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見過ごされた街・3

新書「見過ごされた街」3


墓地は爆発は起きたが、何も出ずに終わった。


怪我をした開拓民の男性は、仲間の家に行って帰宅途中に、「事故」にあった。通りがかった墓地で不審な物(何かちかちかと光る物)を見掛け、確認のため近づいた。タイミング悪く、その光り物は爆発し、吹き飛んだ物で怪我をした。

爆薬は、農村でモンスター避けに使う物で、火薬を増量して細工してあった。撹乱以外の用途はなかったようだ。仕掛けたのは、ソーガスではなく、「仲間」だろう。彼と共に、開拓民が二人、いなくなっていた。中年の夫婦者で、特に目立った所はなかった、という話だ。


ソーガスの裏切りは、特にオネストスにショックを与えた。彼は友人の立場だったのだから、無理はない。シェードもショックを受けていたが、レイーラは落ち着いて見えた。

「ベルシレーの直ぐ後で、殿下とお話ししたの。『ごく近くに、確実に一人いる。』って。ソーガスさんかどうかは、確実でなかったようだけど。」

俺がグラナドから聞いたのは、ここに来る直前だった。ソーガスに見た目(グラナドの特別な目で見て)からの不審点は感じていなかったが、彼が重要な敵のピースと考えると、簡単になる話が多い、と思ったのが、疑惑の始りだった。

例えば、ピゥファウムの死亡時の騒動だ。彼は一人で面会していたソーガスの隙をついて剣を奪い、逃亡した。魔封環が残っていたので、ピゥファウムは転送は使えず、追い詰められて薬を飲んだ。魔力を一時的に強化する薬、と言われていたのだろう。転送魔法で逃げる気だったと思う。しかし、薬の効果は、暗魔法を付加してモンスター化してしまうものだった。追いかけたソーガスが中心となり、ピゥファウムは殺された。

薬を渡して騙し、わざと剣を奪わせ、逃がす。モンスター化させて、合法的に始末する。本当に逃がすつもりだったかも知れないが、ピゥファウムの性格上、裁判で堂々と迷いなくぶちまける可能性が高い。

今回、自分の逃亡にはまんまと成功した手際からすると、逃がす気はなかったと見る方が無理がないが。


今回はラッシル側でコーデラの神聖騎士が騒動を起こしたことになる。ラッシル側はクミィの遺体を、証拠「物件」として押さえたがった。しかし、シェード達は、一刻も早く、故郷に埋葬したがった。結局は、「土葬にすること」「要請があれば再調査に応じること」を条件に、海賊島に移送された。シェード、レイーラ、タラも、葬儀のために向かった。俺はオネストスと、しばらく現場に残った。最終的にコーデラからは、神官長のリスリーヌと、ライテッタ大隊長の隊がやってきた。ライテッタは、以前、土のエレメントの時に、ガディオス、アリョンシャ、クロイテスを率いて、この地で共に戦った。その前はニルハン遺跡でも協力しているが、本来なら引退の年だった。ヘイヤントで教官をしていたが、クーデター時に王都勤務だった、騎士の息子を亡くし、現役に復帰した。彼は、今の俺と会うのは始めてだったが、やはり懐かしそうに目を細めた。


ラッシル大使のリュイセント伯爵も、皇都から駆け付けてくる予定だ。ラッシルに呼び出されているカオスト公爵は、ベルシレーの件で帰還する所を、まだ皇都に留め置かれた。

俺はレイーラの護衛に同行したかったのだが、リスリーヌ到着まで待機した。グラナドには通信で報告したが、

≪レイーラには、最強の護衛を送るから、安心しろ。≫

と言われた。


ミルファもシェードと同様、かなりショックを受けていたそうだ。カッシーは出発にあたり、グラナドに、

「ソーガスは大丈夫かしら。」

と言ってきたらしい。彼女の目から見ると、疑わしかったのだろう。

ファイスは驚いていたようだが、ショックは別に受けていないようだ。彼には、俺たちが出たあと、疑惑を話したそうだから、それもあるだろう。

意外なのはハバンロで、

≪少し驚きましたが、よく考えてみれば、納得はできますな。≫

という意見だった。彼とは、通信時に話す機会があったのだが、

≪にこやかにしている時でも、何となくですが、妙に殺気を感じることがありました。格闘技の試合であれば、フェイントから背後を狙ってくるタイプですな。≫

と語った。

俺はこの裏切りについては、何も事前情報なく(もう慣れたが)、グラナドから聞かされた話だけだった。彼も物理的な証拠があるわけではない。動機も不明だ。解明する必然性はないが、彼は経歴からしても、カオストに着くはずは、まず無いと思っていた。彼の故郷のキャビク島は、今はカオストの管理だが、以前はテスパン伯の領地だった。コーデラ系とラッシル系の他、主流を占める最北系の住民の対立が以前からあり、そこにテスパン派やカオスト派、地元派や王国派が複雑さを添えていた。

王都のクーデター時に、呼応してテスパン派が暴動を起こし、ソーガスの両親、妻子は死亡した。テスパンの背後にカオストがいたなら、彼にとっては、「仇」になる側に、手を貸している事になる。

≪それは聞いてみたいが、今は考えても仕方がない。≫

とグラナドは言っていた。

≪堂々と騒ぎを起こして逃亡してくれたせいで、追求しやすくなった。カオスト公との関与について明言した訳じゃないが、王都の彼の部屋から、一瓶だが、ピゥファウムに使ったのと同じ薬が見つかった。

彼がクミィに使った香の成分も、詳しくはこれから調べるが、爆発物には手がかりがありそうだ。≫

カオスト公がラッシルにいるのは、「ギョロ目の殺人鬼」クラマーロ・クラマールが、故郷であるタルコース領から逃亡中に、カオスト領で偽名で市民権を取り、それからラッシルに移民した件についての釈明のためだ。そのクラマールが被害者の足を止めるために使った火薬が、ソーガスが逃亡する時に使った火薬と同じらしい。農村でモンスター避けに使われるタイプを改造したもので、最北地域でも使用されている。キャビク島でもだ。ソーガスが農村出身かどうか確認してないが、グラナドは、同じものを使った、として、追求の切り口を見つけるつもりだ。


俺はリスリーヌ達が来たので、レイーラ達の後を追い、ロサマリナに行く予定でいた。オネストスは、王都に戻る。しかし、前日の晩、グラナドから連絡があり、

「予定を変更して早く王都に戻るから、途中、アルメルで合流する。オネストスにも伝えてくれ。」

と言われた。

借りている宿は、市庁舎の真横だった。市庁舎内部に貴賓室があり、最初はそちらに泊まっていたが、リスリーヌ達が来るので、譲った。俺の部屋は二階、オネストスは三階だった。通信は市庁舎で行い、宿に戻った俺は、そのままオネストスの部屋に行った。しかし、ノックに返事がない。就寝には早い。騎士団に友人でもいて、会いに行ってるかもしれない。どうしたものかと思っていると、通りがかったメイドが、

「騎士の方なら、さっき屋上に上がって行きましたよ。」

と言った。礼を言い、屋上に追いかける。

屋上で彼は直ぐ見つかった。非常灯のため、意外に明るかったのもあるが、他に人はいないからだ。

夜空は月も星もあるが、まばらな雲が流れ、見えたり隠れたりを繰り返している。俺はオネストスに近づいて、声をかけた。

彼は、びくりとして振り向き、慌てて、袖で目元を拭った。

こっそり泣いている所に出くわしてしまった訳か。要件だけ伝えて、気付かないふりで立ち去ろうと思ったが、

「すいません。みっともない所を。」

と、向こうから言ってきた。ホプラスなら、大丈夫か、ハンカチでも差し出す所だな、と思いながら、

「無理もないと思うよ。俺が君の立場でも。」

と言った。オネストスは少し驚いて、

「貴方がですか?」

と言い、直ぐに、

「すいません。失礼な事を…。」

と添えた。オネストスには、俺の事は話していないはずだが、グラナドが話したのだろうか。と、思っていると、

「貴方の、魔法剣。今までで一番、完璧な魔法剣は、クロイテス団長の物でした。だけど、貴方の魔法剣を見た時、基礎だけでも、次元が違う、と思ってしまった。

あれだけの物を持ってる人なら、悩んだり弱音を吐いたりしない、勝手に思ってました。」

と言った。

少々、居心地の悪い称賛だった。俺の魔法剣は、元はホプラスの技だが、彼が築いた物を、付加・強化したものだ。人間離れしているのは当然だった。クロイテスに言われた時も、同様の物を感じた。

面食らった様子を感じたのか、オネストスは、

「ところで、俺に何か用があったんじゃないですか?」

と話題を変えてきた。忘れる所だったが、明日の話を伝える。彼は少し意外そうな顔をしたが、了解したので、

「あまり遅くならないようにね。」

と言ってから、俺は自分の部屋に戻った。


翌日は、一足早く目が覚めた。オネストスは俺より早かったらしく、ライテッタの部下の騎士達と、屋上で軽く手合わせをしていたようだ。

朝食後、転送装置の前で、シェード達を待った。そういえば、派遣されたレイーラの護衛が誰か聞いていないな、と、リスリーヌに訪ねて見たが、彼女も知らなかった。ライテッタも、

「強力な魔法官と、精鋭を付ける、と伺っていましたが。一般市民の葬儀なので、騎士団から部隊は出さない、ということでしたから、魔法官のみではありませんか?」

と答えた。

まさかミザリウスかヘドレンチナ、と思っていると、転送装置が動き、中の人物が、形をはっきり現した。そこにいたのは、

「グラナド!」

思わず叫んだ。グラナドだった。シェード、レイーラばかりか、ミルファ、ハバンロ、カッシーとファイス。

確かに騎士以外の精鋭部隊、最強の魔法使いには違いない。しかし、すでに一人のギルドメンバーではなく、第一王位継承者だ。驚き呆れていると、

「何だ、嬉しくないのか。お前が寂しいだろうと、会いに来たのに。」

と、軽口を叩く。

「それは、嬉しいけど…。」

と言ってしまってから、急に恥ずかしくなり、慌てて、

「アリョンシャ、アリョンシャは、一緒じゃないのか。」

とごまかした。

「彼まで動くと、ばれるだろ。…ああ、陛下に許可は取ってある。向こうで、確認したい事があったからな。」

グラナドは、前のリンスク伯が、地下洞窟で完全に死んでいるか、確認したかったそうだ。

元々、死んでいたのだが、ここで起きた話を聞いて、万が一を警戒した。結果は、心配はまったく無いことがわかった。

さらにグラナドは、ここの遺跡、幻影の森の、古い城を調べたい、と言った。言うはしから、バルトゥスが、慌てて駆けつけてきた。誰かグラナドの事を知らせたのか、と思ったが、

彼には直前に、遺跡を見に行く、と知らせていたらしい。

昔と違い、森を歩いて抜けず、転送装置で直ぐだ。

グラナドは、オネストスに、レイーラとシェードを頼み、先に王都に返し、残りのパーティとリスリーヌで、遺跡に向かうつもりだった。だが、シェードもレイーラも、自分達も行く、と言った。なので、オネストスだけ、陛下への手紙を言付けて戻そうとした。だが、バルトゥスが、

「遺跡の廃墟は、長く封鎖していたので、明かりがありません。その騎士の方が火魔法なら、多いほうがよいと思います。」

と言ったため、同行することになった。

ライテッタも同行するが、他に、風魔法のフェネル、火魔法のバルカーという騎士を選んだ。二人とも、五年前、タルコースのいた廃墟、旧アルメル邸が、完全に取り壊しで更地になる時、立ち会いの隊にいた、ということだ。このあたりは、古い建物は廃墟になっても、改めて取り壊したりはしないらしい。誰か旅人でも、使うなら適当に、というのが、ラッシルの田舎らしさなのだが、新しい法律ができて、管理の出来ない建物は解体、ということになった。残しておくと、経緯からして、役人や魔法官を置いて監視観察を継続しないといけないが、事件以来、エレメント変動に異常もないので、これ以上、余計な予算をかけたくなかった

そうだ。

遺跡のほうは、歴史的な価値があるので、残された。

俺達は、予定より大人数(グラナド談)で、遺跡に向かった。

結論から言えば、グラナドが気にしていた、エレメント関連の隠し施設のような物はなかった。しかし、扉は鍵が壊されており、内部と入口近くの外にはには、夜営した跡が見つかった。

「ここを『集会所』にしていたみたいだな。」

とグラナドが言った。ミルファが、探知魔法で、魔法弾の箱が、いい加減に地面に埋められているのを見つけた。

「私の銃じゃ、使えないタイプだわ。撃つと、四方に魔法が飛び散るようになってるの。」

彼女の言葉に、ハバンロが、

「散弾銃、という奴ですかな。確か、飛距離はあまり出ないはずです。市長の家で、見たことが一度あります。」

と答えた。カッシーが

「専用銃がいるのね。見当たらないなら、持って逃げたのかもね。何か手がかりになるかも。」

と言った。レイーラが、

「じゃあ、やっぱり、あの鐘を合図に、逃げ出したのかしら

。」

と、シェードに、

「ねえ、貴方も…。」

と話しかけたが、返事はない。レイーラの側にいると思ったシェードは、少し離れた所で、遺跡の壁を眺めていた。

バルカーが広く照す中、壁の絵が見える。童画のような描写で、森と城(この遺跡らしい)が描かれ、森の上に、長髪の女性が立っている。文字もあるが、簡単には判別しがたい。

俺が声をかけた時、シェードはしばらく気づかなかったが、バルカーに促され、振り向いた。

「ああ、ごめん。」

と、少し虚ろな声をしていた。

髪の長い壁画の図像に、何を見ていたかわかってしまった。

かける声を考えていた時、

「止めろ!」

と大声が聞こえた。


途端に、重い扉が閉ざされた。



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