも、当然ない。





 3月9日、水曜日(みずようび)のお昼どき。

 サウザスは昨日、事件が起きたとは思えないほど、活気ある町に戻っていた。

 特に役場の前がすごく混んでいる。建物にはまだ入れないけど、職員が玄関先に机を出して、書類の届け出や本の貸し借りを受け付けていた。

 長蛇の列に並ぶ人々に向け、物売りが小さい太鼓を叩きながら周囲を練り歩いている。さらにその周りは野次馬によるヒソヒソ話。中央通りは普段よりもサウザス警察が巡回していた。

 ショーンに大したお土産もなく、アーサーの行方も分からず、紅葉は出版社のガーゴイルの前にうなだれて、道ゆく人の群れをボーッと見ていた。


「けんけんぱ、けんけんぱっ!」

「お姉さーん、棒付きキャンディーはいかが? タフィーもクッキーも何でもあるよ〜」

「あいよーばあちゃん、サウザス駅かい? 了解了解超特急だよ!」

 雑踏の音を聴いていると、だんだん自分がちっぽけな存在に感じてくる。

 向かいの道では、人の良さそうなサウザス警官のおじさんが、街灯の下で酔い潰れた爺さんの介抱していた。

「ジイさん、ここで寝こけるんじゃないよ。家はどこだい?」

「ウボエぇ……っ」

「あーもう吐いちゃったよ参ったな。誰か水を持ってきてくれぇー!」

 そのすぐ傍を、引き締まった体躯のラヴァ州警官たちが早歩きで去っていった。彼らは酔っぱらいの醜態など気にも留めない。全てを疑うような鋭い瞳は、事件の手がかりを必死で掴もうとする顔だった。


 紅葉は一連の光景を見て、心が苦しくなって胸を押さえた。やっぱりこんな……田舎町の小娘の、警察でもアルバでもない素人が、事件を解決しようだなんて……滑稽な夢物語かもしれない。

 昨夜の暗いシャワー室で立てた決意が、太陽の下でぐらぐら揺らぐ。ぎゅっと胸を押さえていたら、グーっとお腹が鳴った。

「……お腹すいた」

 市場へゴハンでも食べに行こう。





 紅葉はとぼとぼ歩き、市場中央のベンチへ向かった。

 市場は水曜休みの店が多いが、簡単な串焼きくらいなら売っている。

 まばらな買い物客の中、とある見慣れた人物がベロンベロンに酔っぱらって、真っ昼間から酒盛りしていた。

「あれ〜もみじじゃぁ〜〜〜ん!」

「………………マドカ?」

 灰耳梟族のマドカ・サイモンが、紅葉に向かって右手をぶん回していた。向かい側にいる部下らしき人物は、げっそりと耳を垂らし、萎びた尻尾がベンチから垂れ下がっている。

「紅葉も座んなよー、おねえさん奢っちゃうよおぉ〜」

「……マドカ、もうお昼だよ。寝なくて大丈夫なの?」

「そうですよマドカさん……」

「ヤダヤダ、あと30ぷん〜〜〜〜!」

 大きなミミヅクの酔っぱらいは、レモンビールの瓶を振り回していた。


挿絵(By みてみん)

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