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シレーヌの庭・1

人魚伝説の残る、美しい海岸地帯のベルシレー。

一行は護衛のソーガス隊と共に、未知の魔法体系の調査に向かう。

そこで、シレーヌの力を付け狙う一派に会う、

新書「シレーヌの庭」1


舞踏会の直ぐ後、

「ようやく『御披露目』が終わった。」

とグラナドが茶化して言った。


オリガライトや、暗殺未遂やら、未解決の問題は沢山あるが、王子が都に帰り、旅は一段落した。俺は計画の完遂があるが、普通はパーティー解散のタイミングだ。

が、みな、それぞれの理由で、グラナドの側に留まる事になった。


ミルファは、「魔法院留学」で残った。実際、狩人族の地で起きた事は、彼女の魔力に変化をもたらした。今まで、魔法があまり得意でない事から、基本的な魔法技術しか履修していなかった。が、この先は、もっと高度な技術も覚えないといけない。属性が土ということもあり、火と土のヘドレンチナが指導する事になった。魔法院の副院長である彼女は、上級者以外に直接教える事はまれだ。特殊ケースという以外に、ミルファの「立場」を考慮しての事だった。

カッシーは、 ミルファがラッシルから連れてきた侍女、という設定で、あちこち付き添っては、情報を集めて回った。意外な事に、恐らくタイプが合うまいと見ていた、ヘドレンチナやシスカーシアとも、直ぐに親しくなっていた。


俺とファイスは正式に、ハバンロとシェードは非公式に、グラナドの護衛になった。ハバンロに関してはともかく、シェードは、半ば無理矢理に、グラナドが決めてしまった。レイーラが、王都で再び、リスリーヌの元で学ぶ事になり、彼はそれを受けて「大人の決意」をした。一人でロサマリナに帰ろうとしたのだ。それをグラナドが止めた。

「今帰っても、 メドラに呆れられるだけだろ。『一人前』になったのか?」

と言って。一見辛辣だが、グラナドは、シェードの能力は評価していた。

レイーラは、リスリーヌの元で 学ぶとはいえ、神官に復帰はしなかった。神官から転身する者のために、魔法医師や民間聖職者になるクラスがあるので、そこに入る。

本人は、何だか思い詰めていて、上級への道を取りたがっていたようだった。(はっきりと聞いたわけではないが。)

しかし、彼女は、魔法結晶との相性が、上級神官になるには低かった。結晶は、何年かに分けて口から取り入れて体内にため、神殿地下の魔法結晶に触れ、貯めた物を育てる。この最初の段階で、うまく結晶が育たない、定着しないで効果が消えてしまう体質の者は、弾かれる。

この方法は、人を選ぶし、効率は良くないが、安全な方法である。遥かな大昔は、胸に結晶を埋め込んだり、大量の結晶を一度に飲んだりした。それだと、相性が低くても、短時間で強い力を得られるが、事故率が高かったので、今では禁止だ。

リスリーヌも、、レイーラには、上級への道は勧めなかった。彼女個人の意見ではなく、今では、二十代のうちは、一部の例外(神官長の未来が決まっている、王家の姫など)を除き、上級には進ませなくなっていた。ディニィの死を受けて、ルーミの取った政策の一つだ。(前に紹介されたファランダが、女王と同い年くらいだったので、絶対的な物ではないらしいのだが。)


グラナドは中断していた最終試験を受けるために(今更だが)、しばらく魔法院に詰めた。試験官は、直接の師匠は担当出来ないので、ヘドレンチナではなく、別の魔法官が着いていた。その間、ハバンロを除く男三人は、魔法力のチェックを受けた。グェンドリン師、トーマス師という、二人の魔法官が担当した。前者が女性で水、後者が男性で風だ。二人は、魔法院は引退して、故郷で教鞭を取っていたが、クーデター後の人手不足で、呼び戻されていた。

俺に関しては、

「完璧です。教えることはないくらいに。」

という評価だった。ホプラスをベースに、上から付与された能力だ。当然と言えば言える。

暗魔法のファイスは、チェックのしようが無かったが、当然、珍しがられた。ユリアヌスが戻れば、魔法院に復帰するそうで、その時には、いくつか実験に協力して、と、言われた。グェンドリンは、ユリアヌスと、比較的親しかったようで、無属性の研究にも一時携わっていた。

シェードは、「魔法は苦手」と公言していたが、グラナドは、

彼を、

「短絡思考で魔法技術がわからんだけだ。資質は高いほうだ。」

と評していた。それは当たっていて、トーマスは、「キャパがある」という言い方をした。だが、一方で、「魔法官には真っ直ぐ過ぎる」と、冗談めかして言っていた。

「魔法官ってのは、『溜め込む』性格のほうが、向いてますからね。」

言われてみれば、そうかもしれない。確かにがらっぱちな魔法官というのも見ない。


旅は終わり、一年後くらいには解散かもしれない、そう考えた時もある。グラナドの担当は、当面は魔法院と王都の完全復興で、基本は王都を出ない。


しかし、春の初め、ルーミの好きなリョクガクの季節になる頃、俺たちは、再び、旅立つことになった。


年末から新年は、聖女コーデリア聖誕祭だ。王子が戻った事を受けて、女王の意向で、派手な祝い事になった。

しかし、グラナドは王都ではなく、イシアの神殿で過ごすことになった。

イシア神殿は、そもそもは古代遺跡だが、今ではデラコーデラ教の神殿になっていた。代々、神官を除く独身の王女の、教育費として、捧げられている。今では、レアディージナ姫に捧げられている事になる。穏やかな気候の風光明媚な土地で、独特の入り組んだ入江で、各種養殖が盛んだ。ザンドナイス公爵の別荘(今はほぼ本宅になっているが)がある。管理は彼がしているわけだ。

三年に一度、大祭があるが、クーデターで中止されていた。今年は、新年に再開することになり、都にいたレアディージナ姫が出ることになった。

しかし、彼女は、今まで、病気のため、公式行事に、ほとんど出たことがない。また、今はヴェンロイドの気候が合って、これまでにないくらい体調が良くなっているが、新年の式は、屋外である。イシアが暖かいとはいえ、姫には心配だった。

このため、グラナドが付き添う事になり、俺とファイス、シェードとハバンロも同行した。ソーガスの隊もだ。

祭礼は滞りなく終わり(姫は屋内にいたが)、後はもてなしだ。その席に、ラエルの姉妹が現れた。

彼女達は、王都の西のベルシレー(ラビアンカ神殿という、これまた遺跡系の神殿のある、砂浜の美しい海岸の保養地)の別荘に、親戚の見舞いに行くため、途中でイシアを回っている所だった。

出発前にソーガスから聞いた噂話を思い出した。議会で、まだ14にもならないくらいの、若い議員がいた。実際は18だったが、それでも若い。ベルシレーのクキュトー男爵の息子、という話だった。しかし、男爵はかなり高齢で、彼はむしろ、孫の年だった。男爵は何回か結婚していたので、たぶん、最後の妻の子供だろう、とグラナドが言った。それを受けて、ソーガスが、

「三番目の奥様のお子さんですよ。一年ほど前に、五番目の奥様と再婚してます。」

と補足した。彼は、年の差と繰り返し回数が、一時話題になっていた、と付け加えた。

クキュトー男爵は、ラエル家の遠縁にあたるそうだ。見舞いは、おそらく男爵にだろう。

このイシアの再会の時、カオスト公は王都にいたから、偶然と言えばそうだ。が、妹のガーベラは、グラナドにべったりだった。バーベナは一緒にいたが、彼女は積極的には出てこない。ザンドナイス公爵も、後見している男爵令嬢を同席させた手前、文句は言えなかった。

ただし、姉妹の話しには、グラナドが興味を持つ内容があった。

バーベナは、ベルシレーの、ガーベラはイシアの人魚伝説を調べていて、民話から学説にまで、かなり詳しかった。ガーベラは、イシアで海女漁がさかんだった頃の、妖綺談を一つ聞かせてくれた。

「海女は、一年に一度、海中神殿にお参りに行くんだけど、そこで、自分の分身に会う事があったの。分身は顔は自分そっくりで、下半身は魚の姿をしている。でも、会えることは不吉なことで、分身は、海女に忠告を与える。それを無視すると、死んでしまう、という話よ。」

対するバーベナは、オペラにもなった、有名な物語の原点の話をした。

「昔、七色の鱗を持つ、美しい人魚の娘がいて、海岸に遊びに来ていた、領主の息子と恋に落ちたの。この人魚は、人間に化けていたから、彼は気づかなかったのね。人魚は人間になりたくて、良い魔女に相談に行った。魔女は、

『人間の部分と魚の部分を分ければ出来る。でも、魚の部分が死んだら、人間の部分も死んでしまう。お前の魂は、人と違うから、神の元には行けない。

人間の部分が先に死んだら、魚として短い一生を送って死んでしまう。人魚の神殿に魂が帰ることは出来ない』

と言った。

人魚はそれでもいいから、と人間になった。魚の部分は、『七色に光る 珍しい魚で、漁師だった父の形見。自然に死ぬまで大切に育てないといけない。』という事にしたの。領主の息子は、庭に海水の池を作り、そこに七色の魚を飼って、彼女と結婚した。

でも、悪い魔女が妬んで、『七色の魚は 万病の治療薬。』と噂を流した。夫の妹は、長く患っていて、結婚式の後は、とうとう寝込んでしまった。

夫は、悩んだけど、悪い魔女が、言葉巧みに言い聞かせて、七色の魚を殺して、妹に食べさせてしまった。人魚の娘は死んでしまった。妹は助かったけど、人魚の能力を 身につけてしまった。首から下が、鱗に覆われてしまったの。

妹は陸を捨て、海に入った。人魚の夫は嘆き悲しんで、人魚の魂を祀る神殿を作った。その跡地に、今の神殿がある、と言われてるわ。

その妹が生き延びて、人間との間に出来た子孫が、シレーヌ族だというお話よ。」


シレーヌ族、という単語に、シェードが飛び付いた。グラナドも興味を示した。バーベナは、

「シレーヌ族のお話なら、ベルシレーに、民間伝承の博物館があるわ。私は、そこの館長さんから、聞いただけなの。」

と、話題をさらった自分に対する、妹の機嫌を察してか、話を半端に引っ込めた。

グラナドは、戻ると、さっそく、レイーラに話した。彼女は非常に興味を持った。だが、彼女一人でベルシレーに行くわけにも行かない。グラナドは問い合わせの手紙を博物館に送った。レイーラがシレーヌ族の能力を持っていることも書き添えた。館長のユシーロ氏は、粘土板と遺物の写真を数点、送ってくれた。だが、いま一つ不鮮明ではっきりしない。資料集を出版する計画があり、スケッチを勧めていたが、クーデターで中断した、絵師の目処がたったので再開する、完成したら進呈する、と手紙が添えられていた。


グラナドは、現存する、体系化されていない魔法の情報を集めたがっていた。ジェイデアの所と、狩人族の土地と、「未知」の要素を分析したいようだ。

朝は公務、昼は魔法院、夜は読書や書き物だ。机に向かったまま、眠っている時もある。そう言う時は、グラナドを起こすか、侍女を呼ぶかしている。

本当は、起こさないように寝室に運んでやりたいが、誰に見られるかわからない宮殿、抱き上げて廊下を進むわけにもいかない。

ステンドグラスの前で聞いた、グラナドの言葉。あれは、彼の意図とは、恐らく反対に、俺には戒めとなっていた。


緩く凍てついた日が続くうち、カオスト公爵が、ラッシルに行くことになった。去年、ラッシルで捕まった、「ギョロ目の鬼」と呼ばれた、連続殺人犯のクラマーロ・クラマールの件だ。彼が、最後に襲ったのは、裕福な庶民の令嬢だったが、たどっていけば、皇帝の愛人の家系だった。

クラマールは、実はタルコース領の外れの出身らしいが、タルコース家から指名手配中に、カオスト公の領地で、偽名で市民権を取っていた。クラマールは、ラッシルで死刑判決が出たが、執行の承認と「釈明」も兼ねて、カオスト公は、ラッシルに出向く事になった。

このため、ザンドナイス公爵かカオスト公爵の出席を予定していた、「ベルシレー大学」の創立式には、グラナドが出向く事になった。

当初の予定では、グラナドに付き添うのは、俺、ファイス、ハバンロとシェード、ソーガスとオネストスの予定だった。だが、ラエルの姉妹が滞在中とのことで、女王の意向で、ミルファも同行する事になった。

そして、リスリーヌの薦めで、レイーラとファランダも共に行く。レイーラはシレーヌ族の事が気になっていたからだが、ファランダは最初は何故かわからなかった。聞いてみると、彼女は、ベルシレーの出身で、男爵とも、数度だが、面識があったから、らしい。


こうして、予想より、かなり大所帯で、「人魚の街」に旅立った。



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