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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第7章【Ivy Vine】アイヴィー・ヴァイン
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3 長い一日の終わり

 3月8日地曜日(ちようび)、時刻は午後11時を過ぎていた。

 半日ぶりに荷物を戻されたショーンは、サッチェル鞄を肩へ担いだ。

 警察と警備に取り巻かれ、役場の正面玄関の扉から出ると、まばらな野次馬たちの脇から妙に強い視線を感じた。


「──紅葉?」


 見慣れた黒髪が夜風に揺れている。驚いたような、嬉しいような、複雑な黒い瞳をしていた。彼女が唯一普段と違うのは、小さな2本のむき出しの角が、前髪から覗いている事だ。

 出会うはずのない時間と場所で鉢合わせたことに動揺し、ふたりの間に一瞬変な空気が流れた。

「……まさか僕を待ってた?」

「いーっ、違う違う。たまたまだよ……」

「夕方帰ったって聞いたけど、警察に伝えることでもあるのか」

「うっ、ううん! 大丈夫……」

 結局はぐらかされてしまった。

 紅葉がここにいる理由も謎だが、それ以上に彼女の顔色が悪そうだった。角の色も、濁って変な色をしている。こんなに濁った姿を見たのは、ショーンが12歳の時に、学校でアントンに突き飛ばされて、彼女が怒り狂って以来だ。



 軽量馬車キャブリオレが、夜の道にゴトゴトとやってきた。

「警察が用意してくれたんだ。紅葉も乗ってく?」

「うん……馬車なんて何年ぶりだろう、凄いね……」

 いつもの紅葉ならもっとはしゃぐのに、やはり元気がない。馬車に乗っても濁った光が治らなかった。ショーンは自分のターバンを取って、彼女の頭の上にクシャっと乗せた。

「よしっ」

「え、ええっ……」

 紅葉は戸惑い、慌てて取ろうとしていたものの……押し問答の末、ターバンを頭の上に載せたまま酒場へ帰ることとなった。彼女はきっと、ショーンの優しさが染み入ったに違いない。


 馬車は、カポカポと静かに蹄鉄を鳴らし、厳かに目的地へ到着した。

 ふたりは酒場の玄関をチラ見し、勝手口から下宿へ帰った。いつもはこの時間帯でも騒がしいはずだが、今日はかなり静かだった。

「そういえば太鼓隊はどうした。休んだのか?」

「……隊のみんなが来なくて、今日は公演中止」

「ショックで? まあ、そうか……」

「明日は酒場も休みだし、みんな落ち着くといいね」

 明日は水曜日。水の神に休んでいただくために、酒場や喫茶店や市場などが一部を除いて休みになる。酒場ラタ・タッタも、太鼓隊と共にお休みだ。

「はぁ〜っ、僕は明日もきっと役場だ」

 ため息まじりに愚痴ったら、一日の疲れが一気に押し寄せてしまった。

 紅葉が、神妙な顔でシャワーを譲ってくれたので、先に浴びて歯を磨き、すぐ自室へ戻ろうとしたところ……怖い顔をした彼女に引き止められた。



「お茶飲んで、ショーン」

「えー、眠いよ」

「白胡麻茶。疲れが取れるから!」

 焼いた胡麻の香ばしい匂いは、確かにショーンの疲れた体を癒やしてくれたが、それよりベッドで眠りたかった。

「僕もう寝たいんだけど」

「だめ、ちょっと待って!」

 必死の形相の紅葉に、部屋に戻るのを引き止められた。

 今日ショーンの身に何があったか詳しく聞きだされ、その後、紅葉の身に何があったか懇々と聞かされた。重い瞼をなんとか片手で開けながら、傾聴していたショーンは──新聞記者アーサーの推理のくだりに、顎が外れたように口を開けた。


「アルバの力を見るため?……なんだそれ…」

「何か、心当たりは──」

「ない、ないよ!」

 町長が失踪したのかも分からないし、どこにいるのかも不明。

 町長の尻尾が駅に吊るされて、轢かれた理由も不明。

 町長の失踪事件の際、呪文を使って窓を開閉した人物がいる。

 10年前に起きた紅葉の事件と関わっているかも不明。

 新聞記者アーサーは何かの情報を握っているのか、アルバとの関係を口にした。

「…………わけの分からないことが多すぎる……」

「……うん」


 ショーンはようやく紅葉から解放された。

 泥のようにベッドに入り込んだものの、謎がぐるぐる頭の中をめぐり、枕の上で様々な人物が交錯していた。

 自分がアルバとして何をすべきか、何ができるのか混乱したまま、レムの海へ水没していった。

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