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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第24章【Cleanup】クリンナップ
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2 尻尾の役目

 ブライアン・ハリーハウゼン墓所の地下室は、静寂と埃に包まれていた。

 サウザス第55代町長オーガスタス・リッチモンドは、胴体と尻尾を完全に切り離され、気を失っている。

 多量の流血の匂いは、消臭呪文 《パフューム・フレイル》のおかげで何もしなかったが、ユビキタスは苦々しく唇を噛みしめ、奥歯から血を流していた。

『秘宝が無いなら仕方がない……我々はこのまま引き上げよう』

『しかし隊長、そいつがウソをついている可能性は?』

 クレイト商人のリーダーは斧についた血を拭いつつ、しゃがれ声で撤退の意思を告げた。が、諦めきれない部下が声をあげた。

『どうなんだ、ユビキタス』

『フン。スティーブン・ターナーに託したのなら……本当だろう。恐ろしく頭と躰がキレる男だ。羊の慎重さと視野の広さ、猿の狡猾さと俊敏さを合わせ持つ……まさに羊猿族の極致のような…………スーアルバだ!』


 膝を折って床にうずくまったユビキタスは、一瞬だけ小柄な老教師の顔に戻った。

『スティーブン……それにシャーリー! 奴らはある日ひょっこりサウザスを訪れ、いつの間にかこの地に居着いてしまった。私の活動は常にターナー夫妻の脅威にさらされていた。帝都に去った時は安堵したものだ……なのに!……なのに‼︎』

 指示棒を逆さに持ち、柄の部分をオーガスタスの顔や体にぶつけた。町長はぶ厚い唇を青ざめさせ、意識が戻ること無く倒れていた。

 コリンが面倒そうに頬杖をつきながらユビキタスに問う。

『……息子のショーンは何か知っていると思うか?』

『——まさか! 

 何も知らせるワケがない!

 アレこそ羊の臆病さと猿のワガママさを合わせ持つ……

 羊猿族の負を極めた!

 親の栄光でアルバになれただけのおおぉッ

 無能で!……グズな!……ボンボンだああああああ゙あ゙ッッ!!』



 校長はついに怒りに任せて指示棒を折った。

 しかし、防音呪文 《イントレラビリス・バロメッツ》のおかげで、ユビキタスの甲高い絶叫が響くことはなかった。

 折れた棒の先が地下室の天井にぶちあたり、コロコロと転がっている。怒りでフーフーと息を切らす校長の後ろで、クレイト商人とコリン駅長らは、そそくさと地下室から撤退準備を始めていた。

『——こうなった以上、計画変更だ。我々はクレイトに戻らず、いったんコンベイからファンロンへ行く。連絡は例の茶屋によこせ』

『よかろう。そうだ、オーガスタスの体はキミたちが幌馬車で持って帰るかね? 優秀な商人なら死体も売り物にできるだろう、ワハハハ』

 虫食いカボチャでも押しつける農夫のごとく、口髭を揺らしてコリンが笑った。


『……いらん、危険すぎる。サウザスの物はサウザスで処理したまえ』

『では、尻尾だけは私がもらっておくとしよう。貴重な金鰐族の尻尾だ、皮を剥げばかなりの金になるぞ……っと』

 コリン駅長はよっこらせと尻尾を引きずり持ち上げた。彼の脳内では、今夜中に防腐処理して食用箱に入れ、トレモロ行きの貨物列車に乗せる算段を立てていた——が、

『——待ちたまえ、その尻尾には大事な役目がある』

 ユビキタスはスクッと立ち、仲間を制した。灰銀色のローブを優雅に一振りして黒土を払う。

『あと1人、掃除しておきたい人物がいるんだ。エミリオ坊やに働いてもらうぞ』

 星白犀族の校長は、好々爺の顔にもどり、穏やかな笑みを浮かべて告げた。





「——エミリオは黙秘を貫いています。何も喋りません」

 火傷を負い、治療中の彼がいる病室は、穏やかな白い日差しが降り注いでいた。

 大切に甘やかされて育ったコスタンティーノ家の末男坊——彼の両手両足には鉄輪が嵌められ、鎖はベッドの鉄パイプに繋がっており、州警官たちが物々しく見張りをしていた。

「あの、エミリオさん……腰の件ではお気の毒でした」

 ショーンは恐るおそる話しかけてみた。コスタンティーノ家とは過去に何度か対面し、兄弟とも会話した事があるが、ひとりの人間として話しかけるのは初めてだった。

 ベッドに横たわるエミリオは、ショーンの存在など居ないかのように、ガラス窓の向こうにある遠くの空を見つめている。


「町長を恨んでいるのは分かります……でも、アーサーさんは僕の大事な知り合いなんです。貴方がなぜ……殺める必要があったのですか?」

 怯まずショーンは質問した。心を込めて。しかし相手は顔の向きすら変えず、沈黙を貫き、小鳥のさえずりに耳を傾けていた。

「……ユビキタス先生の指示ですか?」

 ピクリと眉が動いた。エミリオは少し開いていた唇を動かし——だが、動いた眉も唇も、閉じるために動かしただけだった。

「お願いします、答えてください……!」

 諦めきれないショーンはしばらく粘っていたが、彼は沈黙の谷へ潜ってしまい、二度と応答することは無くなった。

 諦めて病室を出ると、紅葉がそこに立っていた。


挿絵(By みてみん)


「も——みじ」

「お疲れ様、ショーン」

 サラサラと長い黒髪が揺れる。手にはティーポットを持っていた。

「お茶を淹れて持ってきたの。ショーンの好きな緑山茶だよ」

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