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【星の魔術大綱】 -本格ケモ耳ミステリー冒険小説-  作者: 宝鈴
第2章【Thousas】サウザス 
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6 荷物軽減呪文 《ファルマグド》

 現在、午後2時30分。昼ごはんは皆食べ終わった時間帯。 

 夕飯の買い物客で溢れる市場も、中央広場のベンチは人がまばらだ。誰からも声をかけられる事なく、ショーンはもたもた歩き端っこのベンチに座った。そして重いズタ袋の下で、ペチャンコになったサッチェル鞄から【星の魔術大綱ブレイズ・コンペディウム】を取り出した。

「ハーッ、重い重い重い重い……」

 イライラしながら猿の尻尾を振り、神経質にページをめくって呪文を探した。


挿絵(By みてみん)


「………えーっと……重さを変える呪文だと、んーと」

 一刻も早く、このズタ袋を軽くしたい。

 重量増減ひとつ取っても、物体の材質、密度、天候条件やシチュエーション、生命の有無で、使用呪文は大きく変わる。


 今の状況にふさわしいのは、荷物軽減呪文 《ファルマグド》。


 ショーンがこの呪文を使用するのは、去年、下宿の隣人マドカのチェストを階段から降ろして以来だ。これはマナの量が何より大事で、軽くする重さや時間により、大きく変動するため、計算表の一覧が【星の魔術大綱】に詳しく載っている。

「重さを半分、いや4分の1がいいな……」

 荷物を軽くしすぎても上手くいかない。羽毛ほど軽くなったマドカのチェストは、階段の最後の段で呪文が切れて、悲惨な物体となってしまった。

「時間はだいたい、3時間……するとマナ量が……うーん」

 ショーンはブツブツ呟きながら、書きつけに必要マナ量を計算し……

「上限値は──よし、こうか!」

 数十分後、ようやく下準備が終わった。

 彼は麻袋の前に、両手をぐっと前へ突き出し、呪文を唱えた。



【この荷物をしばし軽やかに運ばせ賜え。 《ファルマグド》】



 フワンと、両手から溢れた灰色の明るい光が、

 ショーンと荷物を、一瞬のうちに包み込んだ。

「……よしっ」

 無事に成功したようだ。

 根菜と青物がわんさと入った麻袋が、鶏の胸肉ほどの重さになった。


 一息ついたところで時間を確認すると、まだ昼の3時前。約束の時間には微妙に早く、このままベンチで休憩しても良かったが……

(……リュカんとこに顔を出すか)

 幼馴染の顔が、ふと思い浮かんだ。

 子供の頃はいつも、お互いの家を行き来していた。

 大人になってからは、ショーンが酒場からなかなか離れられないせいで、リュカの方から、いつも遊びに来てくれる。

 今日はせっかくの休みだし、市場とは目と鼻の先だ。たまには向こうにも顔を出そう。

 露店で買ったレモネードを飲み干し、リュカのいる鍛冶屋へと向かった。





 『鍛冶屋トール』。

 北大通り沿いのど真ん中。市場のすぐ傍という好立地にある。

 市場の北西出口からちょっと出て、北大通りを横断すれば、もうリュカの店へと着いてしまう。アイツが料理が好きで腹部がモリモリ成長したのは、市場の近くに生まれたせいだと、ショーンは個人的に睨んでる。

 今日は火曜日で、火の神様の休養日。北区の店はほとんど休みだ。鍛冶屋トールも例外ではなく、ドアには「closed.」の札が下がっていたが、店の軒下に、子供が2人遊んでいた。

 あれは──リュカの妹フレヤと、弟ボルツだ。

 子供たちは店先の路上に、チョークを引いて遊んでいた。

 白いチョークで描いた丸の上を、ぴょんぴょんジャンプしていた弟ボルツは、ショーンの姿を目ざとく見つけた途端、ニヤッと悪童の顔をし、けたたましい声で指さしてきた。


「うおおおショーンじゃん。めずらしー! ションベンかけてやろうか?」

「うるせえ、チビ」

「あ? やんのかこらぁ!」

「こらボルツ、失礼しないのっ!」

 4歳のボルツは生意気なガキ大将真っ盛り。己のサスペンダーをカウボーイのようにふり回し、ショーンの体にバシバシぶつけてくる。

 暴れるボルツを何とか右脚で抑えながら、妹フレヤに声をかけた。

「リュ……痛てて、お兄さん中にいる?」

「ええ、もちろん。2階のキッチンにいるわよ。鍵を開けてあげるから、お好きにどうぞ」

 7歳のフレヤは歳のわりにシッカリ者だ。水色のたっぷりしたプリーツスカートを揺らしながら、玄関の鍵をガチャリと開けてくれた。

 ボルツの体を引っぺがし、澄ましたフレヤに促され、ショーンは鍛冶屋トールの扉を開けた。

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