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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第22章【Logistics】ロジスティックス
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4 秘密のマナの増やし方

「ショーーーン! 怪我はない?」

 アルバ御一行は、北側に逃げていた紅葉と運転手らと合流した。

 話し合いの結果、機関士ふたりとクラウディオが現場に残り、機関助手とショーン、紅葉、ペイルマンの4名が、サウザス駅までトロッコで行くことになった。

「まったく……なんて夜なんだ」

 砂犬族の機関助手が、トロッコを動かしながらしょぼくれてボヤいた。

 月が登る中、ポツンとトロッコが線路を走る。

「……そっか、ペイルマンさんと病院に行くのね、頑張って」

「うん……」

「私は酒場に戻るよ。みんな心配してるだろうし……」

「……ん」

 紅葉は、ショーンが単なる疲労ではない元気の無さを、何となく察していたが……いつもより優しめに声を掛ける事しかできなかった。



 マナの数量を伸ばす方法——それは呪文を使うことである。

 【星の魔術大綱】にもそう記載されてるし、魔術学校の授業でもそう教えられている。

 日々マナを計算し、心身ともに集中して、呪文を唱える。

 そうやってコツコツ鍛錬を積むことで、細胞が分裂し活性化され、体内の保有マナも徐々に増えていく。ただし増え方には個人差があり、優秀な魔術師になれるかどうかは、残酷なことに遺伝と運で決まっている。

 逆にマナを減らす方法は簡単だ——呪文を使わないことである。

 使わなくなれば感覚は衰え、保有マナは刻々と減っていく。これは必ず減ってしまう方法であり、いかなる豪運天運の持ち主でも、容赦なく減量してしまう。

 だが下限はあり、減るのは『出生時に保有していたマナ数量』までと実証されている。


 さて、マナ数量を伸ばす方法でもう一つ、公然の秘密の手法がある。

 それは非常に危険なため、古くは【星の魔術大綱】にも記載があったが、わずか数版で削除された。魔術学校でも長らくタブーとされているが、多くの生徒は何がしかのルートで一度は耳にしてしまう。

 マナの数量を伸ばすもう一つの方法——それは【命の危機に晒されること】だ。

 脳内のアドレナリンが出るかのごとく、生きる防衛手段として、保有マナも一瞬にして爆増する。

 場合によっては1年間毎日呪文を唱えて伸びる数量を、ものの1回で得られてしまうほどには恐ろしい効果がある。

 ただし命の危機といっても『不意に晒される』というのが大事で、自ら危険に飛び込む場合は格段に効果が落ちる……が、それでもコツコツと呪文修行をするより遥かに手っとり早かった。

 今よりこの事実が広く知られていた頃は、自ら危険に飛び込む者が後を絶たなかった。

 事前に不意打ちするよう頼んでおく者もいた。

 両親が子供の能力を伸ばすために、暗殺者を雇う者すら存在した。

 当然、一時のマナと引き換えに命まで失くす者は数知れず、この手法は全面的に禁じられる運びとなり、ショーンも学生時代に耳にしていたとはいえ、自ら実践するような馬鹿な真似はしなかった。



(マナが増えてる……)

 ショーンはトロッコの縁をつかみ、ぐっと身をかがめた。

 命の危機——自ら実践しようとした事はなかったが、何度か体感したことはある。

 階段を踏み外した時、馬車に轢かれそうになった時——

 マナが増える量は危機の度合いによって異なるらしく、階段の時は砂糖ひとさじ程度だった。

(かなり増えたな……)

 魔術学校で体験した危機よりは劣るが、それでもかなりの増量を感じる。

 昨日、仮面の男と対峙していた時、圧倒的な敗北感を味わったものの、己の命の危機までは感じなかった。

 魔術師ならではの暗黙の了解、連帯感……命までは互いに奪わないという奇妙な絆が存在していたのだ。

 だがこの種の危険を、まさかあのコリン・ウォーターハウスによって引き起こされるとは……

(……二度と味わいたくないと思っていたのに)


 しかしこの先、乗り越えて行かねばならない。

 町長が見つかれば、護送が終われば、クレイトへ報告すれば……また平穏で退屈な日々に戻ると、心のどこかで思っていた。

 けれど蓋を開けてみれば全然終わってない。

 コリン駅長も、仮面の男も、組織のことも結局何一つ解決できていないのだ。


 “私がショーンの武器になって戦うよ。この手は戦うためにある”


 紅葉はもう覚悟を決めた。

 サウザスの北西門を出発した時、火の神様のような顔をしていた。

 あの時すでに決めていたのだろう。

 ショーンにもついに決断の時がきた。



「僕はアルバだ……サウザスのアルバなんだ!」



 ザーッと走るトロッコの上で、ショーンは強く拳を握った。

 猿の尻尾がピンと張る。月光に反射した羊の頭角が白く光った。

 機関助手は怪訝な顔をして片耳をあげたが、紅葉とペイルマンは静かに彼の決意を見守っていた。

 ショーン・ターナーは、これから故郷と大切な人を守るために旅に出る。

 彼はもうけして目を閉じない。

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