普通とは?
馬車にから流れる風景は暗い。それでも見慣れたシャボン玉がいつもと異なり、ほのかに光り辺りの木々を照らし森であることが分かる。 物珍しい色合いの木々、絵本にも出てくるお約束なキノコ、そんな情景から見知った場所では無い事が明らかであった。
「キレー」
思わす声が漏れるほど感動したのはいつぶりだろうか。
「アスタ様、アゼラル様より緊急の連絡蝶が参りました。」
「アゼルちゃんからですか?セルちゃん、彼と繋げてくだい。」
セルちゃんの懐から紫羽の付いた一つの目玉が飛び出した。ア~、ア~声を出しと瞬きしている不思議生物、どうやって瞬きして声を出しているのか興味があるが茶々を出さず黙ってソレを見つめる。
『アスタロット、サマ、モウシワケ、アリマセン。ガキ、ニヒキ、トリニカシタデス。 マヨイノモリ、ニゲコム。ゴキョウリョク、オネガイシタイデノス』
やはり、どう見ても口らしき体の一部は無い、目玉一つ。遠目で愛でる様な出で立ちが残念と取るべきか、流石と誉めるべきか悩む。アスタロット様はため息をし、一瞬で馬車の外に立っていた。
しかも、包帯を取り、女の姿に変えて。
「仕方ないですね。丁度、迷いの森に居るのですから。セルちゃん~?マロウを先に私の家まで連れて行ってくださいな。ワタクシはお仕事をしてきます」
「畏まりました。アスタ様、遊びも程々になさってください」
シルバーグレイな長い髪を風に揺らし、包帯から覗いたシワが消えた若々しい美貌は、女の私でさえ心捕らわれる。アスタロット様は妖艶な笑みを浮かべ、手にしたシルクハットを放り投げ蝶と共に消えた。呆然とアスタロット様の消えた辺りを眺めていると、従者席から降りて私の隣に座ったセルちゃんがコロコロとした笑顔で教えてくれた。
「ビックリしておりますね、マロウ様?アスタ様は『男』でも『女』でもございません。ですので、アスタ様のご気分により『男』にも『女』にも成られます。因みに、マロウ様がガン見しておりました生物『連絡蝶』の幼生体で有ります。人間界で言いますと『携帯電話』に当たる生物で、緊急により幼生体が使われ聞き取り難くったのですが、成体ではかなりの役に立つ生物ですよ」
アレが幼生体だったんだ。片言なのも頷ける。しかも、望みが残るよ!
ファンタジー的な生き物として進化する可能性が!
「馬車はオートにしておりますので、僭越ながらボク.....じゃなくって、このセルがお相手お願いいたします」
頬を染めながら言い間違えを直すセルちゃんは、相変わらす棒読みにも関わらすず、見た目同様に幼く思え微笑ましい。いや、年相応で嬉しく思う。
「セルちゃん、無理に敬語は要らないよ?逆に、私は敬語は止めて欲しいかな。アスタロット様が居ない時は普通に話して欲しいな。」
「普通?ですか?」
「そう、普通ね!」
「普通とは何ですか?」
「......はい?」
「普通という概念は何ですか?」
「...............」
普通とは?
①他と変わらないこと。珍しくないこと。当たり前のこと。
②一般に。通常。たいてい。 (脳内国語辞典より)
だいたい、脳内辞典をペラペラめくり出てきた内容ではこんな感じ。
「えっとね~、お腹が減ったらお腹が鳴って、好きな食べ物を『美味しい』と感じたりする。あと、眠くなったら寝る!そんな判断をしたり?」
誰か説明プリーズ!説明下手の私にアドバイスを贈れ!!
「.........怪我したら、魔法無しでは痛いと感じる?......とか?」
「イエ~~ス!!」
私の言葉からのイメージをオドオドと口にするセルちゃんが非常に愛らしい。
それですとも!イメージでなんとなく解ればOKですとも!
それからは、屋敷に着くまで、お互い思い付くまま『普通の概念』を出しあった。
無論、私の脳内ではゲーム画面が展開され、『セルの新密度がUP』とデカでかと出現したのは言わずものですとも。