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シレーヌの庭・6

新書「シレーヌの庭」6


ルヴァンを初め、マントの団体は、一人しか生きて捕まらなかった。灰色マントと銀マントは消えてしまった。一味の唯一の女性は死亡。継ぎ当てマントは生き残った。


銀マントは、王都のラエル家の屋敷に出入りしていた、食料品店の末息子だった。が、姉妹は覚えていなかった。彼のことは、ユシーロが覚えていた。姉妹とは、マルケスと同様、長い友人で、彼がヘイヤントで勉強していた時に、たまに招かれたラエルの屋敷で、銀マントを見かけた。たまにしか会わないにも関わらず、なんだか、嫌な感じの男だと感じた、という。

「人をじとっと眺める癖があって、それが嫌な目付きでした。方向音痴らしかったのですが、迷って奥に入り込んで、宝飾室や主寝室の 回りをうろついて、何度注意しても改まらない、と言うことで、伯爵が出入り禁止にしました。仮に悪気はなくても、お嬢様が二人いる家ですから。

両親や、他の兄弟は問題なく、むしろ評判のよい店だったのですが。」

何の邪心も無く、女性の寝室回りをうろつく男はいない。後の行動からして、彼が最後にバーベナを捕らえたのは、その執着の証明だ。


一方、彼女逹が「知り合い」と認識したのは、継ぎ当ての青年だった。

彼はもともとは、カールラルトの小姓で、主人が家出した後は、実家のラエルの商家に戻っていた。高級な毛皮商人だった。ラエル領の屋敷には、父親の用事のある時に、ついでに出入りしていたので、姉妹と面識があった。それから北クシウスの寄宿学校に行ったが、街でカールラルトに再会し、そのまま抜け出してついてきた。なので、この二週間程度しか、行動を共にしていない。

彼は、主人が、「歴史的な魔法の研究」をしている、と聞かされていた。改めて考えると、様子が変だった、と納得したが、脅しても透かしても、大した物は出てこなかった。彼は十代だったが、カールラルトがやろうとした事について、全くの無知ではなかったわけだから、

「悪いこととは思わなかった」

では通らない。しかし、ラエル家の弁護士は、伯爵の意向で、彼を訴えたがらず、カールラルトを病死にしたがった。バーベナが婿を取って伯爵家を継ぎ、ガーベラがレオニードと結婚してオーロフ家に入るから、と、醜聞を避けたがった。それを通すなら、継ぎ当ての罪は問えない。結果、無罪放免にはならないが、監督官の定期訪問と要観察、外出制限を条件に、親元に返された。

俺は、この件には、ピゥファウムの時に、グラナドが取った態度を思いだし、釈然としなかった。反逆罪で騒然として、反グラナド勢力が便乗するのを避けたかったのだとは思う。もちろん、ラエルの姉妹の今後を考えると、ロサヴィアンにまた材料を提供するのは憚られたが。


ラエルの姉妹は、意識がなかったが、バーベナは、ファランダが浄化したら、直ぐに気がついた。もともと、岬に来る直前まで、病室にいたことを思えば、早い回復だろう。

彼女から、カールラルトとバージナの話を、再度聞いた。

二人は、年も近いし、表向きはバージナは養女なので、実は腹違いの兄妹、と言う話は、二人が十三、四位の年に聞いたそうだ。それまでに、お互い、初恋の対象になってしまったのだろう、とバーベナは言った。

十五の時に、兄は父について王都暮らし、姉は領地に留まった。兄は、都会に出てから、派手に「遊ぶ」ようになった。一方、バージナは、地元の地主の青年との、婚約話が持ち上がっていた。その後、兄も別の女性と婚約したが、そこに、ロサヴィアンの、「意地悪な」記事だ。

「兄は、出ていく前、領地に戻り、姉に、『一緒に逃げてくれ』と言いました。ガーベラは知りませんが、私は、二人の会話を聞いてしまいました。でも姉は断っていました。ですが、私は、『二人が一緒に』出ていくつもりらしい、と、父に言ってしまいました。父は、記事は嘘八百だと、正面から訴訟する気でしたから、たいそう驚き、二人に、特に姉に失望しました。そして、姉を『切り捨てる』ことにしました。兄のほうが積極的だったので、これは意外です。

姉は、おとなしい人でした。内気すぎる、と言ってもいいくらいです。私たちとちがい、庶民の娘として教育されていたので、家事は得意で、看護の資格も持っていました。容姿は、正反対に、派手な印象でした。

ガーベラはわかりませんが、私は、なんとなく苦手でした。こう言っては何ですが、美貌のわりに謙虚すぎて、それが、なんだか、卑屈な感じがして。父と祖母が、貴族の娘としての自尊心を育てなかったのは、結婚相手が一般の人になるからだろう、と考えての事だと思います。

姉が自殺を計り、兄が出ていく少し前でしたが、私とガーベラは、叔母のウェリラ男爵夫人の「計らい」で、神官にされる所でした。

夫人は、自分と懇意な、ナデレーン伯爵の姪の、上か下のどちらかのお嬢様と、兄を婚約させたかったのです。

それは、姉の事がある前、兄が最初の婚約をする直前にも出た話でしたが、兄がひどく嫌がりました。兄は相手に美貌を一番重視していたからです。父もナデレーン家とはあまり仲良くなかったので、叔母の意見は一蹴されました。

ですが、事件の後、兄の婚約者だった女性の家からは、婚約は解消したいと言われていました。もう、家柄も財産も、美貌もある未婚の若い女性とは縁付かないだろう、このため、父は、兄が嫌がっても、地位と財産のあるナデレーン家から、婚約者を強引に選ぶつもりでした。『腹違いの姉妹』は、今後のためにも、遠ざけたかったのだと思います。

でも、私は水魔法の力が邪魔して、妹は、魔法結晶との相性がとても悪く、叶いませんでした。

私は、自分の感情から、『濡れ衣』を着せてしまった姉に、償うつもりで、神官になろうと考えていました。不遜なものだったと思います。」

バーベナは淡々と、泣きもせずに語った。


ガーベラは、目覚めてすぐは、パニックを起こした。だが、傍らのレオニードの姿を見て、落ち着き、改めて泣き出した。発見された時の様子を考えて、彼女の話は、ファランダが聞き出した。メイド二人には、カッシーが話を聞いていて、後で合わせた。

カールラルトは、壺にバージナの魂が入っている、と信じていた。バージナはモンスター用のガスを吸って、森の湖で自殺を図ったのだが、

「シレーヌ族の女には、水死した者に対する霊媒能力がある。」

という言い伝えを信じて、シレーヌの伝説のあるベルシレーにやってきた。ラエルの別荘のある土地で、シレーヌにまつわる話は、昔からよく知っていたため、儀式の場所に足留めを選んだ。レイーラがベルシレーに来たのは偶然だが、カールラルトは「運命」と思った。しかし、捕まえ損なった。それで、血縁者で代用することにした。


カールラルトは、ガーベラ相手に、とうとうと語ったそうだ。


ガーベラは、最初より濃いガスを浴びて気絶した。そこから助け出されるまで記憶にないが、覚えている範囲を話す間に、何度も泣き、嘔吐することもあった。


カールラルトは、「魂」を取り出すために、「術者」に大金を払った、とガーベラに言っていた。ガーベラは、

「昔と違うって分かってるのに、お兄様はどうしてなの?!お陰で、私やバーベナが、しなくていい苦労をするのよ。」

と気丈に言い返した。カールラルトは、

「ラエル家には関係ない金だ。」

と答えていた。

伯爵は長男の結婚と同時に家督を譲るつもりで、カールラルトが自由に出来る資産をある程度増やしていた。全部使い込んだとしても、伯爵家が破産するわけではない額だが、それらは、家出する時に、持ち出していた。また、昔から宝石コレクターとして有名なラエル家は、他の貴族より、金のかかる生活をしていた。男爵家だった時のほうが、まだ余裕があった。継いだオーダ伯爵領は管理に費用がかかるわりに、収入が上がらない土地で、差額は旧男爵領の分から補填していた。そこに、資産の一部を、兄が持ち出した、訳だ。

ガーベラは金の計算はしたことがないため(貴族の令嬢は大抵はそうだが)、叔母に促されて神官になろうとしたり、カオストに示唆されて王子の花嫁の座を狙ったりしたのは、そういう背景があった。

グラナドは、女王に相談し、ラッシル滞在中のカオスト公爵に問い質すべく、一刻も早い帰還を要請した。彼が後見していたラエル姉妹と、その兄の話だからだ。事件をありのままに伝え、事後を性急に整える必要があるから、と説明した。特に、カールラルトの活動資金の事は、重要な問題だった。


宝石に仕込まれたガスは、暗魔法との相性を計る試薬らしいが、これは『バージナの魂』が偽物だったと考えるなら、怪しい。ガーベラとメイド二人は、テストに受かったが、カールラルトの期待した効果は現れなかったからだ。


ガーベラについては、王都に戻った後、暗魔法の資質をチェックするために、魔法院でしばらく預かる、という話が出ていた。ミルファが、この事に大して、少し反対意見を述べた。彼女は、子供の頃、王宮の園遊会で遊んでいた時に、レオニードの母のオーロフ伯爵夫人から、

「王宮は、本来は、貴女のような子供がいて良い所ではないのよ。」

と言われた事があった。自分が、立ち入り禁止の場所に入ったのだと思い、後でルーミにその話をして、謝った。ルーミは、話を聞いて、

「あの夫人は、珍しいものや、変わったもの、外国人が嫌いなんだ。今度から、言われたら、直ぐに私に言いなさい。」

と言った。

ラールは、

「ああいう人は、どこにでもいるわ。いちいち反応してたら、切りがない。無視が一番よ。下手に刺激して、持論の大演説でもされたら、その方が問題だわ。」

と言ったそうだが、ルーミは、

「君たちは、正式に俺が招いているんだし、子供が一人になった時を狙って言うのは、質が悪い。」

と言い、ミルファには、

「気にしなくていいからね。」

と、笑顔を向けた。

ミルファは、その時の事を話し、

「ガーベラが暗魔法の資質を持ってる、となったら、その事で、前より、反対しそうだわ。ちょっとでも変わったものが、許せない人なんでしょ。」

と言った。カッシーが、

「それって、結局は、『自分とは違うもの』だものねえ。自分が若返って、息子の花嫁になるんでもなければ、必ず文句は言うわよ。」

と言った。ハバンロがこれを聞いて、

「若返っても、親子間の婚姻など、教会が許可をするはずがありません。実の兄妹にしても同じです。弟のラペニョが、『お母さんと結婚する』と言い出した事がありましたが、母は、『お母さんは、お父さんと結婚しているから、ごめんね。』と、ちゃんと説明していました。ラエル伯爵は、どうやって教えていたんでしょう。呆れますな。」

と真面目に述べた。

少なくとも、バージナのほうは真相を知ったら断っていたし、伯爵も、対応は悪かったが、肯定はしていなかった。田舎の貴族が子弟を都会に出したがるのは、こういう問題を避けるためだ、と言われているが、兄妹ということを伏せて、兄妹のように仲良くさせていれば、都会だろうが田舎だろうが、間違いの種が育つ事もある。


王都に帰還するとすぐ、ソーガスは任を解かれた。賞罰ではなく、入院のためだった。いわゆる「火事場の馬鹿力」で、オネストスを助けるために、使えなかった転送魔法を使った反動が心配だったからだ。

「実は、養成所に入りたての時は、話にならないレベルではありましたが、使える事は使えました。ですが、回復を取得するに従って、だんだん使えなくなりました。教官からも、『君はそういう魔法バランスだから、無理して転送を使うより、必須科目の回復を重視しよう。』と言われました。最近、回復を使ってないので、そのためかもしれません。」

まさか使えるなんて、と、本人も驚いていた。その割りに、懸念された反動等は無く、二日で退院できた。

ベクトアルは同じ病院で今も入院中だ。ずっと意識が戻らない。デュオニソス、グランス、サリンシャは、怪我も完治して、すぐ任務に戻った。

ソーガスは、このベクトアルの件の責任と、バーベナを助けるためとはいえ、現場の指揮を任されたのに、『放棄』したことになってしまう事から、辞任を申し出たのだが、グラナドは

「働いて返せ。」

と一蹴した。王都の騎士団宿舎で、療養も兼ねて、しばらく休ませる目的で、「謹慎」とした。

護衛隊長には、アリョンシャがつくことになった。ソーガスの復帰までだと思うが、

「よろしくね。」

という、若々しい挨拶で、グランス達に直ぐに馴染んでいた。


イシアとベルシレーを巡る前、王都に王子が落ち着いたのだから、旅納めだろう、と思った。


しかし、今度は春も進み、ホプラスの好きな紅垂れが王都を彩るころ、今ひとたびの旅程を進む事になった。



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